salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

晴レルヤ!

2018-09-5
打ち上げ花火②

(前回のあらすじ)
小さい頃から手紙や詩を書くのが好きでした。でも!ポエマーとかロマンチストとか絶対言われたくなかった私。社会人になり夢中になったのは誰にもバレず言葉が紡げるホームページ作り。だけど上京を機に詩や思いを綴るのを止めました。15年経ち、ふと自分の心に素直になったとき、やっと気がつきました。私がやりたかったことは文章を書くことだったのです。
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ムラセさんは最後まで話を聞いてくれ、こう言いました。
「僕から誘いたいくらいだったよ。」

私は昔から「将来、なりたいもの」を探していました。そう。子どものときによく聞かれる「将来の夢」です。友だちのなかには幼稚園の先生や看護士さん、消防士という小さい頃からの夢を叶える人も多く、いつか私も「夢」が見つかるだろうと思っていました。けれど、20代になってもなかなか見つかりませんでした。夢や目標をもち、才能を開花すべく歩んでいる周りの人たちはキラキラ輝いて見え、羨ましく思いました。そして探しても見つからない自分にほんの少し、いいえ、本当はとってもがっかりしていたのです。ことあるごとに自分へ「わたしがやりたいことは何だろう」と考えても見つからないことに、とうとう疲れて「夢」を探すことを諦めることにしました。

小さい頃から人が好きです。笑顔を見たり喜んでくれることが嬉しくて、できるかぎり出会いが良きご縁となるよう大切にしてきました。「夢」を探すことをやめたとき、見つからないものを探すより、人に喜んでもらえることをしよう。必要としてくれるところへ行かせてもらおう。自分に出来ることをさせてもらおうと、今まで以上に出会いを大切にするようになりました。そうするうちに私はどれだけ周りの方に支えられ、守られ、許してもらっているかを感じ、お陰さまという感謝の気持ちが湧いてきました。出会う人は宝となり、人生の先輩たちのうしろ姿を見て人としてどう生きるべきかを学ばせてもらいながら今日まできました。
 
「文章を書いてみたい」と言葉があふれたとき、自分自身、どうして泣いているのか分からなくて、とまどいました。私に夢は無いと思っていたからです。けれど「僕から誘いたいくらいだったよ」というムラセさんの言葉を聞いたとき「やっと、見つけたね」と、だれかにそっとメダルをかけて貰ったような気持ちになりました。夢はあった!私は昔から「文章を書きたい」という夢を持ちつづけていたんだと嬉しさがこみあげてきました。
ムラセさんは、続けてこう言ってくれました。
「ウェブマガジンのさりとてを編集している人に会う予定があるから、伝えてみるね」
「さえちゃんが来たら、きっと楽しくなるよ。」
ムラセさんは優しい。いくらなんでもそんな簡単に話が進むわけないのに、きっと気を使ってくれてるんだろうな。その日はそんな風に思っていました。数日後、ムラセさんから連絡が来ました。なんと、さりとての編集の方とお会いできることになったのです。
 
当日は東京に住み15年目にして覚えた、渋谷駅にあるハチ公の銅像前でムラセさんと待ち合わせをしました。私の緊張を余所に「しっぽ側にいます」とムラセさんからのLINE。負けじと「では、私は頭側にいます」と返信。こんなやり取りで緊張がほぐれていきました。
お店へ到着すると先にいらした女性、背筋がピンとしていて笑顔の素敵なお姉さん。それが魚見さんでした。なんだかムラセさんがいつもより少しシャキッとしている気がする。やばい。緊張してきた。ムラセさんが私の紹介をしてくれました。魚見さんをまっすぐ見て、そして私は言いました。

「ただいま、ご紹介いただきました若林佐江子です。サトリテを拝見しまして・・・」
一瞬、空気が止まった。ん?わたし、今なにか変なこと言いました?  
「サトリテって、なんか悟った感じがするよね」「サトリテって名前に代えちゃう?」

がーん。もいちど、がーん。
なんと、わたくし「さりとて」のことをずっと「サトリテ」と覚えていたのです。くぅぅ。だからハチ公の前で何度検索しても「さりとて」が見つからなかったのか。終わりました。あたし、始まる前に終わりました。アワアワしている私を、クスクス笑っている魚見さん。隣にいるムラセさんは「まぁ、サエチャンだからね」みたいな顔をしています。

おふたりが談笑するなか、ひとり静かに「夢破れました」と、うちひしがれていましたが、少しずつ気をとり戻して話を聞いているとなんだか私の文章を掲載してくれることになりそうでした。どうなんでしょうか。私の状況としては今、どんなところにいるのでしょうか。そう思っているところに魚見さんがこう言いました。「コウタ君の紹介だし、断る理由がないもの」
ウォーッ。断る理由が無いもの!カッコ良すぎる!そしておふたりの信頼しあってる感じ、すごいなぁ。こころのなかでウォーウォー叫んでる私とは対照的に、カッコいい魚見さんと穏やかにそして細やかな心配りをしてくれたムラセさんに「大人のカッコ良さ」を感じずにはいられませんでした。そして、信頼されているムラセさんと信頼してくださった魚見さんに私自身が答えられるように努力しようと思いました。

