salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

我が書斎、横須賀線車中より

2018-02-5
「トップオタ」と「おっさんレンタル」

去年の夏から、ある面白い勉強会に参加している。
参加メンバーは30人程度、全員違う組織所属、ジェンダー費は男:女=約5:1、年齢は30代後半~50歳位まで。

1年かけて1つのテーマについて議論を行い、発表を行うことになっているのだが、議論の仕方や結論の出し方は全て自由。
今年のテーマは「生きがい」。

最初に訊いた時には、「なんて大それたテーマを出してくれちゃったんだよ・・・」と一瞬呆れたが、奇しくも私のライフワークであるキャリア形成支援やワーク・ライフ・バランス支援と深く関係するテーマ。
何故か30人をまとめるチームリーダーも仰せつかってしまったので、これは相乗効果を出すに限る!と早速得意技のシートを使ってのワークショップなど、色々試してみている。

このチームは、私を除いてかなりのエリートが集まっており、知的レベルが高く、議論も深い。
1を投げてみると10返ってくる面白さ、そこからの気づきの多さに、段々ハマってきている自分が居る。

ここでの議論で見出した考察のひとつは、
<生きがいの方向性として、自分のため⇔社会のため という軸があるのではないか>
というもの。
3つの輪の記事で書いた様に、「やりたいこと」と「やるべきこと」はまさにこの軸に当てはまるので、私的には我が意を得たりでワクワク。

この議論が常に脳みそから離れない状態が続いている中、今回は、私のアンテナに新たにひっかかってきた、
・自分のために邁進する生きがいモデル
・社会のために邁進する生きがいモデル
それぞれの例を紹介したい。

*******

自分のために邁進する生きがいモデルの例は、「トップオタ」。略して「TO」。
あるジャンルやカテゴリ において、他の追随を許さないぶっちぎりのオタク、第一人者のことだ。
「トップオタ」は、「呆れちゃうけど、その実力は認めざるを得ない・・・」「まさにこのジャンルにおける、揺るぎないオタクのトップだ!」 とその他大勢のオタクの中で畏怖の対象となっている。
アイドル関係や声優、特撮など、<ファンとしての対象が実在する分野>、且つコンサートやライブ、各種のイベントなど、<数多くのオタクが実際に特定の場所に集う催しが存在する世界>でよく出現するらしい。

代表例としては、アイドルグループにおける「トップオタ」。
狙ったアイドルグループが無名の頃から追い続け、週に何度もLIVEへ通ったり、他のどのファンよりも多い枚数のCDやグッズを購入したりしていることが特徴。

その購入枚数は桁違い。数百枚単位で購入し、オマケで付いている握手券を確保。
数百枚の握手券を一気にまとめ出しをすることで、握手時間を独占、1時間近くずっと話すことも。
CD自体は捨ててしまうそうな・・・あああ勿体ない。

それだけ買えるんだからさぞお金持ちなのよね?と思いきや、お金持ちのケースもそうでないケースもある。
お金持ちは興味のままに本命を定め、所謂選挙等に大きな影響を及ぼす。
そうでないケースの方は、自らの財力を見極められず、握手会で独占したい余りに競争的に資金を投入し過ぎて時に自己破産、「トップオタ」の座から転落する。
そのお蔭で「トップオタ」の座を勝ち取った方がまた同じ道を辿ることもあるという、過酷な運命。
これ以上買っちゃダメだ、と思って握手会でつい「お金が無いんですよね」と呟き、憧れのアイドルに「無理しないでね」と優しい言葉をかけられて舞い上がり、結局また握手券を買ってしまい「ちょっと副収入があったから」とやせ我慢することもあるという。

週に何度も、しかも昼間に開催されるLIVEに通うために、会社に何と言い訳するのか?
親戚は皆倒し、仮病もし尽くし・・・苦労をしながらも、完全にカムフラージュしきれるものではなく、周囲にすっかり感付かれて怪しまれていたり呆れられたりしているのは言うまでも無い。

彼らのモチベーションは、ただのファンを超え、心の底で「いつか彼女として付き合ってもらえるかも」と妄想、妄信することに支えられており、それが高じてアイドルの実家の場所まで突き止めていたりする。
でも、余りに好き過ぎて、ストーカーになって嫌われるのを恐れ、実際の訪問は我慢するという健気さも。

握手会で長く独占する以外にも、音楽に合わせ、グッズを活用したオリジナルの特殊ダンスを編み出し、毎回客席の最前線で披露して目立つことに徹する猛者も居る。

この情熱、他に向けたらもっとすごいと思うんだけど・・・
でも、この「トップオタ」の生きがいを、気持ち悪いと一蹴することは出来ない。
可能ならば、日常の生活に支障を来たさない程度には抑えて欲しいけれど、何の情熱も無いよりは良い。
沢山お金を使うことである程度の経済効果も生んでいる・・・って無理がある?

*****

「トップオタ」に対する、社会のために邁進する生きがいモデルの例は「おっさんレンタル」。
うちにはテレビが無いので全く知らなかったんだけど、これ、結構話題になってるんだってね?

さっそくHPを調べてみると、手作り感満載なトップページに”おっさん”の顔写真が沢山。
好みの”おっさん”を選んで、ネットショッピングの様にクリックしてカートに入れる仕組みらしい。

“おっさん”の顔写真には「人気」、とか「新商品」、とかサブタイトルがついていて、中には「SOLD OUT」も。それどういう意味よ?

