salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

我が書斎、横須賀線車中より

2019-09-5
波乱万丈は他人事ではない

まずは、ご報告。私のこの長文駄文連載は今回で最終回となる。

私ごときに連載の機会を提供してくれているこのサイトの奇特なオーナーが、素敵なキャリアチェンジのステップに入っていて、このサイトの更新は9月まで、という方針を出されたのだ。

記念すべき第1回は2016年2月5日。それから3年間と7か月、計44本で完了。
内容はグダグダだけど、とりあえずここまで毎月休まず発信し続けた自分を自分で褒めてあげたいと思う。
(有森裕子さん風に。でも私は彼女と違って自画自賛が得意なので初めて褒める訳じゃない。)

それ以上に褒めたい、いや感謝したいのはまさに今読んでくださっているアナタさま。
いつもお付き合い頂き本当に有り難うございました!最後の1本、気合を入れて書きます!

*****

さて、今年も既に残り4か月。夏前には滅入るニュースが相次ぎ、長引いた梅雨が更に悪い相乗効果を出して、私の気持ちを落ち込ませた。

多摩区登戸新町で何人もの子ども達が殺されてしまった事件。
その影響を受けて、元事務次官が息子を殺してしまった事件。
関連付けて報道された、引きこもりについての国の調査データ。
内閣府が発表した数字によると、 40 歳から 64 歳でひきこもり状態にある人は 61.3 万人居るそうだ。

それぞれを勝手に関連付けることは出来ない。そもそも引きこもっている人皆が事件を起こす訳ではない。
でも多分、これらに関係する人はキャリア形成どころではない。

この引きこもり問題と並んで私が勝手に気になっているのが、増え続けていると言われているネット依存症、とりわけゲーム依存症。ITを使いこなすスキルは少し高くなるかもしれないが、昼夜逆転して、引きこもりになる可能性も高くなる。これからの時代を生きていくために必要な社会的スキルを高めることも難しくなる。

引きこもりではなくても、重い病と闘っていたり、先の見えない介護を担っていたりして、仕事との両立が出来ずに退職し、経済的に困窮してしまう人も少なくない。
私自身は、<金銭の対価を得る労働だけがキャリアではない>という価値観を持つキャリア・コンサルタントだけれど、やはり経済的に苦しいと、将来のキャリア形成を自分らしく考えることは難しいと感じている。貧困は、キャリアの自由度を奪う一つの原因なのだ。そして今、日本の子どもは7人に1人が貧困であり、経済格差の世代間連鎖もなかなか断ち切れない。

貧困でなくても、大企業と中小企業、もしくは正規雇用者と非正規雇用者の間の労働条件格差は著しい。
私がこの連載で主に訴えてきたこと、ワーク・ライフ・バランスや働き方改革、ダイバーシティ・マネジメントなどは、日本全体では少数派の大企業だけの話。組織人、しかも正社員だけの話だとよく言われる。

・・・そんなことを考え始めると、無力感にさいなまれて思考回路が止まる。

私が何かを発信したところで、一体何に繋がるっていうんだろう?
卒業してから一社しか経験の無い、世間の狭~い私に何が解っているっていうんだろう?
私がキャリア・コンサルタントとしてやってきたこと、やっていることに、どれだけ意味があるんだろう?

キャリア・コンサルタントになって以来約10年、こういうネガティブ思考に陥ったことは何度もある。
でも、何日かそういう想いが頭の中をぐるぐるした後に辿り着くのは、「いや、そもそも誰も私にそんなに期待していない」という開き直り。

世の中の社会課題を勝手に背負って勝手に悩むこと自体がおこがましい。
私は学者ではない。メディアに登場する評論家でも専門家でもない。
とても世間が狭くて、世の中的には恵まれた労働条件の組織に属しているけれど、自らもキャリアに悩む、ただのキャリア・コンサルタントだ。

でも、日本全体の労働者の4割は大企業に勤めている。その大企業の正社員が旧態然としたシステムを見直して、しがみついても仕方が無い既得権益や慣習を手放す、もしくは改革することで、日本の労働界全体に何らかの変化を産み出すことは出来るはず。小さい力かもしれないけれど、私はその一翼を担いたい。
独りよがりな思考のステップを踏んで、漸く気持ちを取り直す。

