salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

晴レルヤ!

2018-12-5
夢を見ていたのは①

私の勤務する職場のすぐ横には目黒川が流れていて、川沿いは桜並木の遊歩道になっている。春には優しい色をした桜が咲き、夜桜を楽しむこともできる。隣の五反田駅までは歩いて10分ほどの距離。天気の良い日は気持ちがいいので、よくこの遊歩道を通って帰る。
11月初旬。仕事終わりに職場のビルを出た瞬間、思わず「わぁ。」と声がでた。川沿いの桜並木がピンク色に染まり、まるで冬の桜みたいにキラキラと輝いていた。そうだ。この時期になると五反田の水辺公園を中心に桜並木へ電球が装飾されるんだった。橋の上から見ると川沿いのイルミネーションやビルの明かりが水面へ映り、ゆらゆらと揺れて幻想的。もう少しでクリスマスか。ふと、東京へ来て初めて過ごしたクリスマスパーティを思い出した。

15年前の秋。札幌から上京してすぐ渋谷にある会社で働きだした私は、一人暮らしに新しい仕事、通勤でカバンがペチャンコになったり身体が反り返ったまま身動きのとれない満員電車など、初めてづくしの慌ただしい毎日を過ごしていた。2ヶ月ほど過ぎた頃「今年のクリスマス、友達とパーティするんだけれどサエコも来ない?」そう誘ってくれたのは4歳年上の姉。まだ小さな子どもがいた姉は数人のママ友とクリスマスパーティを計画していた。
クリスマス!すっかり忘れてた。実家に住んでいた頃は毎年、母が用意してくれるローストチキンやケーキでお祝いしたり、友人と過ごすことが多かったので大勢でクリスマスパーティをしたという記憶が無い。実は皆で過ごす賑やかなクリスマスパーティってものに憧れていたんだよね。もちろん答えはイエス!当日は早めに姉の家へ行き準備を手伝うことに。
クリスマスを意識すると、色々なものが目に入るようになった。職場がある渋谷の街は、色とりどりのイルミネーションが装飾されていたし、店の前を通ると流行りのクリスマスソングが聴こえてきた。街全体がいつもより明るく華やいで見えたしなんだか皆、浮かれているような気さえする。

数日後、仕事帰りに姉の家へ寄ると玄関に可愛いリースが飾られていた。まだ字の書けない甥っ子はサンタクロースへ書いた絵手紙を見せてくれ「あと、3回寝るとサンタさんが来るんだよ。」と、指折り数えてサンタクロースを待っていた。クリスマスの朝、枕元にあるはずのプレゼントを見つけて喜ぶ甥っ子の姿を想像すると私までなんだか楽しみになってきた。

パーティ当日。準備のため早めに姉の家へ。チャイムを鳴らしドアを開けると料理のいい匂いがする。部屋の奥からはBGMが聴こえてくる。もちろんクリスマスソング。姉はキラキラしたモールを手に、レイアウトを考えながら飾りつけの真っ最中。昔から姉はセンスがいいのだ。
「いらっしゃ~い。」「いらっしゃいましたー。何か手伝う?」「モールをここへつけてもらってもいい?」姉からモールを受け取った私は椅子に乗り、天井近くへ飾りつけをはじめた。いくつか飾った後、ふと椅子の上から部屋を見回した。クリスマスカラーのテーブルクロスに可愛いお皿やコップ。テーブルの中央にはオーナメントやキャンドルが置いてある。なんだか部屋全体がこれから始まるパーティを暖かく包み込んでくれている気がした。
飾りつけが終わる頃、出来立ての料理がテーブルへ並んだ。唐揚げやフライドポテトにウインナー。子どもたちの好きなものばかり。人気のフルーツポンチには缶詰の甘いシロップとソーダを入れる。シュワシュワのあとパチパチと弾けるソーダ。彩りのきれいなフルーツがたくさん入っていて、まるで宝石箱みたい。

パーティの時間が近づき姉の友人が続々とやってきた。子どもは全員で10人ほど。赤ちゃんもいた。世間は少子化と言われてるけれどここにいる皆には関係無さそうな。
子どもたちは、思い思いにサンタクロースの帽子や、トナカイのツノをつけている。私は姉の家にあったパーティコーン。アゴ紐が少し恥ずかしい。「メリークリスマス!」の乾杯でパーティが始まった。美味しそうに料理を頬張る子どもたち。赤ちゃんへ離乳食を食べさせているお母さんを見て「赤ちゃんはクリスマスも離乳食なんだな。」と、ひとり納得したりして。

子どもたちが食事を終えた頃、部屋の電気が消えた。さぁ、ここからはサプライズの始まり。
…シャンシャンシャンシャン。どこからともなく聞こえてくる鈴の音。だんだん近づいてくる。
姉が子どもたちへ声をかける。「みんな、何か聴こえてきたよ?何の音かな?」キョロキョロと見回す子どもたち。「あれ?誰か来たみたい。誰かなぁ。」一斉に玄関を見た。と、ドアが開き姿を現したのは。そう、サンタクロース!トレードマークの服に白いお髭、大きな白い袋まで持っている。