登録されている人のネーミングも、
「東京大学卒業のおっさん」
「眼鏡のおっさん」
「練馬の普通のおっさん」
「パソコンが得意なおっさん」
「元JAL人事、ひとごと世話好きおっさん」
「バク転できる忍者おっさん」
と多種多彩。

中には「Wong Jinglun 34歳 (シンガポール俳優・歌手)」なんてのも居て。
“おっさん”って言うには若くない?

人気なのは「隅田川の河童」という方、写真を見ると実に普通の”おっさん”・・・。
どの辺が人気なんだろう?

相手は問わないから、早く来て!というニーズには「クイックおっさん!」のボタンが応える。

「『おっさんレンタル』って知ってる?」と仲良しの後輩に訊いたら、「ええー!?”おっさん”なんてわざわざレンタルしなくてもそこら辺に一杯居るじゃないですかー!何じゃそりゃー!」と爆笑していたが、案外バカに出来ない。利用者は圧倒的に女性。
需要はかなりある模様で、トップページで「おっさん募集!おっさんが足りません」と急募中。

サービスは1時間1000円で、何でも頼めるらしい。
例えば、暇つぶしの雑談付き合い、内緒話、パシり、子どもの自転車練習付き合い、父親へのプレゼントを選ぶショッピングへのアドバイス指南、運動会の場所取り・・・なんて軽いものから、彼女ができない相談、DIYや引っ越し手伝いみたいな、色々な意味で重いものまで。
中には、手術の付き添いを頼んだら、来てくれた”おっさん”も入院中で抜け出して来ちゃっていて、余りに頼りないし具合が悪そうだから逆に励まして帰した、なんて笑える様な、笑えない様なエピソードも。

このサービス、既に複数の組織が実施しているのだけれど、今のところ値段は1000円で一緒みたい。
彼らが主張する「おっさんレンタル」のメリットをまとめると、
①無償だと他人に気軽にお願いができない、というハードルを越えられる(タダより高いものは無い)
②ネットの世界だけでは解決できない、実際に会っての相談や雑談、リアルに何か困った時の簡単なお手伝い
 をお願いしたい場合に有効
③1時間たった1000円なので気軽にレンタルできる
④”おっさん”も1000円を貰う以上、適当に対応にはできない.でもプロフェッショナルなサービスは求められないので成り手も増やせる
⑤適度な距離感で、気軽に第三者と関わり合いを持てる
⑥人の役に立ちたい”おっさん”と”おっさん”だから役に立ちそうだと考える利用者とのマッチングが可能

リピート率も高い様で、主催者は「登録されている人材が人生経験豊富な”おっさん”だからこそ。若い世代と比べ、時間的、精神的にも余裕があり、異性との出会いや金銭ではなく、人との関わり合いを通じて人生を豊かにしたいと考える”おっさん”世代だからこそ成り立つサービスだと確信しております」とアピール。

なるほどねぇ。このサービスを考えた人、なかなかやるなぁ!
多分、”おっさん”って言葉の響きのカジュアルさもウケてる秘密だろう。
「今の小学生が大学を卒業する頃には、その65%が現在まだ存在していない仕事に就く」なんて言われているけれど、いずれこれもその1つになるか?

“おっさん”が居るなら”おばちゃん”も十分アリだと思うんだけど、と調べてみたら・・・
やっぱりあったよ!
でもまだ試験段階らしい。やっぱり女性は色々と危険もあるからかな?

この「おっさんレンタル」に参加する”おっさん”は、
暇を持て余している”おっさん”、
世話好き、ボランティア好きな”おっさん”、
カウンセラー見習いの”おっさん”、
貧乏だから隙あらば何でもやりたい”おっさん”、
面白い出会いや経験を期待している好奇心旺盛な”おっさん”、
など、それぞれのモチベーションで参加しているのだろうが、少なくとも社会のために役に立ちたいと考えているところは素晴らしい。

「トップオタ」は、単に今まで知らない生態としてビックリしたが、正直、特におすすめしたいモデルではない。でも、後者の「おっさんレンタル」は、是非今後も継続して着目したい。
何故なら、世の中にはワーク・ライフ・バランスや働き方改革推進をされても、「特に趣味も無いし、やることが見つからないし・・・」と困ってしまっている”おっさん”が沢山居るからだ。
会社にも家にも居場所が無くて暇な”おっさん”の有効な新しい活躍場所、社会に向けた生きがいを持てる可能性のある場所として、期待しちゃうなぁー。

ただ、
「写真と全然違う」
「話をしてつまらない」
「遅刻するなど、非常識な行動でムカつく」
という苦情は結構ある様で、なかなか厳しい。
一度ダメだと思ったらリピートもされない。学歴も職歴も会社での立場も関係なく、結局はおっさん自身のヒューマン・スキル、ソーシャル・スキル、人間性がそのまま丸ごと試される世界。
これは、下手な研修よりよっぽど鍛えられるんじゃないの?
むふふふふ・・・

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齋藤 由里子
齋藤 由里子

さいとう・ゆりこ/キャリア・コンサルタント(CC)。横浜生まれ、大阪のち葉山育ち。企業人、母業、主婦業も担う欲張り人生謳歌中。2000年からワーキングマザーとして働く中、日本人の働き方やキャリア形成に問題意識を持ち、2005年、組合役員としてWLB社内プロジェクトを立ち上げ。2010年、厚生労働省認可 2級CC技能士取得、役員を降りた後も社内外でCCとして活動継続。個人・組織のキャリア・コンサルティング、ワークショップ、高校・大学生向け漫談講義などを展開、参加人数は延べ4200名超。趣味は海遊びと歌を歌うこと。 2017年からはCareer Climbing~大人のためのキャリアの学校~も主催。

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