salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

我が書斎、横須賀線車中より

2019-05-5
就職活動って本当にさ!

今年も、某女子大で恒例のキャリア漫談をやる機会を頂いた。毎年、3つの輪っかをテーマにまず学生の皆に語ってもらい、その後自分のキャリア履歴を語るという仕立てにしているが、個性豊かな学生たちのこと、5年目になっても全然飽きない。

今回は、彼女達からもらったフィードバックシートの中で、印象に残ったコメントを中心に紹介させて頂きたい。

「自分には何が出来て、何がしたくてということが見えずぼんやりしたまま社会人になって、与えられる目の前の仕事に忙しくて戦略が無いまま、ずっとキャリアを歩んでいる大人が多いということだろう。中途半端な人ほど自分に向き合わず、時間だけが過ぎて行く大人が多いのだろう」

・・・そうかもしれない。今まではそれでも何とかなった。でも、これからの時代はそうはいかない。

「私は、『明確な目標を持って計画的に人生を歩む』人がすごく立派な人という先入観があり、自分の性格とその人物像が合わずに心がモヤモヤしていました」

・・・その通りで、実際には人生の目標なんてそんなに簡単に見つかるもんじゃないし、計画通りに進むことも少ない。ちゃんと自分と向き合って前向きに一生懸命行動し続けた結果、良いキャリアになるということなんじゃないかと思う。

「キャリア・コンサルタントと聞いて、スーツ姿の堅そうな人が来るのかなと思っていた」
「キャリアの話というと、重たかったり不安や心配要素が増えたりするものだと思っていた」

・・・おーい、誰ですか?こういうイメージを植え付けたのは。そんな堅い、重い話ばかりをしているのは。
大事なことだから真面目に取り組む必要はあるけれど、本来は未来を考える楽しい話なんだよ!

「大学生活に恋愛なんて必要ないと考えていました」
「今まで、実際、恋愛の意味が解らなかった」

・・・おーい、おーい、おーい。どうしてそう思う様になったのかな? 世の中に、恋愛を題材にした歌やドラマや小説はこんなに沢山あるのに。きっと、まだ出会ってないんだよね、本気で好きになれる人に。

今時、こういうタイプは決して珍しくないけど・・・
場数を踏まないと良いパートナーを見極める目なんて養えない(と思うのは私だけ?)。何より、相手としっかり向き合うことで自分とも深く向き合えて、より自分を理解できる様になって、自分が鍛えられるのが本質的な恋愛(浅い恋愛ごっこはこれに入らず)。そこらの研修よりよっぽど効果的、大いにしないでどーする? 勿論相手のあることなので、したくてもすぐにできる訳じゃない。だからこそ、「その人」が現れた時に逃げないでオープンスタンスで居ることが大切。命短し恋せよ乙女。失敗も全て肥やしになるぞ。

「社会人とは、画一的で任された仕事を正確にスピーディにするというイメージで、魅力を感じなかった」
「仕事は凄く嫌なことというネガティブなイメージが変わり、自分もやりたい仕事を見つけたいと思えた」

・・・これも・・・どうしてそう思う様になったのかな・・・。
周りの大人が、そういうイメージを植え付けさせちゃうんだろうか?確かに、辛い仕事、大変な仕事は沢山あるし、どんな仕事でも嫌な思いをすることはある。でも、どんな仕事の中にも創造性を発揮できるところはあるし、前向きに取り組んだら、必ずやりがいを見つけられる部分はあると思うんだけどなぁ。

「やるべきことが多すぎて疲れてしまうことがよくあるが、辛いと思うことを頑張るだけでなく、楽しむために生きてもいいんだと思える様になった」

・・・もしや、周りには修行僧の様な人ばかりが居るのか?それとも、ご自身がドМ体質なのか?
頑張ることは大事だし尊いけれど、人はそれだけを続けることは出来ない。ちょっと見回してみれば、身の回りに楽しみは一杯あるのでは? どこまでも続く青い空、元気にふりそそぐ太陽、目に眩しい葉っぱの緑、可愛い生き物達。美味しいご飯、味わい深い音楽、映画、本、絵・・・。友達や家族、パートナーとの温かい時間。そういうものを楽しむためにこそ、生きているのでは?

「私達の世代は所謂『さとり世代』だと言われることがある。私自身も『好きなことを仕事に出来る人は少ない』『やりがいや、努力のみでは人生うまく行かない』と勝手に思い込んでいた」

・・・それは私もある意味事実だと思うけれど、要は気持ちの持ちようでは?好きではないと思っていた仕事を好きになる瞬間もあるし、一生懸命努力するからこそ恵まれる運や機会もある。

そもそも、「さとり世代」とは何か。
概ね1990年前後生まれの世代のことで、ゆとり世代とも少しかぶるらしい。色々な欲にこだわる煩悩から解き放たれて、あたかも悟りを開いているかのように見えるところから言われる様になったんだって。

主な特徴としては、
・欲が無い、消費や所有に執着をしない、無駄遣いをしない
・無駄な努力や衝突は避け、気の合わない人とは付き合わない
・恋愛に興味が無い
・大きな夢や高望みが無い
・ボランティアへの意欲が高い
といったものが挙げられている。この世代のうちの息子も、大部分に当てはまってるよ・・・。

不況下の日本しか知らないことや、インターネットを使いこなして情報通になったことから彼らの合理的な価値観が作られていて、消費社会から脱して精神的な豊かさを求める様になっていると説明されている。
精神的な豊かさを求めるのには断然賛成だけど、ならばどうして恋愛に興味が湧かないんだろう?

