2018-12-25
夢を見ていたのは②
(前回のあらすじ)札幌から上京してはじめて過ごすクリスマス。姉に誘われて参加したクリスマスパーティで出会ったのはサンタクロースを心待ちにしている子どもたち。喜びで過ごしたこの日がすべての始まりでした。
2004年11月中旬。空気が冷たく冬めいて感じるようになってきた頃、駅周辺や街には色とりどりのイルミネーションが点灯し始めた。「今年もクリスマスパーティをするのだけれど、サエコも来ない?」姉からのメールで、ふと1年前を思い出す。サンタクロースを前に喜んだり泣いていた子どもたち。可愛い後ろ姿。姉からのプレゼント。
昨年は上京したばかりで何も考えられなかったけれど、実はあのクリスマスパーティの後からずっと、機会があれば子どもたちに何かしたいと思っていたのだ。
もしクリスマスの朝、枕元に「プレゼント」があったら喜んでくれるだろうか?もちろん、サンタクロースからのプレゼントの邪魔にならないよう隅へ置いてもらえたらで良いし、親御さんがOKしてくれたらの話。さっそく姉へ相談したところ、みんなへ連絡をとってくれた。全員OKだって。やったぁ!
もうすぐ12月。クリスマスはもうすぐだ。私のエンジンがかかった。一人脳内会議を開始。プレゼントは、チョコレートやビスケットをラッピングするのはどうだろう。いつもなら「今日はもうやめなさい。」とか言われそうな甘いお菓子。クリスマスだから許してもらえそうじゃない?そうだ。メッセージカードも添えよう。せっかくだから手作りのやつ。小学生のときに描いたキリンは犬に間違えられたし、大人になってからも絵心はまったく無いけれど。いいのいいの。こういうのは気持ちが大事。よし決定。
メッセージカードの材料を買うなら、手作り用品を取り揃えているユザワヤがいいと同僚が教えてくれた。方向音痴の私は一番近い吉祥寺店へ行くだけで大冒険。お店は隣接していると聞いていたから安心していたけれど、改札を出て左右を確認。隣ってどっちへ行くと良いのでしょうか。もはや頼れるのは通りすがりの人しかいない。スミマセン。ユザワヤへ行きたいのですが。
画用紙を選ぶ。同じ色じゃつまらない。あの子は水色のイメージ、あの子はオレンジかな。ペンもたくさんの種類があった。もこもこペン?どうやら描くと立体的になるらしい。よし、採用。このシール可愛い!はい、採用。
その日から我が家は工房になった。仕事から帰ってくるとご飯は二の次。ひたすらカードを作る。これならできるかもと買った「切り絵」の本。トナカイやツリーを手本に合わせて切っていく。気がつくとあまりクリスマスに関係のない動物もいたけれど大丈夫と信じたい。クリスマスツリーの形にした切り絵はラメ入りの糊でキラキラさせて、白のもこもこペンは雪に見立てた。名前とメッセージは英語にしてカードの消印は12 月25日。もちろん手書き。
12月中旬。街はクリスマス一色になっていた。見ているだけで楽しくなるカラフルなお菓子の中からチョコレートやビスケットを選び買物カゴへいれていく。コインの形をしたチョコレートは絶対欲しいところ。昔から大好きなんだよね。たくさん買ったお菓子を部屋いっぱいに並べ、数をあわせてラッピングしていく。赤・青・オレンジ・ピンク。色とりどりの画用紙で作ったメッセージカードを1枚ずついれて完成~っ!
出来上がった「小さなプレゼント」は、クリスマスの数日前に各家庭へ届けた。子どもたちに見つからないように。静かに。水面下で。そして、いつ、どのように渡すかはそれぞれの家庭へお任せした。
クリスマスの数日後、待っていないフリをしながら待っていた私に姉や友人から連絡がきた。子どもたちはクリスマスの朝、サンタクロースのプレゼントと一緒にお菓子のプレゼントを見つけて喜んでいたそう。「サンタさんってすごいね。プレゼントにおまけまでつけてくれるんだから!」そんな声も聴こえてきてなんだか嬉しかった。
それから毎年12月になるとユザヤワと雑貨屋をまわり、昨年より大きくなった子どもひとりひとりを思い浮かべながら喜んでくれそうな小物を探した。まだ小さなあの子はミニカー。去年より少し大きくなったあの子には可愛いシール。お菓子をラッピングして最後にはいつもメッセージカードを添えた。
あるとき、友人夫婦へお腹の赤ちゃんに向けて作ったメッセージカードを渡した。「この世界は楽しいことがたくさんあります。あなたが生まれてくるのをみんなで楽しみにしていますね。」メッセージを読んで友人夫婦が喜んでいる姿を見てまた嬉しくなり、その日をきっかけに友人や同僚に赤ちゃんができるたびにクリスマスになるとメッセージカード入りのプレゼントを作るようになった。気がつくとプレゼントの数は16、7個に。
4、5年経つと、子どもたちは大きくなってきて「サンタクロースが来るまで起きている。」と眠らないように頑張る子もいたけれど、結局、夜中の12時を越える前に眠ってしまいサンタクロースに会うことはできないままだったし「サンタクロースはいる、いない。」よりも「サンタクロースは良い子にしていれば来る。」という方が重要でクリスマスが近くなると気のせいか、子どもたちはいつもより良い子になっていた。