さっそく、連載のタイトルは何にしますかと聞かれ、自信満々に昔飼っていた大好きな犬の名前「ポポ」はどうでしょうと提案したところ、ポポに関する背景を聞かれました。まさか背景を聞かれると思っていなくて。実はポポ、最終的にいろんな事情で飼えなくなったのです。最初はうんうんと聞いていたおふたりは、最後の下りになると顔が曇り、よく映画でみる外国人のように首を横にふり「Oh~No~」的な反応をされました。数時間前、こともあろうにさりとての名前を間違えるという「サトリテ事件」をやらかしている私は「ですよね、ですよね~」と、すごい早さで引き下がり、タイトルはムラセさんと相談しながら改めて決めることになりました。

途中、魚見さんとムラセさんは、作家である中川越さんのお話をしてくれました。中川さんのお話をされるおふたりが本当に楽しそうで、きっと素敵な作家さんなんだろうなと思いました。そしてお店を出る少し前、魚見さんから1つだけ宿題がでました。
「中川越さんの連載を読むこと。」お家へ帰りさっそく、さりとてのなかにある中川さんの連載を読ませて貰いました。分かりやすくて読みやすく次々読みすすめるうちに、声をだして笑っている自分がいて、夕食のあと中川さんの文章を読むのが楽しみになりました。いつか、こんな風に読むのが楽しくて、親しみのある文章が書きたいなぁ。同時に、こんな著名な方に私の文章を見て貰うことは一生無いだろうなぁと思いました。

トントンと話が進んでいくなか、連載タイトルをいくつか考えて候補をムラセさんへ送ってみたところ「どれも面白いけれど、村瀬も考えてみたよ」と送られてきたタイトルがこちら。「サトリテ」「坂の上のポポ」「おかっぱ娘は振り向かない」「けっぱれ!さえちゃん」「なまら幸せ」「うち、どさんこです」ムラセさん、真面目にやってくださいよ。
その中にあったひとつ。それが「晴レルヤ!」でした。

次にコラムの内容。SNSやブログは自分の思ったことをスラスラ書いていたけれど、何だか緊張してしまい、そもそも何を書いたら良いのか。困ったときのムラセさんへ相談しました。「上京のキッカケとか、東京生活をスタートした頃の話を聞きたいなー」とのことで、過去を振り返る良い機会と思い上京物語に決定。しかし、どんな感じで書くと良いのだろう。数日間、寝ても覚めてもそればかり考え、挙げ句の果ては日頃使わない頭を使い疲れたのか眠り続けた日もありました。
緊張と睡眠の連続で完成したはじめての原稿を魚見さんへ提出しました。魚見さんは隅々まで確認してくださり、本当に細かなところまで見てくれました。何度かやり取りをさせてもらったあと、洗練された文章が出来上がりました。例えて言うなら、田舎から出てきたばかりのじゃがいも娘が、スレンダーなシティガールになった感じのスッキリ文章に。

掲載の数日前には、さりとて愛読者の方がたくさんいるとお伺いしていたため、また緊張。万が一、ひとりも読んでくれなくても私が自分の一番のファンになれば良いのだと心を決め、自分への応援体制もばっちりととのえ、初めての掲載を待ちました。
掲載されて嬉しかったのは、80才をとうに越したメール友だちの井上さんが、わざわざインターネットのやり方を知人に聞いてコラムを読んでくれ「すごい才能を持っているのね」と喜んでくれたり、文章を書きたい気持ちを伝えたときに「やりたいことあったじゃん!」と一緒に喜んでくれた同僚にも読んでもらえたこと。
ムラセさんは笑顔で「面白かったよ。これからも俺の知らないサエチャンをどんどん書いてほしいな」と言っていて、俺の知らないサエチャンって言われてもとお腹をかかえて笑いました。

2回目の原稿は、大好きなゆる山登山部の内容にしました。本当はメンバー紹介もしたかったのですが、ひとりひとりが濃すぎて部長の紹介で終了。また別の機会に書くことにしました。そのコラムが掲載された日、イベントの手伝いで朝霞へ向かうため電車に乗っていました。そうだ、そろそろ更新されたかなとスマホでさりとてを開いた瞬間、眼に飛び込んできたのは「さりとてデビュー、若林 佐江子さんの「ワンツージャンプ」7-25を読んで 」というタイトルでした。

私のコラムを読んで、感想を書いてくれた人がいたのです。
その方は、作家の中川越さんでした。

心が震えました。

(つづく)


ムラセさんが可愛がっている亀のカメリと初めて会った日。かじられると痛いのか、恐る恐る試している筆者(撮影:村瀬航太)

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若林 佐江子
若林 佐江子

わかばやし・さえこ/北海道出身。平日はOL、土曜は訪問ヘルパー。休日は山へ登っているか、南三陸・福島・岩手を中心に東北復興のお手伝いをしています。自然、人、温泉、寝転ぶのが好き。得意なことはメカブ削ぎ。夢は東北の方々のお手伝いをしながらレポートし、現地の方のお役にたつこと。

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