salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

我が書斎、横須賀線車中より

2019-03-5
アシンメトリへの憧れ

息子やそのお友達、もしくはキャリア・コンサルティングの場で出会う大学生と話す度に思う。
定期的に試験があって、これから進路を考えて、見通し感の持ちにくい就職活動に入る。
なんて大変なんだろう。
特に試験!
何科目も一遍に勉強をしなければいけないなんて・・・もう二度と出来る気がしない。

だから、社会人大学院に行くことについても尻込みしてしまう。
もう一度座学を沢山受けて、試験を受けて、論文を書く・・・無理だなぁ。
全然やりたくない。

でも、万が一もう一度大学に行くとしたら。
唯一興味があるのは芸術系の大学。
例の3つの輪で言えば、やりたいこと(wants)、出来ること(can)、やるべきこと(needs)のそれぞれの輪が地球と月の間位離れているテーマ。
つまり、自分に才能が無いのは解っているので、実際にやりはしない。
でも頭の隅に小さくこびりついていて、ずっと憧れを持っているのが芸術領域だ。

幼稚園にあがるまではずっと引きこもりで、本を読むか、日記を書くか、絵を描くかして毎日を過ごしていた。
父親が絵を描く人だったので、朝会社に行く前に「今日はこれだよ」とお手本の絵をひとつ描いてくれる。
それはウサギだったり、船だったり、幼児が真似しやすいシンプルな絵。
私はそれを見ながら何度も何度も繰り返し描いて、自分の中でパターンを作る。
するとその絵はまぁまぁ上手く描ける様になったものだ。

工作も好きだった。
幼稚園の時、カラフルな色紙を使って動物をつくるというお題が出た。
私は青い紙を筒型にした胴体を中心に、コマコマと立体的な造形を作り、出来上がった作品は先生にとても褒められた。
自分でも結構自信があったので、それをお友達のお誕生日パーティのプレゼントに持って行った。
渡したお友達はそのウサギを見つめて、ありえないでしょ、という感じで大笑い。
周りのお友達は皆、サンリオショップで買ったきちんとしたプレゼントを持っていて、その時初めて、自分がお誕生日会に呼ばれた時の作法を知らないことを思い知ったという悲しい思い出があるのだけど、でも自慢のウサギだった。

小学校の時も、授業で描いた絵は時々廊下に貼られたり、なんとか展に出されたりした。
でもこの頃から、たかが自分ぐらいの出来で「絵が得意な方だ」と言うのはおこがましいと思う様になった。
自分よりよっぽど才能のある人に度々出会う様になったからだ。

そういう人達は普段は言葉数が少なく、器用さとか容量の良さとかから縁遠く、勉強などもそんなに出来ないタイプが多かった。
彼らは不器用に、コツコツとストイックに作品作りに取り組む。
途方も無く時間をかけた上で、作為無く、意図的でなく、人の心にずーんと来る様な作品を出してくる。
感性をそのままむき出してくる様な。

彼らの作品を見ると、自分が作品を作る時、妙な器用さやあざとさが創造性を邪魔していることを思い知った。
こういじるとこう見えるかなと、知らず知らずに他者の目を意識しすぎたり。
ここはこうでなければいけない、と過去に知ったパターンに何となくはめてしまったり。
結果として作為的、恣意的になったり、いつも同じ様なものになったりしてしまう。

私が最も陥りがちなパターンは左右対称、シンメトリだ。

入社して間もない頃、社内同期の間でアクセサリー作りが流行った。
浅草橋のKIWAというパーツ問屋に皆で通い、色々なアクセサリーを作るのだ。
でも何個か作っている内に、自分の発想の限界で、どうしてもシンメトリに作ってしまうことに気が付いた。
その結果、面白くもなんともない、似た様なものを量産してしまっていた。

多様なパーツを組み合わせ、左右非対称、アシンメトリに作るのが上手い友人も居て、それをお手本にしたいと思ったのだが・・・その組み合わせ方には、断然センスが問われる。
私がアシンメトリに挑戦すると、単なるぐちゃぐちゃになって全然美しくない。
だから順番に、シンメトリに組み合わせるのが無難なのだけど、それでは面白くない。
程なく、アクセサリー作りは止めた。