そのなかでも、まだ幼稚園児だった甥っ子はある日、貴重なサンタクロース情報を入手してきた。「サンタクロースにはクッキーとミルク、トナカイには人参を置いておくと食べてくれる。」のだと。どうやら忙しいサンタクロースとトナカイを労うオヤツらしい。数日後、姉家へ訪ねると甥っ子は「クリスマスの朝起きたらクッキーとミルクが無くなっていて、人参は半分だけ食べていたよ!」と目を大きくしながら話してくれた。サンタクロースは来たと確信している目だ。私も嬉しくなって「すごい!いつ来たんだろうね。姿は見なかったの?」と一緒に喜んだり、会えなかったことを残念がった。
小さなプレゼント作りも6年目のクリスマス。東京には珍しく雪がしんしんと降り続いていた。仕事終わりにポストを開けると1枚のハガキが届いていた。送り主は名古屋へ引っ越していった友人夫婦。昨年のクリスマスにはお腹に赤ちゃんがいた。ハガキの裏には無事に女の子が生まれ、すくすく育っている報告。そして次に書かれていた言葉は私の心をとても温かくしてくれた。「いつまでも皆から愛されるサンタさんでいてください。」
翌年のクリスマスはポストが開かなかった。ぎゅうぎゅうと何かが押し込まれている。やっとのことで取り出すと北海道の友人からだ。荷物を開けてみると、ふわふわの白いセーターが入っていた。手紙の内容から、プレゼントは子どもの枕元へ置いてくれたらしい。「息子がサンタクロースを信じていると思っていなかったのでとても驚きました。そんな息子を見ることができて本当に嬉しかった。有難う。」と書かれていた。子どもはサンタクロースからのプレゼントと間違えたみたいだったけれど、家族で喜んでくれたことが嬉しかった。
2014年12月、小さなプレゼント作りも10年目。幼かった子どもたちも一番上は中学2年生。私はと言うと2年ほど前から大きく生活環境が変わり、家にいる時間が少なくなっていた。その前の年からメッセージカードを作る時間が足りなくなっていて、迷いのなかにいたことも事実。もともと2つのことを同時にできないところがあり、今後、メッセージカードとプレゼント作りを続けるか止めるかをたくさん考えた。皆の喜ぶ顔を見たい。だけど、だけども。時間に余裕がないことや子どもたちが大きくなってきたこと。何度も考えた結果、区切りをつけることにした。大袈裟かもしれないけれど私にとっては大きな決断だった。自分が思っている以上に12月は特別な月になっていたのだ。
ママ友や友人、同僚へ今年で最後になることを伝えて作った小さなプレゼント。10年前は不器用すぎて自分でも苦笑いするほどのメッセージカードも、多少は可愛くなっていたような気もする。ひとりひとり名前を書いたメッセージカードを添えて北海道や名古屋、札幌へと発送。すべての到着を確認した。楽しかったなぁ。子どもたちのお陰で10年もの間、喜びの心で過ごすことができた。
クリスマス当日。電話が鳴った。夫婦でレストランを経営している友人からだ。クリスマスの繁忙期ということもあり、毎年子どもたちへのプレゼントを喜んでくれていた。
「もしもし、サエコさん。今、大丈夫ですか?」
仕事の合間に外から電話をしているらしく車の音や雑音が聞えてくる。
「うん。大丈夫だよ。何かあった?」「どうしてもお礼を伝えたくて。今まで本当に有難うございました。」そう言って彼女は少し声をつまらせた。
「こちらこそ、ヘタなメッセージカードだったけれど、受け取ってくれて有難う。すごく楽しかった。」
「あの。いつか、いつか子どもたちが大きくなったら、あれはサエコさんだったんだよって教えてあげても良いですか?」
サンタクロースでも無いし、あのヘタなメッセージカードを作ったのが私だと子どもたちにバレるのもちょっと恥ずかしいけれどなんて返事をしていいのか分からなくて「もちろん。」と答えた。同時に少しだけ泣いてしまった。
彼女は続けてこう言った。
「夢を見させてくれて有難うございました。」
そして気がついた。夢を見させてもらっていたのは私だったと。
あれから4年経つけれど、今も消えることのないこの温もりは、
私がサンタクロースからもらったプレゼントなのかもしれない。
皆の夢が叶いますように。Merry Christmas!
1件のコメント
少しお金に余裕があるときは、やや高いものを買い、サンタになりすまし、プレゼントしたこともありましたが、手作りのもので、ふざけたことも多々ありました。というより、今年も手作りのプレゼントを孫たちに贈り、顰蹙を買いました。今年は、クリスマスツリーを作りました。新聞の折り込み広告で。ひどいものです。でも、そんなひどいものでも、今の時代には見た事がないので、三歳の子は、結構喜びました。それから、指輪もネックレスも。それは、宝飾の広告を切り抜いて、輪っかをつけて、指にはめられるようにするのです。ダイヤモンドからエメラルド迄、豪華絢爛な紙切れのプレゼントです。さすがにそれだけではまずいので、ちょっとした買い物をして、枕元には置きましたが。いずれにしても、プレゼントは、もらうのはもちろんうれしいけれど、何をあげようと考え、選んだり、作ったしている時間が、本当に自分へのプレゼントですね。まったく同感です。
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