2017-12-5
その女、未だ凶暴につき
私が良くも悪くも、誰に対しても率直にモノを言ってしまう性格なのは、この連載記事や今まで書いたアルバイト物語で既にご承知のことだろう。
でも、小学生の頃は言うのももどかしく、蹴ったりぶっ飛ばしたりする凶暴な子どもだった。
今でも、頭に来ると内心「あんだとー!ぶっ飛ばすぞ!」と一瞬思ってしまったりすることをここで白状する。
特に蹴りは得意で、当時大人気だったプロレスのジャイアント馬場の代名詞的必殺技から引用され「16文キックのサイトウ」という異名をもらっていた。
帰りの会で
「サイトウさんがー、痛く蹴るのでー、やめてくださいー」
と男子に言われ、
「蹴られる様なことするから悪いんだろーがっ」
と言い返していたこともしばしば。
つまり、私が暴力を働いたのは弱いものイジメを止めさせるとか、それ相応の正義や理由もあったんだけど、だからって暴力が良い訳ではないですね、ハイ。
口を開けば言葉遣いも「こら待て!てめぇ!」と乱暴で、
「このままではこの娘は絶対に嫁に行けない」
と焦った母親から急遽勧められ、私立の女子校を受験した。
女子校に入り、直接的暴力は止めにして、表向きマイルドにしゃべるコツも掴みはしたが、それでも端的に本質を突こうとし、結論をバシッと言ってしまうので所謂女子トークの中では浮いた。
大学時代は繊細な女子集団の煩わしさから逃れ、変わり者ばかりが集まったウィンドサーフィンの学生連盟にドップリ浸かっていたのと数々のアルバイトで多様性に揉まれたのとで、率直な性格にはむしろ磨きがかかってしまった。
会社に入った頃は余りに尖っていて組織に馴染めなかったので
「あの子は3年で辞めるね」
と言われていたそうな。
確かにその通りで、30歳台位になるまでは随分率直にモノを言ってはアチコチにぶつかっていつも悩んでいた。
毎日数字と時間に追われるとても忙しい事業部に居て、常に全力疾走していなければいけない様な環境だったので、斟酌している余裕が無かったのだが、これは言い訳。
要は私自身に「これを言ったら相手がどう思うか?」という様なエモーショナルワークをする想像力と器量と、相手のテンポに合わせて待つ辛抱強さが無かった。
何より、世の中に正義や真実なんてものがあるというのは幻想で、あるのは価値観の違いだけだということを理解する知性も無かった。
それに比べれば今は随分と表現がマイルドになっているし、言う頻度も、言う分量もかなり少なくなった(あくまで自分内比)。
お尻が青かった当時は、それを温かく、時には厳しく受け止めて指導してくれる上司や同僚に恵まれていて、今でも時々彼らと話すことがある。
曰く、今も私の基本線は変わっていないんだって。
「お前は真っすぐにしか進めないし直球しか投げられないから角度セットをしてやる必要があるんだよな。真っすぐ進むからほっておいてもどっかに跳ね返っていずれ戻って来るんだけど、なまじ勢いがあるから甚大な被害が出たり自分が大怪我したりもするし。」
「お前を守ろうと思っているのにお前がやたらと刃物を振り回すから俺まで怪我をするじゃないか。せめて周りをしっかり見て敵と味方位は判る様になれよ。じゃなきゃヤクザじゃなくてチンピラだ。」
「そうやって悔しがったり悩んだりするのは想いがあって真剣に仕事に取り組んでいる証拠なんだけどな。真面目過ぎるしヤワ過ぎる。もっと鈍感になれ。」
酷い言われようだが、実に私をよく言い表している。
はい、言葉に出さなかったとしてもすぐに目つきや顔色に表れる、結局まだまだ成長していない私。
この様な私の性格は社内ではよく知られており、引き続き浮き続けて迷惑をかけているのだが、理解者が複数居てメンターの様に私を支えてくれ、そして懐の深い会社が諦めずに雇い続けてくれていることには、感謝をしなければいけない。
ある時、社内人事制度で昇格した折に、ある役員がお祝いと称してランチをご馳走してくれた。
小一時間、今私が感じていることや今後のキャリアの展望などについて色々訊かれ、いつもの様に率直に話した。
ランチから戻って数時間した後、彼から社内メールで手書きの手紙と一緒に以下の文言が送られてきた。
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<企業内起業家(イントラプルナー)の十誠>
1. 毎日クビを覚悟で働くこと。
2. 自分の夢の実現を妨げる命令は、すべて回避して実行しないようにすること。
3. 自分のプロジェクト推進に必要な仕事は、職務規定に拘束されずにすべてやってしまうこと。
4. 協力者をつくること。
5. 協力者の選定にあたっては、自分の直観に頼り、もっとも優秀な人物とだけ一緒に仕事をすること。
6. できるかぎり長く地下活動に徹すること。活動が公になれば、企業の拒絶反応を誘発することになるからだ。
7. 自分が直接関与できるプロジェクトのみに全力投球すること。
8. 失敗して許しを乞うほうが、プロジェクトのスタートの認可を請うよりたやすいものだということを心得ておくこと。
9. あくまでも目標を目指すこと。ただし、目標に到達するためには、現実的な姿勢で臨むこと。
10. 社内の後援者を尊ぶこと。
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あなたは、この十誠を読んでどう感じただろうか?
