salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

我が書斎、横須賀線車中より

2018-05-5
ダイバーシティと言うけれど

今年も、恒例のG女子大でのキャリア漫談の季節が来た。
一昨年から3つの輪っかを主なテーマにしていて、「大学生活の見直しにも良いので、出来るだけ年度の早い時期にやって欲しい」と言われ、GW前に登壇した。
毎回事前課題として3つの輪っかのワークシートをやってもらい、その内容も紹介しながら授業を進めて、授業が終わった後に感想レポートをもらい、その追加質問に対して答えて完了という流れ。

去年もそのレポートの一部、感想の幾つかをここで紹介したが、今年は彼女たちからの問いをいくつか紹介してみたい。

(1)上司・部下・同僚との上手な付き合い方は?
(2)色々とやることがある中での、優先順位のつけ方のコツは?
(3)ワーキングマザーのメリット、デメリットは?
(4)学生時代に絶対にやっておくべきこと、やらないと損をするということは?
(5)頑張らなければいけないのに、頑張れない時はどうしたら良いか?
(6)自己分析をしっかりするにはどうしたら良いか?
(7)コミュニケーションのコツや、人脈の拡げ方は?

皆さんなら、何と答えるだろうか?
こういう問いに答えようとすることで、自分の普段の価値観や行動パターンなどを俯瞰して再認識することが出来たりするので、良かったら是非、色々と考えてみて欲しい。

今回、事前課題の中で私が一番印象に残ったのは、ある学生のシートの「やれること(CAN)」の中に「損をしないよう容姿を磨く」と書いてあったこと。
この学生は、公認会計士になるための勉強を既に開始していたり、「やりたいこと(WANTS)」の中に「会計士の仕事、投資、豊かな暮らし、ピアノ・書道・コスプレなどの趣味を続ける」などと書いてあったりして、興味関心の幅も狭く無く、しっかりしている印象。

そこで、授業の中でどうして「損をしないよう容姿を磨く」と考える様になったのか、聞いてみた。
彼女の答えは、
「詳しくは言えませんが、容姿が良くないと損をするなと感じることが実際にあったからです」
であった。

はぁー・・・。
何らかの出来事で、実際に自分か、誰かが傷ついて、そう思う様になったのかなぁ。
『人は見た目が9割 』なんてセンセーショナルなタイトルの本もあったけれど、その内容は非言語コミュニケーションの重要性を説いたもので、容姿という器よりは、仕草、目つき、表情、匂い、色、温度、清潔感、距離感などが大事、と言うのが論旨だった。

でも、事実として、容姿は全然関係ないとは言いにくい。
今の社会の枠組みの中では、特に女性は、美醜で人生が変わってしまうことが確かにあるのかもしれない。

ジェンダーについての複雑な想いは以前にも少し書いたけれど、今回はもうちょっと深く書いてみる。

私の母親は、昔から美人だ美人だとモテはやされ、そのことにプライドを持ち続けてきた人だ。
自分がいかにモテたか、そのことで嫉妬されたかについて、ギャグではなく、また不思議と余り嫌味無く、何度も自慢してしまう無邪気さを持っている。
私は彼女から、「由里子ちゃんは私の様に美人として生きていくことは出来ないから、愛嬌で頑張りなさい」というアドバイスを何度となく受けた。
私が小学校5年生の頃、演劇部に入り、演技が上手だと褒められて調子に乗り、家に帰って「私、女優になりたい」と言ったら彼女は「私みたいに美人ならいざ知らず、貴女みたいな十人並みは菅井きんさんみたいな路線でやるしかなくなるわよ、やめておきなさい」と言い放ち、私もそれに納得してやめておいた。

そんな訳で私は、人の目を気にして自分の容姿を磨くということに余り興味が持てないまま大きくなった。
所謂思春期に入ってもあらゆるオシャレネタから縁遠く、無精で、お風呂上りには何故か顔にメンソレータムを塗り(何故か我が家ではそういう習慣があったのだ)、ドライヤーをかけるという技を知らなかったので毎朝酷い寝ぐせで登校し、夏には海で真っ黒に日焼けして夜は見えないくらいになっていた。

その頃同級生においては、自分がその才能がある、美人であるといち早く気づいて自覚した子達が、高いプライドを持って「どっちが美人で、どっちがモテるか」を争っていた。
鼻の形がどうとか、目がどうとかをいちいち比べ、順位をつけ、雑誌の美容特集にくまなく目を通し、流行のコスメはいち早く試し、スカートの丈に神経質になり、文化祭などのイベントでもらうラブレターの数やボーイフレンドの豊富さを競い・・・

私はそれを横目に、
「私はいいの。愛嬌と個性を武器に、マイペースで頑張るんだもんね~」
と何となく決めていた。
実際、それで十分楽しく良い人生を送ってきているし、それは現在進行形であり、何の悔いも無い。

でも、年齢を重ねるのがひたすら楽しいのは、美醜とは違う部分での価値で評価をされる度合が増し、どんどん自分の心の底にあるコンプレックスから自由になっていくからかもしれないと思う。
もしかして、容姿で戦えなかった、それを諦めたことを背景に、自分がユングの言う「父の娘」になったのかもしれないと思う時もあるくらいだ。

だから、「損をしないよう容姿を磨く」様に考えている学生が居るという事実に当たり、なんだか切なくなってしまった。
女性が依然として入らされている窮屈な枠組みに対して、疲れてしまうのだ。

最近話題になった財務次官のセクハラ問題も。
メディアの記者が政府高官や企業経営者に気に入られ、特別に情報をリークしてもらう「アクセスジャーナリズム」のために主従関係が発生し、時にはセクハラ行為も我慢しなくてはいけないムードがあった・・・・なんて言われているけれど、女性だと全部女性を売りにしないといけないの?
教養を背景にした深い会話とか、一発芸とか、ユーモアで気に入られるってのはダメなの?