こんな私に、最近特に沢山の刺激を与えてくれるのは、「キャリクラ酒場」でのインタビュー。

「キャリクラ酒場」とは、私が主催する大人のためのキャリアの学校、“Career Climbing”で始めた新しい企画だ。

これまで、“Career Climbing”の目玉コンテンツは色々なワークシートを使ったワークショップで、個人の気づきを促す場としてご評価も頂いていた。でも、自分だけの発想には限界があるし、世の中には多様なキャリアの方がいらして、その実体験から学べることも沢山ある。

そこで、我々主催者側のネットワークでユニークなキャリアの方を発掘し、その方のこれまでのキャリア履歴について根ほり葉ほり、楽しく飲み食いしながら伺っている。
小人数でこじんまり開催し、ググッと深い部分まで掘り下げ、行動の裏にある価値観を探ることにも挑戦している。最近はこれを、「Doingの背景のBeingを探る」、なんてちょっとカッコつけて説明しているところ。
100人居たら100通りのキャリア。
やはり心に響くのは、綺麗にまとまった能書きより、実際のストーリーなのよね。

そんなキャリクラ酒場で出会った、組織に属さず、アメーバみたいな最先端の働き方をしている人におススメされたのがこの本。

山口周 著 「ニュータイプの時代 ~新時代を生き抜く24の思考・行動様式~」

大きく変化している今の時代を背景に、
「『20世紀的優秀さ』は終わりを迎える。今すぐ思考・行動をアップデートせよ!しなやかに生き抜く、『思考法』『働き方』『生き方』『キャリア』『学び方』をまとめた生存戦略の決定版!!」
と、なんとも挑戦的な触れ込み。
キャリアと書いてあるからには、私も避けては通れないな~と早速読んでみた。

この本には、以下の様なキーワードが並ぶ。

★「オールドタイプ」から「ニュータイプ」へ
・「正解を探す」→「問題を探す」
・「予測する」→「構想する」
・「KPIで管理する」→「意味を与える」
・「生産性を上げる」→「遊びを盛り込む」
・「ルールに従う」→「自らの道徳観に従う」
・「一つの組織に留まる」→「組織間を越境する」
・「綿密に計画し実行する」→「とりあえず試す」
・「奪い、独占する」→「与え、共有する」
・「経験に頼る」→「学習能力に頼る」

Amazonの書評を読めばなんとなくムードが掴める本なので、これ以上の内容説明は省略。

私自身の感想は・・・半分共感。1/4は自分の教養がなさ過ぎてよく解らなくてトホホ。1/4は疑問。

著者は随分頭の良い人の様だけど、葉山に住んでいることにはちょっと親近感が沸く。
確かに、逗子葉山界隈で仲良くなる人にはニュータイプ的要素を持った人が多い様な気もするな。

でもさ、著者はニュータイプって言うけど、別にニューじゃなくて、こういう人は昔からちゃんと居るよ。
「変わり者」って言われて来たかもしれないけど。

ということは、この本はこう読めば良いのでは?
今まで変わり者として、組織の少数派として何となく疎外感を感じて居た方へ。
朗報ですよ!貴方の出番ですよ!そして貴方は1人じゃない!

一方この著者は、問題は希少だと言うけれど、それってどう言う意味だろう?
社会問題は世界中に山ほどある。
でも、そこで闘うプレイヤーは少な過ぎるし、そこで闘い続けようとした時、それだけでは食べて行けない労働条件と環境になってしまっている。
介護士、保育士、福祉系の仕事周辺なんかもそうじゃないかな。そういう構造ごと、まさに社会問題。

でも、そう言う社会的な大きな問題こそ、ニュータイプでないと解けないのだろう。
だからもしこういう思考を持ったニュータイプが居るなら、恵まれたその感性と才能を、儲けるためだけじゃなくて、社会的な問題解決に使って欲しい。
その時には、旧来的な問題解決に長けたオールドタイプも貴重な人財として上手に使ってほしい。

だって、みんながみんな、ニュータイプにはなれないと思うから。
人は、そんなに簡単には変われない。
特に難しいと思うのは「構想する」、言い換えればあるべき姿、ビジョンを描くこと。

そして、ニュータイプになれなくても、この著者の言うクソ仕事(著者は時々こういう刺激的な言葉を使う)じゃなくて、意味のある仕事をしている人は沢山居る。
そういう人たちが居ないと回らない現場も沢山ある。

私自身は、半分くらいニュータイプ、半分くらいオールドタイプ。世代的にも、性格的にも。
だからオールドタイプがてんこ盛りの組織に相も変わらず所属し続けていて、でも四半世紀居ても染まれずに、その中で変わり者として存在できているのだろう。