10年前位、ステンドグラス教室の体験会に行った時も。
欲張って、難易度の高いキャンドルホルダー作りを選び、一通り作り方を教えてもらい、勇んで作り始めたのだが・・・
私が描いたデッサン画は、直線と丸を組み合わせた、やはりシンメトリのもの。
先生は言った。
「いやあ、女性でこういう直線的なデザインを描く人は初めて見ました。お花などの曲線的な絵で作る方が多いんですよ。」
私は笑顔でアハハハと笑い飛ばしたが、心の中で
「ほっといてよ、アシンメトリのセンスが無いんだよ」
と毒づいた。

******

こうして私は自分のセンスの無さを痛感しながら、懲りずに時々モノづくりをして、その度にまた自分のセンスの無さに失望する、ということを繰り返している。
そもそも私の発想は、何故シンメトリにパターン化されてしまっているんだろう?
これを説明するのに上手い表現を見つけたのは丁度10年位前、黒川伊保子先生の講演会を聞いた時のことだ。

黒川先生は人工知能研究者で、脳科学をベースにした感性アナリスト。
コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究でキャリアをスタート。
2003年に言葉が人の潜在脳に与える影響の数値化に成功して、世界初の語感分析法を発表するなど、脳機能論の立場から感性分析をした第一人者だ。

(最近では「妻のトリセツ」という著書が注目を浴びているので、ご存知の方も多いかも?
私の知人はこの本を読んで、
「自分は言ってはいけない言葉ばかり言っていた・・・」
と驚愕。
すぐに反省して、言葉遣いを変えたところ、ビックリする程家庭が平和になったとか。)

彼女の主張によれば、男女の脳は、意外に違うそうだ。
かたち、機能、分泌ホルモンが違う。
そのために、ものの見方や感じ方、快・不快など意識のありようが全く違うことになる。
そして男性能と女性能は、人生に必要な機能を真っ二つに分けて持つペアの装置。
それぞれ機能が違っていて、同時に全く別の答えを出すんだって。

黒川先生はそれぞれをデジタル気分、アナログ気分と呼んで、こんな風に特徴づけている。

●デジタル気分≒男性能
・短い神経線を使い、近い概念の高速処理を行う「デジタル回路」を使う
・数値・論理計算、損得勘定、空間認識に優れており、合理的思考を作り出す
・簡潔な事象を好み、統率、世界の標準、権威主義など、秩序を愛する
・無地、ストライプ、直線、横長、シャープなものなど、簡潔な形が好き
・複雑なことも、簡潔にしたがる(結論から話す(結論しか言えない)、図表好き)
・機能的なメカや、科学技術が好き
・勝ち負けにこだわり、サバイバル意識がある
・必然性、公平、普遍性が好き

●アナログ気分≒女性能
・長い神経線を使い、脳の離れた各所を結びつけて、複雑な事象を認識する「アナログ回路」を使う
・自然現象から気象の変化を読み解いたり、危険察知や獲物の出現を感じ取ったり、顔の認識や空気を読んだりする直感に優れ、情を作り出す
・複雑な事象を好み、多様性を愛する(出来ない子ほどかわいい)
・ヒョウ柄、バラ模様、フリル、流線形のもの、ふっくらとして高さがあるものなど、複雑な形が好き
・左右非対称、重厚感が好き
・簡単なことも、複雑にしたがる(結論から話さない)
・アートなもの、ドラマティックなもの、意外性や特別、例外が好き

この説明を聞いた時、
「出た!私の苦手な左右非対称!アシンメトリ!」
と叫びそうになった。
ヒョウ柄、バラ模様、フリルなんて、嫌い。
無地、ストライプ、直線、シャープなものは、全部好き!