眉をひそめる?
面倒くさく思う?
意味が解らなくてポカンとする?
私は、とても愉快な気持ちになって大いに共感したし、私が尖っているのは成し遂げたいことがあるからだろうと認めてこの言葉を贈ってもらえたことが嬉しかった。
でも同時に、とても自分の実力ではマネできない項目が多いと感じた。
この十誠は、「企業内起業家(イントラプルナー)」という本の一節。
経営コンサルタントのギフォード・ピンチョーが著し、1989年に邦訳が出てそれなりに話題になったそうだが今では絶版になっている。
この言葉を贈ってくれた役員からの手紙には、
「自分は管理職になってから、いつもこの言葉を胸に仕事をしてきた。今でも全然出来ていないことも多くて、結局大成しなかったんだけど」
と謙遜した自戒を込めたメッセージが書いてあった。
私はこの十誠の背景にある思想を知りたくて、早速Amazonで古本を取り寄せて・・・
それで満足して暫く読まないでいた。
つい最近、ふとこの本のことを思い出して読み始めてみると。
企業内起業家の好事例として書かれているのはポスト・イットを産み出した3M社のアート・フライや自動臨床検査装置を産み出したデュポン社のディック・ナドーなど。発明家と事業家のセンス、知性と行動力の両方を兼ね揃えた優秀な技術者が殆どで、私よりも研究や事業を担っている人に読ませたくなった。
だからこそこの本をここに紹介することにしたのだが、「企業の持つ資源や安定性と、独立した起業家の持つ自由や創造性の両方の性格を併せ持つ企業内起業活動は非常に面白い」という説明には惹かれる。
特にこの一節は、研究開発部門を抱える組織の人には是非読んでもらいたい。
「研究に力を入れている大企業の中で、企業内起業活動を効率的にバックアップできるようなシステムを持っているところは殆ど無いので、企業内部でせっかく新技術が開発されても、実際に利用されるのはそのほんの一部に過ぎない。その結果、研究開発それ自体の評判が悪くなるということも珍しくないのだ。研究所は、いかに多くの画期的な技術を開発しても、それが十分な収益に繋がるということを証明できないため、多額の研究開発費を注ぎ込んだことを正当化できなくなってしまう。
~中略~
企業内起業家に権限を与えていればこういうことは起こらないので、大企業は自社のテクノロジー・ベースから経済利益を得ることができるようになるだろう」
なるほど、なるほど!
企業内起業家の道も決して楽ではないけれど、こういう道があって先駆者が多くなれば、私がよく受ける学生からの「安心安定の大企業か、思いっきりやって自分も成長できるベンチャーか」という二者択一の相談には「いやいや、第三の道もあるよ」と言える様になるだろう。
では、企業内起業家に権限を与えるとか、企業内起業活動を効率的にバックアップするとかって、どうすればよいのか?
例えばこの本には、ヒューレット・パッカード社のこんな素敵な事例が紹介されている。
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<不服従勲章>
チャールズ・H・ハウス
上の者は、エンジニアとしての通常職務を無視し、公然と反抗したことを認め、これを賞します。
チャールズ・H・ハウスは、大型スクリーン静電ディスプレイの需要は世界中で50台以下であるという市場研究調査結果を完全に無視し、あらゆる手段(主としてペン、舌、航空機など)を駆使して、正式に認められていない技術の称揚に務めた。そして、今日にいたるまで、17,769台の大型スクリーン・ディスプレイの出荷を可能にした新しい市場を開拓したのである。
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なんて素敵なのかしら・・・・・・・・・・ウットリ。
でも、何より繰り返し出てくるのは、企業内起業家を守り、支える上司の存在である。
その存在を、それぞれの企業内起業家がピンチョーの4の教えを守って見つけたというよりは、上司側が企業内起業家の才能を見出し、可能性に掛け、自ら進んで行動したケースが多い。
私自身は到底この本に出てくる企業内起業家になる様な才能は無いんだから、せめて自分の周囲に企業内起業家の様な存在が表れた時、良き協力者、良き上司となりたい。
そのためには、このウリ坊の様な性格をコントロールし、直球しか投げられない技の乏しさを何とかして、もっと器用に、したたかに、しなやかにならなければいけない・・・・・・・・・・・・・・・・。
皆さま、どうしたらよいか教えてください。
2件のコメント
通勤電車中、ひとりで爆笑しながら(声は出してない)拝読しました。私はそのパーソナリティはとても素敵で、常に変化球で黒帯を目指す人よりは人に尊敬されると思います。
そのままにいてほしいですね。
TAKEZOさん、温かいコメント有難うございます。
まぁ、きっといつまでも変われないんでしょうね。
私のテーマソングはSHOGUNの「男達のメロディー」、
男だったら 流れ弾のひとつやふたつ 胸にいつでも刺さってる
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