いや、私だけでなく、どちらにも属する人は沢山居るはず。
まさにグラデーション、0―100じゃない。
中途半端だけど、我々の様な存在こそ、「繋ぎ役」ができるのかもしれない。

オールドタイプが作り上げてきたシステムも、しぶとく残りつづけている様に見える。でも、そう見えているのは外側だけで、既に様々なひずみが起きている。ある日突然ガガガッと音を立てて全体が崩壊するかもしれない。
その時をただ待つのか?自ら行動して変革を起こしていくのか?
今まさに、私たち一人ひとりが問われている。

そして、この著者が訴えるまでもなく、私たちは大きな時代の変化の中に居る。
同時に、発病、事故、災害・・・いつ何時、個人的、もしくは社会的で急激な変化に遭遇するかもわからない。波乱万丈は全く他人事ではない。

だから私は、明日死んでも悔いが無い様に、やっぱりワーク・ライフ・バランスを取って人生を満喫したい。
同時に、どんな変化にもやられっぱなしにならない様に、ある時は先手を打って、ある時は上手に流されて、しぶとく、したたかに自分のキャリアを築いて行きたい。

そういう個人的な想いに共感してくれる人が何処かに居るかもしれないなぁと願いながら・・・
これからも私は、どこかで呟き続けることを誓います。

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

4件のコメント

私も大企業に勤め、定年まで1社しか籍を置いていませんでした。しかしながら会社が大きかったため、関係会社出向、M&Aした社内カンパニーに異動、地方自治体出向を経験しました。親会社のバックがあっての親方日の丸的な経歴でしたが、企業文化の違いは十分にありました。どれをとっても正解に至る方程式はない世界での経験で、外国と日本の文化よりも企業文化の違いの方が大きく感じました。おそらく誰しもが人と同じ経験(キャリア)をなぞることはなく、その場その場で自分自身のキャリアを磨くことだと思います。そしてその経験が、予期せぬところで役に立ち、あの時経験していたからできたと思うことが数々ありました。キャリア形成はいいキャリアを求めて行くことではなく、いいキャリアを自分なりにユニークに精いっぱい創造してゆくことなのではないかと思います。

by K16Skipper - 2019/09/05 10:47 PM

途中からの購読でしたが、楽しかったです。どこかでこの続きがあるといいと思ってます。御子息様共々さらに波乱万丈でおねがいいたします!

by ビビアン - 2019/09/06 10:21 PM

K16Skipperさま、
大先輩としての心強いコメント、有難うございます!
おっしゃる通り、何処かに良いキャリアが転がっていたり、正解があったりするものではなく、結局自分が作っていくものなのですよね。
裏を返せば、同じ環境に居ても心持ちと行動で、キャリアは如何様にも変わる。かなりの部分が自分次第と思えば、先の見えない未来も楽しいですね。
これからも、セカンド、サード・・・と素敵なキャリアを追求して下さいませ。引き続き背中から学ばせて頂きます。

by 齋藤由里子 - 2019/09/12 6:43 PM

ビビアンさま、
嬉しいメッセージを有難うございます。わたしの場合、自ら好き好んで波乱万丈にしてるところもありますが(^o^)
こんなタイトルをつけて発信したら、その後台風15号の被害が酷くて、また色々と考えさせられています。
本当に、明日は何が起こるか判らない。いつどうなっても、しぶとく、したたかに参ります。
また何処かで連載を再開したら、お付き合い下さいませ。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

by 齋藤由里子 - 2019/09/12 6:53 PM

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齋藤 由里子
齋藤 由里子

さいとう・ゆりこ/キャリア・コンサルタント(CC)。横浜生まれ、大阪のち葉山育ち。企業人、母業、主婦業も担う欲張り人生謳歌中。2000年からワーキングマザーとして働く中、日本人の働き方やキャリア形成に問題意識を持ち、2005年、組合役員としてWLB社内プロジェクトを立ち上げ。2010年、厚生労働省認可 2級CC技能士取得、役員を降りた後も社内外でCCとして活動継続。個人・組織のキャリア・コンサルティング、ワークショップ、高校・大学生向け漫談講義などを展開、参加人数は延べ4200名超。趣味は海遊びと歌を歌うこと。 2017年からはCareer Climbing~大人のためのキャリアの学校~も主催。

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