salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

我が書斎、横須賀線車中より

2018-03-5
主夫が出来るオトコはカッコいい

昭和歌謡のバンドを長らくやっているせいか、同世代よりは古い歌に詳しい方だと思う。
中でも、6~70年代フォークはメロディが綺麗で、歌詞が優しくて、深くて、好き。

特に想い入れのあるバンドはいくつかあるが、「ザ・フォーククルセダーズ」もその1つ。
放送部に属していた中学・高校時代、部室に何故かこの「ザ・フォーククルセダーズ」のレコードが転がっていて、初めて「帰って来たヨッパライ」を聴いた時はひっくり返った。
神様って大阪弁だったんだ・・・
「悲しくてやりきれない」や「イムジン河」もその少し哀愁を帯びたメロディが気に入っていて、大人になってからベスト・アルバムを買って時々聴いている。

はしだのりひこさんは、そのメンバーの1人。
「ザ・フォーククルセダーズ」解散後も「はしだのりひことシューベルツ」では『風』を、「はしだのりひことクライマックス」では『花嫁』をヒットさせるなど活躍された。

『花嫁』の曲のモデルははしださんの高校の後輩で、最愛の妻和子さん。
当時、はしださんは売れっ子で、休みもないほど仕事に明け暮れていた。
高校時代からはしださんのことが好きだった和子さんは彼に会うため、歌詞にある様に「夜汽車に乗って」、コンサートが行なわれる街へ訪ねて行くこともしばしば。はしださんが漸く空き時間を持てる朝方にデートをすることも珍しくなかったそうな。

和子さんはめでたくはしださんと結婚後、スポーツ新聞の取材に
「真剣な恋をした人と、出会ってからずっと一緒にいられる」
と幸せな夫婦生活について語っていた。

しかし1983年、はしださんがインドで仕事中、和子さんが心臓発作で倒れた。
慌てて帰国したはしださんだったが、和子さんの体調はなかなか良くならず、「ご飯が食べたい」と訴える2人の子どもを前に、それまで家庭のことを何も知らなかったことを感じ、妻の看病と2人の子どものために主夫になることを決めた。
掃除、洗濯、料理、PTA活動までこなす傍らで音楽活動をする生活となり、数年間の主夫業体験を綴った本も執筆、家事や育児をテーマにした講演活動も行う様になった。

はしださんが主夫をしていた1980年代前半と言えば、日本はバブル真っただ中。
昨年登美丘高校が荻野目洋子の『ダンシング・ヒーロー』をリバイバル・ヒットさせて踊った、あのバブリーダンスの雰囲気そのままに、ドリンク剤CMの『24時間戦えますか』『5時から男』というキャッチフレーズが流行語になる様な時代。
サラリーマンではない特殊な仕事をしていたとは言え、男性が夜遅くまで働き、家庭を顧みなくてもまだ何も言われなかったこの頃、平日の昼間に主婦に交じってスーパーに買い物に行ったり、PTA活動をしたりする時のはしださんの気持ちは一体どういうものだっただろうか。

はしださんは主夫評論家として
「主夫をやってみて、こないに日常というものは複雑なものかと思いました」
と語ったそうだが、そこには奥様和子さんを含む世の中の主婦へのリスペクトが入っている様に感じられてとても嬉しい。
その様な感性を持つはしださんだからこそ、和子さんも好きになったのだろうけど。

以前も書いた様に、家事、育児というのは非常に細かい仕事が多層に折り重なっていて、同時並行的に、且つ臨機応変に進める必要があり、一種のプロジェクトマネジメント能力を要求される。
そして、プロジェクトと違って延々と毎日続く。
従って、その気になって真面目にやると奥が深く、頭脳と腕の見せ所でもある。
これを、たまに思いついた時の手伝いとか、他人ゴトの「家族サービス」とかじゃなくて、主夫として主体的に、継続してちゃんとやってみせる男の人って、所謂「デキるオトコ」で、カッコ良いんじゃないの?

私が自分の父親を結構尊敬しているのも、そんなところに1つの理由がありそう。

我が家は母親が病弱で、普通に家事をこなすことが出来ず、また時々入退院も繰り返していたので、父親が仕事をしながら結構な量の家事をこなしていた。
そこで娘の私が手伝えば美しい話なのだけれど、私は自分のことで一杯一杯で・・・

父親の当時の役職から考えて、仕事だって相当忙しかったはずだし、葉山の山の上に家があって長距離通勤だったのだが、文句も言わず、私のお弁当を作ってくれたり、仕事から帰ってから黙々と洗濯をしたり、週末に食料の買い出しをしたり。
あの頃はそれがどれだけ大変なことか、よく解っていなかったけれど、今考えると凄い。

父親の作るメニューの中で一番好きだったのはお味噌汁。
大根、人参、ゴボウを始めとした沢山の種類の具材が、まるで合宿の様な大きな鍋の中に山の様に入り、3日分くらいドドーンと作られる。
父親は”超”のつくせっかちな性格なので、私は猫舌なのに「熱いうちに食べろ!早く食べろ!今すぐ食べろ!」と急かされるのには閉口したが、具材の色々なうま味が合わさって美味しく滋味豊かで、翌日の朝ごはんはそれとご飯だけでも十分なくらいだった。
私が食事を作る時、ついドドーンと沢山作ってしまうのは、この父親の影響をかなり受けているのだろう。