「世代」で括れる程、人の気持ちや思考は単純じゃない。でも、あえてこの世代で括ってみた時、今も根強く残る昭和的な就職活動や人事制度モデルは彼らには全く通用しない。

令和に突入している今、右肩上がりでの昇給や昇格はとっくに望めない時代になっているけれど、そもそも彼らはそんなことを望んでいない。望んでいるのは自分の本質的な成長と、仕事の中にある社会的な意義。省エネ型で熱量が多くない彼らにモチベーションを上げてもらうには、対話と納得感が大事。

そんな彼らに、今の就職活動ってどう映っているんだろうか? 彼らは今、どういう気持ちなんだろうか?

「ある程度満足のいく生活ができる給料がもらえる仕事に就けばいいと楽観的になりつつも、自信の無さと不安で息詰っている」
「まだ2年生、もう2年生で、学校のこと、将来のこと、アルバイトのこと、人間関係のこと、ストレスや不安が一杯で、もう訳が分からなくなっていた」
「大学に入ってからやれTOEICの点数だとか資格を取るだとか、就職で目に付くすぐわかる様なことを増やさなきゃいけないみたいな圧があり、これらが無いと就職活動で戦っていけないと思っていた」

・・・誰ですか?こういう変な圧をかけているのは?
最も大事なことは、まずありのままの自分を認めてあげること。それさえあれば、健全に努力を積み重ねられるし、人生は本当に結構なんとかなるもんなだけど、それが一番難しいことでもある。
そもそもそういう自己肯定感を育む様な環境が与えられていない、そういう教育をされていないんだよね。

そして、本当は大学で何を学んでくるのかということが一番大事なのに、日本の代表的な就職活動、特に文系ではそこが重要視されない慣習のために、小手先の英語の点数や資格を取ることに走り勝ちなのも嘆かわしい。かくいう私自身も法学部法学科の出身だけれど、ちゃんと勉強もしていなかったし、全くその学科を活かさずに、そして超日本的企業に就職しているので、この辺は自戒して天に唾を吐くつもりで書く。

日本以外の国では、新卒か既卒かは殆ど問われない。空いたポストに必要なスキルを持った即戦力を取るだけというシンプルな仕組み。だからこそ、大学で何を学んできたかは重視される。
そして、成果を上げれば雇用が継続され、昇給や昇格もあるけど、成果を上げなければクビ。とにかく明解。ジックリ育てる様な研修などが無い企業も多くて、キャリアは自己責任という厳しい世界。その分、組織と従業員は雇用契約で結ばれたドライな関係でもあり、お互いに切磋琢磨される。

日本の大きな組織における文系採用では、未だに就「職」ではなく就「社」させて、自分の組織の色に染め上げたい、という下心で新卒採用を続けている。そこで問われるのはスキルの前にロイヤリティ、もっと言えば従属度。仕事のことは就職後に学び始めればいいという考え方も根強い。
(理系採用では必ずしもこの限りではない。そもそも文系・理系という分け方自体が良くないという論もあり、私もその意見に賛成。でも今日は紙面が足りないのでこの話はまた別の機会に。)

だから、まだまだやっている、何とも画一的な新卒一括採用!
個人的には去年10月、経団連の中西会長が「就活ルール」を廃止すると出した方針には大賛成だった。
その背景には、日本固有の慣習である新卒一括採用への問題意識があり、見直したい意思があったから。でも、現実としてまだ新卒一括採用は続けられていて、無くなったのは時期の縛りだけ、その分早期化が激しくなっただけ。学生も先生も大変だし、一部の大学で変な意味での就職予備校化も進んでしまっている。

街中で見た時、就活中の学生は一目でわかる。皆同じ様なリクルートスーツ、カバン、髪型で決めているからだ。私も自身が勤める企業で採用活動に関わる時、この一様さにはいつも眩暈がする。ここは北朝鮮か?学生の個性が全然わからないじゃないか!私は溢れる個性が見たいのに!

中途採用者も大分増えて、労働市場の流動性は確実に高まっているけれど、その傾向がもっともっと強まると良いのにと思う。それが進まないと新卒一括採用も辞められないだろう。

新卒一括採用をまだ暫らく続けなければいけないのであれば、せめて、もっと自由に出来ないのかな。

まず、今の学生は結構一生懸命勉強をしているので、面接ではもっともっと そこを聴こう。何を学んで、その中の何が面白いと感じて、何がためになったと思うか?その中で、社会に出てから活かせそうだと思うのはどんな点か?それは何故か?これからも学びたいのはどんなテーマか?