黒川先生は更に説明をしてくれた。
アナログ回路とデジタル回路は、同じタイミングでは働かない。
アナログ回路が強めに働くアナログ気分と、デジタル回路が強めに働くデジタル気分がある。
どちらの気分が働くかはシーンによって違うし、その比率は、性別、年齢によって違う。
女性脳は長い神経線の数が生まれつき多いのでアナログ気分になりやすくて、男性脳はデジタル気分になりやすい。
もちろん、男女共にどちらの気分も持っていて、個人差があるそうだ。

そう言えばずっと昔、アラン・ピーズ/バーバラ・ピーズ著の「話を聞かない男、地図が読めない女」を読んでテストを受けたら、うんと中性的だという結果が出たなぁ・・・
私がアシンメトリが苦手なのは、男性能、デジタル気分が働きすぎるからなのか・・・

片や、芸術的センスに優れていて、天才じゃないかとずっと私が憧れている女友達は、多くの点でアナログ気分に当てはまる。
彼女は頭が良い方なのに、何度も嫌な思いをさせられているダメな男をずっと好きでいる。
彼女自身の気持ちのアップダウンが、モノゴトを更に複雑にさせている。
脳みその構造がシンプルな私などには到底理解できない非合理さ。
そして、彼女が生み出す作品は人を感動させる。まさに、アーティスト。

妙に納得して、私はこの時から、無駄な努力はしないでおこうと前向きに諦めることにした。

でも、私にだって女性能、アナログ気分が働くシーンがある。
アートなもの、ドラマティックなもの、意外性や特別なものは大好き。
ビジネスシーンでは余り見せないけれど・・・
ダイバーシティを推進しているくらいだから、多様性だって愛している。

つまり、アナログ気分とデジタル気分、両方バランスよく持っているとも言えるのでは?
裏を返せば中途半端なのだが・・・出来ればこれを強みに変えたい。

このアナログ気分とデジタル気分の分類は、右脳・左脳の分類にもとても似ている。

◎左脳
・言語や数的処理、論理的思考を司る脳
・情報を知識として認識・整理する役割を果たしている
・左脳派は論理的で冷静、筋道立てて考えること、客観的な分析や計算が得意、几帳面

◎右脳
・イメージ力や記憶力、想像力やひらめきを司る脳
・情報をイメージとして認識・整理する役割を果たしている
・視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感にも関係し、感情をコントロールする
・右脳派は感情表現が豊か、感性が鋭く人の気持ちを汲み取れる、空間認知に長けている

言葉が未発達な3歳前後の幼少期までは、右脳の働きが活発なんだって。
成長するにつれて段々左脳が活発に働くようになって、左脳優位に頭が固くなっていく。
大人になると右脳をいかに使うかが脳を活性化させる一つのポイントになるそうな。

「右脳思考」を著した内田和成先生も、生産性と創造性が劇的に上がる思考法として、左脳だけでなく、右脳をしっかり使うことをお勧めされている。
左脳で考える論理性も大切だけれど、右脳で考える勘・感覚も大事。
左脳と右脳のキャッチボールをしなさいと。

そして、前述の黒川先生曰く、右脳と左脳をつなぐ神経線の束(脳梁(のうりょう))は、女性のほうが男性より約20%太いんだって!

ならば女性であり、中途半端な私にはチャンスじゃない?
アシンメトリは苦手だし、センスの良いアートや天才的なひらめきとは無縁だけど、デジタル気分とアナログ気分の両方を上手に使って、生産性と創造性をあげる努力は怠らない様に意識したい。

って、言葉でクドクド書いている時点で相変わらず優勢なデジタル気分。
脳梁まで男性的で、細くないことを祈りたいんだけどね・・・。

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齋藤 由里子
齋藤 由里子

さいとう・ゆりこ/キャリア・コンサルタント(CC)。横浜生まれ、大阪のち葉山育ち。企業人、母業、主婦業も担う欲張り人生謳歌中。2000年からワーキングマザーとして働く中、日本人の働き方やキャリア形成に問題意識を持ち、2005年、組合役員としてWLB社内プロジェクトを立ち上げ。2010年、厚生労働省認可 2級CC技能士取得、役員を降りた後も社内外でCCとして活動継続。個人・組織のキャリア・コンサルティング、ワークショップ、高校・大学生向け漫談講義などを展開、参加人数は延べ4200名超。趣味は海遊びと歌を歌うこと。 2017年からはCareer Climbing~大人のためのキャリアの学校~も主催。

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