salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

我が書斎、横須賀線車中より

2018-01-5
働き方改革と言うけれど

明けまして、おめでとうございます。
この「さりとて」の連載も、3年目に入りました。
継続は力なり、行けるところまで行ってみようと思っています。

皆さまには、いつも長文、駄文にお付き合い頂き有難うございます。
今年も月に一度、どうぞ宜しくお願いします。

*******

さて。
この年末年始に帰省していた大学1年生の息子が言った。
「ボク、ホワイト企業に入りたいなー、お給料はそこまで高くなくていいから。」
うーん、実に今時なセリフ。
とうとう君もそういうことを気にする様になったか。

ホワイト企業、ブラック企業という言い方はすっかり定着。
そして去年、2017年は「働き方改革元年」なんて言われていたけれど。
貴方は、この数字をどうご覧になる?

OECDのデータによれば、2016年の日本の労働時間は1713時間。
例えば、ドイツは1363時間、その差350時間。
1日8時間労働とすると、日本人は年間44日間多く働いている。
一方、1人当たりの名目国内総生産(GDP)は、ドイツは42,176.85US$、日本は38,882.64US$でドイツの約92%。

では、アメリカは?労働時間は1783時間、日本人に比べて年間9日間程よく働いている。
一方、一人当たりの名目国内総生産は57,607.61US$、日本の148%。

一番気になる時間当たりの労働生産性は?
同じ2016年の国際統計から日本生産性本部が算出したランキングを見ると・・・

<単位:購買力平価換算US$>
1位 アイルランド 168,724
2位 ルクセンブルク 144,273
3位 米国 122,986
4位 ノルウェー 117,792
5位 スイス 115,900
6位 ベルギー 114,759
7位 オーストリア 104,971
8位 フランス 104,347
9位 オランダ 103,639
10位 イタリア 102,107
11位 デンマーク 100,491
12位 スウェーデン 99,859
13位 オーストラリア 97,949
14位 ドイツ 97,927
15位 フィンランド 97,339
16位 スペイン 92,328
17位 アイスランド 90,197
18位 英国 88,427
19位 カナダ 88,359
20位 イスラエル 86,418
21位 日本 81,777

先に比較したアメリカやドイツが上なのは当然としても。
勝手なイメージで恐縮だが、何となくノンビリした感じのあるイタリア、オーストラリア、スペインよりも、日本の労働生産性は低いのだ。

ちなみに、2010~2016年平均上昇率ランキングでは、
1位 アイルランド 5.7%
2位 トルコ 3.2%
3位 ラトビア 2.5%
と続き、日本は22位の0.6%。
2017年度以降の働き方改革で、果たしてこの上昇率は上がるのか?

年2000時間を超えていた1980年代と比べると、日本の労働時間が減ってきたのは事実。
しかし、パート労働者を除く一般労働者は今も2000時間以上働いている。
1700時間台まで減ってきたのは、労働時間の短いパート労働者の全労働者に占める比率が高まった結果でしかない。
つまり、日本の労働生産性の問題は数字で出されている以上の大きな問題だ。

勿論、購買力だけが労働で求める価値ではない。
生産性が低くても、楽しくやれていて働き甲斐があるならいいけれど、日本がそういう状況ではないことについては以前触れた通り

「働き易さ」と、「働き甲斐」は、関連するが、あくまで違う軸。
労働時間が短ければ幸せか?沢山休めれば幸せか?必ずしも、そうじゃない。
働き甲斐を感じられるのであれば、長時間働いたって幸せかもしれない。

だからこそ。
働き方改革を、ただ単に「早く帰れ」、「沢山休め」、の掛け声倒れにしてはいけない。
働き易さの追求だけではなく、仕事の生産性と質を高めて、働き甲斐を高める努力をしなければいけない。
何より、働き方改革をするべき真の理由を、各人が真剣に見つめなければいけない。

労働時間は単なる結果。
インプットするリソースに対してアウトプットの質と量が見合っているのか、各業務の目的確認と徹底的なレビューを行い、見合わないのであれば業務の構造改革が必要だ。

組織視点に加えて、個人の観点で言えば。
人生100年時代、自分に再投資したり、社外ネットワークを拡げたりして自己研鑽を重ねなければ、セカンドキャリア、サードキャリアに繋がる真の市場価値のある人財では居続けられない。
そのことを理解した上で、業務の質を高めることによって、もしくは働き方改革で空いた時間を自己研鑽に使うことによって、自分の成長に繋げられる様、自分のキャリア開発を主体的に行わねばならない。

***

私がキャリア・コンサルタントになることを決めたのは、2007年。
当時、所属する会社の労働組合で、会社を休職して組合費でお給料をもらい、組合員の代表として会社経営陣や人事部と交渉する“専従”という立場に居た時のことだ。

2005年に、育児・介護などの両立支援、長時間労働の問題、労働生産性、人財育成などそれまでバラバラだった各テーマ活動の連動性を高めるため、それらを包括する概念としてワーク・ライフ・バランスを提唱した。
その考え方の浸透と実現のため、各種制度を作ったり、社内議論を盛り上げる施策を繰り出したりしていた。

その頃は、まだ日本社会でも今ほどワーク・ライフ・バランスという言葉は浸透しておらず、知られていても単なる少子化対策のため、育児をする女性だけの話という誤解が多かった。
その打開のためには、「制度よりも風土を変えたい」ともがいていたが、上手く行かないことの方が多かった。