一緒に居る相手が良い気分になる様、綺麗で居て欲しい、可愛く居て欲しい、控えめで居て欲しい、尽くして欲しい、つまり、女らしく居て欲しい・・・
ボーイフレンドでもない相手のその期待に、何で答えなきゃいけないの?
到底無理だし嫌なんですけど。
大体、「女性」って大雑把に一括りにしないで、ちゃんと個性で見てよ!

そこから、ダイバーシティについて考える。
その中身の殆どが女性活躍推進に置き換えられ、目標値が管理職や役員数なんて表面的で狭い概念に押し込められているのを見ると、またうんざりしてしまう。

女性の中にも色々と居る。
管理職を目指したい人も居れば、目指したくない人も居る。
その数合わせのために実力が無いのに管理職にさせられる様なことがあっては、本人も周りも不幸だ。
ポジティブ・アクションのレビューをちゃんとやってから考えて欲しい。
何より、今の管理職や役員に、キャリアの目標になる程な魅力が本当にあるのかどうかも、謙虚に考えなければいけない。

そもそも、ダイバーシティというのは、そんな狭い概念の話ではない。

先日、「あなたの考えるダイバーシティとは何かを定義して、その実現に向けた提案をして欲しい」という有り難いオファーを頂いた。お蔭で、これまでずっと考えてきた自分の脳みその中身をまとめる良い機会となったので、ここで少し紹介したい。

私が考えるダイバーシティとは、
「多様な人財が集まり、その才能・能力・個性を存分に発揮し、1人ではできない、また金太郎飴集団ではできない、新しい市場価値を生み出し続けるための経営戦略」
だ。

それって、1をn回加算)>1×n、例えば1+1+1>3、ということ。
三人寄れば文殊の知恵という言葉がある通り、大して新しい概念でもない。当たり前のこと。

それを女性活躍推進、外国人活躍推進、障碍者活躍推進、LGBT支援、宗教対応、などと置き換えてしまうのは、各人の属性やわかりやすい特徴の違いだけを見ている状況であり、ほんの一部分の話にしか過ぎない。
例えば「日本人・男性・50歳・東大卒・仏教徒・性の志向が女性」でも多様な人が居る様に、本当に注目すべき、活かすべきは才能・能力・個性なのだ。

勿論、図にもある様に、理解すべき、場合によっては区別すべき、支援すべき領域というのはある。
例えば、
①雇用形態:同一価値労働同一賃金
②ジェンダー:生物としての差、思考パターンやマインドの差、及び現状差を意識してのサポート、機会の付与、メンタリング、教育 等
③性の嗜好:偏見・差別削減目的での啓発、お手洗いや更衣室などへの配慮、 等
④家族構成・ライフステージ(場合によっては)年齢:結婚・出産予定を踏まえたローテーション、育児・介護支援 等
⑤心身の健康状況・障碍の有無:状況理解、治療支援や避妊支援 等
⑥使用言語:教育、翻訳サポート 等
⑦宗教:HALAL、KOSHER対応、お祈りの時間と場所確保 等
という様に。

でも、これらもダイバーシティとしてやるべきことのほんの一部であって、組織全体として一番やるべき本丸は、
(1)マインドセット
(2)コミュニケーション改革
(3)マネジメント改革
(4)各種制度改革
だ。
そして、当然ワーク・ライフ・バランス施策や働き方改革も、不可分のこと。
これらについては、また別の機会に述べたいと思う。

このダイバーシティにしっかり取り組み、少しでも良い社会にすることで、「損をしないよう容姿を磨く」と言っていた彼女が、「なーんだ、一番大事なのは自分の内面的な才能・能力・個性だったんだなぁ」と実感できる様にしたいなぁ。

個人的にはこの1か月位、とても良い波が来ていて、これまで長いこと考えてきたことと、最近出会った人との会話で出てきたキーワード、facebookの書きこみをきっかけに久しぶりに連絡を取った人との会話のテーマ、新しく挑戦していること、キャリアの学校の仲間から教えてもらった良い本に書いてあったこと、気になって参加した講習会で語られたある会社の取り組み等、全てが繋がって何かに昇華していく感じがしている。
形に出来たら、ここでも紹介したい。

・・・と、学生のお蔭でついつい気合が入っちゃったなぁ。
漫談講義を聴いて下さった皆さん、本当にありがとう。
私も微力ながら引き続き頑張るので、みんなも青春をしっかり謳歌する様に頑張ってね!

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齋藤 由里子
齋藤 由里子

さいとう・ゆりこ/キャリア・コンサルタント(CC)。横浜生まれ、大阪のち葉山育ち。企業人、母業、主婦業も担う欲張り人生謳歌中。2000年からワーキングマザーとして働く中、日本人の働き方やキャリア形成に問題意識を持ち、2005年、組合役員としてWLB社内プロジェクトを立ち上げ。2010年、厚生労働省認可 2級CC技能士取得、役員を降りた後も社内外でCCとして活動継続。個人・組織のキャリア・コンサルティング、ワークショップ、高校・大学生向け漫談講義などを展開、参加人数は延べ4200名超。趣味は海遊びと歌を歌うこと。 2017年からはCareer Climbing~大人のためのキャリアの学校~も主催。

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