私が大学生時代、父親が名古屋に単身赴任をしたので、寂しいだろうと思って一度遊びに行ってみた。
その時も、家事遂行能力に何の問題も無いので、家がとっちらかっている様なことも無く、よって男の1人暮らしにありがちな侘しさも無く、きちんと暮らしているので驚いた。

私がワーキングマザーとなり、仕事で出張をする時に父親に家に来てもらい、夕食、お風呂、寝かしつけなど子どもの面倒を見てもらったことも何度かある。
「ニンニクが体に良いから」と大量に食べさせるので、私が帰宅してから、子どもが寝ている寝室のドアをそっと開けたらモワーッと凄い匂いがしてビックリしたのも良い思い出だ。

・・・ってまだ死んだ訳ではなく、今も伊豆高原で両親揃って暮らしており、相変わらず家事のメインは父親が担っている。
お蔭で80歳近くなった今でもしゃっきり、頼もしい。
いつまでも、元気にバリバリと主夫をやって欲しいなぁー。

我々の親の世代の男性でその様に家事をバリバリ出来るというのは少数派で、だから「濡れ落ち葉」なんて揶揄されてしまうのだが、若くなればなるほど、その人数は増えるのだろう。

ただ家事が出来るというだけでなく、今の2-30代の男女協働意識の高さには驚くことが多い。
先日も、あるキャリアのワークショップでアラサー男子が、

「自分はお金を沢山稼ぐとか、昇進するとかいうことには全然興味が持てない。
 毎日暮らす分だけ稼いで、後は自給自足するのがいいくらい。
人生で一番大事なのは、大切な人と愛し合うこと。
 自分はその人のために生きたい。
 その人が望むなら、主夫だって喜んでやる。
 でも心配なのは、そういう自分は果たして女性に選ばれるのかということ。
 女性はやっぱり、外でバリバリ稼いでくる人の方が好きだろうから・・・」

と心情吐露。
私も含む周りの女子は大いに沸き、

「すごいロマンチック!」
「いや、それ、そういう風に言えるってカッコいいから!」
「今時、『バリバリ働きたいからパートナーには家に入って欲しい』っていう女子も居るよ!」

と激励。

でも、肝心のパートナー、具体的な対象者はまだ居ない様なので、
「田舎で自給自足する生活に憧れる女子も居るから、そういう人が集まるところに行くのはどう?」
「私が紹介する!」
とどんどん楽しく脱線していった。

同時に、私はある種の感動を持って彼のセリフを訊いていた。
この人は、自分の所属組織がどうかとか、職位がどうとか、昇進がどうとか、そういう形に拘るやり方で男のプライドを持ってはいないんだなと。そして、家事や育児についても、女性がやるべきとか、母親がやるべきとか、そういう先入観がまるで無いんだなと。
まさに、男女協働とお題目を唱えなくても、当たり前の意識。

そういえば、息子が家庭科の授業で男女協働について学んで来た時、私に質問したっけ。
「ねぇ。なんでこんな当たり前のことをわざわざ言うの?」
だから私は説明した。
「あなたが今まで経験してきた学校までの世界では、男女協働は当たり前だけど、残念ながら社会に出るとまだ協働できていない場面が沢山あるのよ。あなたは今の感覚を忘れないで、自分が選んだパートナーに家事や育児を任せっきりにしない様、ちゃんと出来るオトコになれる様に今から頑張りなさいよ」
彼の返答は、
「うん、大人になったら頑張る。子どもの内はしっかりお母さんに甘えておくよ!」

そんな彼も、今、大学生になって一人暮らし。
ずっと親元で暮らしていていきなり結婚した男子より、一人暮らし経験があって自立している男子の方が、家事の大変さを理解していてパートナーへの思いやりも持てる、イイ男の割合が多いよね~というのはどの世代の女子にも共通の認識。
息子も、大学時代の貴重な経験で少しでも生活力がついてくれるといいんだけど。
でないと、モテないぞ。
今時のしっかりした若い女子は、結婚しても、子どもが出来ても仕事を辞めない子が多いし、仕事を続けるためにも、男性に対等なパートナーで居ることを望んでいる子が多いんだから。
“仕事だけ”出来ていればモテた時代はとうの昔に終わり。
仕事は勿論、家事も育児もさらっとこなす男子こそがモテる時代になったのだ。

これを読んで、
「オレ、ゴミ捨てとお皿洗いくらいしか出来ない・・・」
と焦った男性諸君、今からでも遅くない。
すぐに明日からでも手を付けられるのが家事・育児の良いところ。
毎日コツコツ積み重ねて練習しよう!
主夫が出来るオトコはカッコいいぞ!

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齋藤 由里子
齋藤 由里子

さいとう・ゆりこ/キャリア・コンサルタント(CC)。横浜生まれ、大阪のち葉山育ち。企業人、母業、主婦業も担う欲張り人生謳歌中。2000年からワーキングマザーとして働く中、日本人の働き方やキャリア形成に問題意識を持ち、2005年、組合役員としてWLB社内プロジェクトを立ち上げ。2010年、厚生労働省認可 2級CC技能士取得、役員を降りた後も社内外でCCとして活動継続。個人・組織のキャリア・コンサルティング、ワークショップ、高校・大学生向け漫談講義などを展開、参加人数は延べ4200名超。趣味は海遊びと歌を歌うこと。 2017年からはCareer Climbing~大人のためのキャリアの学校~も主催。

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