一番頭を悩ませたのは、自分の人生をどう生きるかという問題について、上司任せ、組織任せ、なりゆき任せの他力本願な人が多かったことだ。いくら経営と人事部が理解を示してくれて、組織が制度として色々な選択肢を用意できたとしても、各個人が自分の人生を自分で切り拓く覚悟を持って行動しなければ、何にもならない。

でも、多くの日本人は子どもの頃は親や先生の言いなり。
社会に出てからは長く続いた就社、終身雇用、年功賃金制度の名残から抜けられず、組織の言いなりに動く機会の方が多い。
いきなり自分で考えろと言っても難しい。

よって、何らかの形でのサポートが必要だろうと色々探したところ、キャリア・コンサルタントという資格があることを発見し、学ぶことにしたのだ。
資格を取得したのは2009年だから、活動を始めて今年で10年目となる。

キャリア・コンサルティングを学んでいない上司が部下のキャリア開発を全面的にサポートするのは難しい。また、キャリア開発支援センターなどの体制を作ったとしても、対応範囲には限界がある。

よって、各個人はある程度自立的にキャリア開発を行う必要がある。
その前提で、組織は各個人の個性と人生の多様性を認めて活かし(=ダイバーシティ)、働き方やキャリアの色々な選択肢を用意することで支援する。
その選択肢を上手に使った各個人がワーク・ライフ・バランスを取り、キャリアを磨いて成長し続け、新たな成果を出す。
個人の成果創出と組織の支援がぐるぐる循環すれば、共に成長する好モデルとなる。

つまり、働き方改革、ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス、キャリア開発は、全て繋がって相互に作用するのだ。
そして、これらの実現を阻む組織の問題も同根、古い体質、風土にある。

●同質性が高く、閉鎖的な組織文化
●不条理な命令でも上司には逆らわない従順な体質
●空気を読み、上司の意向を忖度できる人が優秀と評価され、出世する
●一般的な原理原則や論理性よりも、組織内の論理や空気を重要視する

この風土が最も悪い形で出ているのが、昨今新聞紙面を賑わしている大企業の不祥事。

これを打開するために必要なことは、とにもかくにもコミュニケーション風土の改善だ。
具体的には、
① オープンでフラットな人間関係作り≒率直に発言しても良い安全な空気づくり
② 相手の存在への承認・敬意を表すための笑顔やアイコンタクトなど、言葉によらない、非言語コミュニケーション(ノン・バーバル)スキルの向上
③ 傾聴を重んじる双方向コミュニケーション・スキルの向上
④ 5W1H、特にWHYを重視した論理的思考力の向上
⑤ 発言内容と発言者は切り離す、ホワイトボードを使うなどの、議論力の向上
⑥ ファシリテーターの養成

コミュニケーション風土を改善することで、多様な価値観や経験を持つ社員が多様な意見を出し合い、建設的に議論を行い、組織にとってより良い判断を行える。
その積み重ねでしか、真の生産性向上を伴う働き方改革は成し遂げられない。

キャリア・コンサルタントの守備範囲は、個人のキャリア開発支援がメインだが、それだけでは問題解決できないことも多い。

生産性向上を伴い、働き甲斐向上に繋がる働き方改革を。
女性の管理職登用や外国人活用だけではないダイバーシティを。
育児・介護支援だけではないワーク・ライフ・バランスを。
仕事だけでなく、人生を丸ごとマネージメントするキャリア開発支援を。

個人の後ろにある組織の課題にも、しっかり向き合っていきたい。

今年も、微力ながら少しでも皆さんのお役に立ちたいと思います。
以上、新年の抱負、キャリア・コンサルタント10年目の決意表明でした。

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

2件のコメント

土曜出勤 スタジアムに向かう電車で熟読しました、私たちが時短と言っていた90年前半から、企業や社会の本質的な課題は変わっていないと思います。
政府が旗振る賃上げとか、経営や人事に言われて重い腰を上げる働き方の見直しとか、指示待ちがお好きな方が多いですね。
私のいるスポーツ界でも、今朝の新聞に出でいたダルビッシュのようなタイプは少数派でしょう。自分の頭で考え、自分で決めてその責任も引き受ける教育やスポーツの指導が社会を変えるキーでしょうか。

by さわスタ - 2018/01/06 8:29 AM

さわスタさん、お忙しい中駄文を読んで頂き感謝です。
本質的課題は変わっていない、指示待ちが好き、おっしゃる通りです。
日本社会ではその方が無難に生きられるからだと思います。
でも、日本人ならではの良いところは残しながらも、自分の頭で考えて失敗覚悟で挑戦することが良いという風土は造れるはずだと信じています。
これからもご一緒に、どうぞ宜しくお願いします。

by 齋藤由里子 - 2018/01/06 8:00 PM

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齋藤 由里子
齋藤 由里子

さいとう・ゆりこ/キャリア・コンサルタント(CC)。横浜生まれ、大阪のち葉山育ち。企業人、母業、主婦業も担う欲張り人生謳歌中。2000年からワーキングマザーとして働く中、日本人の働き方やキャリア形成に問題意識を持ち、2005年、組合役員としてWLB社内プロジェクトを立ち上げ。2010年、厚生労働省認可 2級CC技能士取得、役員を降りた後も社内外でCCとして活動継続。個人・組織のキャリア・コンサルティング、ワークショップ、高校・大学生向け漫談講義などを展開、参加人数は延べ4200名超。趣味は海遊びと歌を歌うこと。 2017年からはCareer Climbing~大人のためのキャリアの学校~も主催。

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