「サンタさん!」と喜ぶ子、お母さんの後ろに隠れて目だけ覗かせる子、コワくて泣きだす子。サンタクロースを目の前に、ひとしきり盛り上がったところで姉が子どもの名前をひとりずつ呼んだ。呼ばれた子がサンタクロースの前へ行くとプレゼントを渡してくれ、頭を撫でたり握手をしてくれた。泣いている子は、プレゼントを貰うどころではない。お母さんに抱えられ、サンタクロースの前へ。もはや連行。そんな姿も微笑ましかった。プレゼントを渡し終わると、サンタクロースは帰る時間。子どもたちへ「サンタさんは次のお友だちへプレゼントを渡しに行かなくては行けない。」と説明し、玄関でサンタクロースを見送った子どもたち。ドアが閉まった。と、同時に子どもたちが一斉に玄関の反対側にある窓へ走りだした。そして、まだ背が届かなくて見えないはずの空へ向かってこう叫んだ。
「サンタさん、ありがとぉ。バイバァーイ!」「サンタさん、バイバァーイ!」
可愛すぎるやろーっ!!そしてまた子どもたちの後ろ姿が愛らしいこと。サンタクロースを純粋に信じている子どもたちを目の前にして、夢のある時間を過ごしたり、夢を信じる世界はなんて素晴らしいのだろう。そう思った。
サンタクロースにも会えてケーキも食べて元気いっぱいの子どもたちは遊びまわっている。大人も料理やお酒を飲みながら楽しそう。お腹がいっぱいになった私は、仰向けで遊んでいる赤ちゃんの隣へ寝転んでみた。小さな手。指。一丁前に爪だってある。人差し指を差し出すとぎゅっと握りしめてくれた。あぁ、可愛すぎる。近くにあった本棚から絵本を出して読んでいると小さな女の子がヨチヨチと歩いてきて私の隣へ寝転んだ。せっかくだから絵本を読んであげようと読み始めたのもつかの間、女の子は途中で飽きてしまったようだし、赤ちゃんに至ってはリアクションが薄かった。絵本は最後まで読めなかったのけれどアザラシの親子のように3人でゴロゴロしているだけで、子どもたちが心を許してくれた気がして嬉しかった。そんな風にしていると、別の子はうつ伏せになっている私の上をハイハイしながら横断していった。子どもって自由。

パーティも終わりに近づき、姉が側へきた。「はい。サエコへクリスマスプレゼント。」そう言って渡してくれたのは、靴下の形をした可愛い巾着。赤と緑のクリスマスカラーだ。姉の手作りと聞いて感激していると「中にプレゼントが入ってるよ。」「えっ?」巾着を開けてみた。出てきたのはハートのネックレス。嬉しくて心から感激したこの瞬間を今でも覚えている。

東京へ来て初めてのクリスマスパーティは、感動と喜びに溢れる日になった。

(つづく)

電車や車から東京タワーを見る機会がある。そのたびに視界から消えるまで眼が離せない。東京のシンボルだからという理由ではないはずだ。数年前のクリスマスイブ、東京タワーが装飾されフラッシュライトが点灯したりハートのイルミネーションが見られると聞き足を運んだ。いつも遠くから見ていた東京タワーの真下へ立ったとき、その迫力に思わず息を飲んだ。私は東京タワーに魅せられていたんだ。(撮影:筆者)

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1件のコメント

二十歳をすぎた頃だったでしょうか。渋谷でのクリスマスです。パルコに行く途中のまんとか劇場という、有名な小劇場に、よくいっていたことがあって、そこで、確かシェイクスピアシアターというグループの演劇を、何度か楽しみました。劇団員が普段着とパイプイスで、マクベスとか、シェイクスピアの演目を演じるのです。まあ、練習風景みたいなものですが、なかなか新鮮で、ユーモアも交え、愉快な劇団だったんです。だけど、クリスマス公演を見にいったときです。フィナーレで出演者が登場して、二三十人の観客とともに、クリスマスを祝いましょうと、フレンドーな空間が突如生れ、他の観客たちは、サプライズを歓迎し、楽しそうでした。けれど、私は、あのときほど、孤独を感じたことは、他になかなかありません。誰かとクリスマスを過ごしたいという欲望は、それほどなかったはずなのに、知らなかった自分の生傷を、無遠慮に触れられた思いがして、その場からすぐに立ち去ったのを思い出します。クリスチャンでも信心深いわけでもないのに、クリスマスは二十歳過ぎまでは、確実に自分の中にあったようです。それから東京タワーは、スカイツリーより、美しいですね。

by EN - 2018/12/06 2:47 PM

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若林 佐江子
若林 佐江子

わかばやし・さえこ/北海道出身。平日はOL、土曜は訪問ヘルパー。休日は山へ登っているか、南三陸・福島・岩手を中心に東北復興のお手伝いをしています。自然、人、温泉、寝転ぶのが好き。得意なことはメカブ削ぎ。夢は東北の方々のお手伝いをしながらレポートし、現地の方のお役にたつこと。

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