ここで展開される考え方を聴く中で、そのお人柄や思考の浅さ深さ、論理性や創造性がよく解るだろう。
そして、こういうことをちゃんと聴けば、何かのお役目でリーダーをやった人ばかりが優位な就職活動ではなくなるだろう。何より、キャリアの自己責任度がますます高まっている昨今では、学んだ実績と学び続ける意思はとても大事だ。

そして、履歴書も決まったフォーマットは使わないことにするのはどうか?A41枚の白紙に、自由に書いてもらって、アピールしてもらう。そうすれば、採用側も写真を張り替えたら同じになってしまう様な、似た様な履歴書ばかりを沢山見る必要が無くなる。質を見極めるのは大変だけれど、もっと楽しく、マッチングもしやすくなってくるだろう。学生側も準備をするのが大変なので、もっと考えて志望先を絞るだろう。

服装も、リクルートスーツは禁止にして、自分を表現する手段の一つとして自由にすれば良い。学生からしたらハードルが上がるかもしれないが、無理して合わせたところで自分が苦しくなるだけ。飾らない自分を見てもらって、それで気に入ってくれる会社ならきっと働き心地が良いに違いない。採用する側にしても、スーツで三割増位にカモフラージュされている姿に必死に探りを入れるよりも解り易くて良い。何より、金太郎飴集団では勝てないダイバーシティの時代、いっそ多様な個性を採用したらいい。

これは随分昔に実践した例を知っている。私が敬愛するある友人は今から25年前、最初からスーツを着ないことを決め、大好きなワンピースであちこちの会社を周り、「こんな個性の私を気に入って採用してくれる会社を探しています」と宣言していたのだから恐れ入る。

同じ時期に就職活動をしていた私は、お恥ずかしながらそこまで自分のことを自分で理解できていなかったので、一応普通にリクルートスーツを着て(時代的にはまだ紺一色ではなかったけど)いた。そして、自分が名前を知っている数少ない企業の内、消去法でやりたくない業界を消していき、不況に強そう、女性の離職率が低い、一般職から総合職への転換制度がある、などの打算的な理由で、とても安易に今の会社を選んだ。
何故なら、ジャーナリストという淡い夢が破れた後は他に興味のある職種や業界が無くて、ただ単に食いっぱぐれない様に働き続けたいという低めのモチベーションしかなかったからだ。それでも結構前向きに楽しく働き続けることが出来ているんだから、この運とご縁とタイミング、私の様な自由人をクビにしないで雇い続けてくれている会社の懐の深さ、何よりいつも支えてくれる多くの先輩や戦友達には感謝しかない。

学生のアピールの仕方だけでなく、企業側の選抜の仕方自体にももっと個性があって良いと思う。お決まりのSPI・筆記試験・面接だけじゃなくて、自分の会社らしさとは何なのか、文字情報だけではない個性を突き詰めて、選抜のプロセスで表現するのだ。例えば食品を扱う会社なら、調理をさせてみるとか?車を扱う会社なら、洗車をさせてみるとか?そうすれば、学生の方でも試験を受けている間にこの会社に合うのか合わないのか、もっとハッキリ感じることが出来るだろう。

例えば私が注目している「面白法人カヤック」では、就活のルールは一切なし。学歴や卒業時期は問わず、新卒でも、既卒でも、中退でも、転職でも、随時募集中。
自由なのは採用時期だけじゃない。エントリーや選考の方法も色々な形があって決まっていない。人事の方に話を聴いてみたところ、世の中に無い発想をする人を採用したくて、どうやったら変わった人財が入ってくるか、ずっと試行錯誤しているのだとか。ゲームをやって一番強い人を決めるとか、鬱になって休んだ経験がある人だけ集めるとか、そういうことを真剣に考えている文字通り面白い法人だ。HPからして既に面白いので、是非チェックしてみて欲しい。

少子高齢化で人財争奪戦になっている今、工夫をして良い人財を採れる会社と、いつまでも変われないで採りっぱぐれてしまう会社に二極化する時代は、もうとっくに来ている。

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齋藤 由里子
齋藤 由里子

さいとう・ゆりこ/キャリア・コンサルタント(CC)。横浜生まれ、大阪のち葉山育ち。企業人、母業、主婦業も担う欲張り人生謳歌中。2000年からワーキングマザーとして働く中、日本人の働き方やキャリア形成に問題意識を持ち、2005年、組合役員としてWLB社内プロジェクトを立ち上げ。2010年、厚生労働省認可 2級CC技能士取得、役員を降りた後も社内外でCCとして活動継続。個人・組織のキャリア・コンサルティング、ワークショップ、高校・大学生向け漫談講義などを展開、参加人数は延べ4200名超。趣味は海遊びと歌を歌うこと。 2017年からはCareer Climbing~大人のためのキャリアの学校~も主催。

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