salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2012-01-16
「旅用心」

「自分の身は自分で守ろう」というのが南米で知り合った大使館の方々の口癖だった。自分の身を守ると言っても、ハンドバックは身体から離さない、むやみに夜の一人歩きはしない…など身につけてしまえば、ごく自然にできることばかりである。ただ、日本のような基本的には安全な国で過ごしてしまうと知らないうちに平和ボケ状態に陥り、ついつい海外でも同じような気持ちでいて犯罪に巻き込まれてしまうことが多い。

ベトナムのニャチャンに住む僕と同年代の男性は、とても慎重な方だった。ホテルのラウンジでコーヒーを飲んでいて、僕がトイレに行って戻ってくると彼は僕のウエストポーチを椅子に絡ませて留めておいてくれた。ATMでお金をおろしたとき、財布の中に紙幣をしまいながら、出てくると彼はATMのブースの中で財布をしまうように忠告してくれた。こういったちょっとした警戒心がトラブルを防ぐのである。犯罪者も警戒心を持っている人のところには近寄っては来ない。彼らだってリスクを背負いたくなく、無防備な人達を狙うのだ。

「小姑みたいにうるさいですよね?ただ、僕のような目には合ってほしくないんです…」
そう言って彼は自分の体験談を話し始めた。彼の初めての海外の旅はアフリカだったそうだ。しかもケニアのナイロビという世界でも治安の悪い街ワースト3の中に入るであろう街だったそうだ。ワースト3の他の国も知りたくなるのが人情だと思うので、日本人観光客が気軽に行ける街の中で、僕が聞いたワースト3で言うとナイロビ以外は南アフリカのヨハネスブルグとコロンビアのボゴタになるそうだ。何度も言うようにそれ以外にも危険な街もあるし、人によっては全然、平気だったよと言う人もいるので一概には言えないこともつけ加えておく。

彼はナイロビの治安が悪いことは聞いていたが、ツアー旅行ということもあり、そこまで危険という実感もわいてこなかった。日曜日の自由時間のことだった。一人でふらりと散歩に出掛けた。
「どこかで自分は大丈夫って思っていたんですよね」
人通りの少ない場所を興味本位で歩き、彼は首絞め強盗に出会い、腹をナイフで刺された。そしてパスポートもお金も全て取られてしまった。しばらく追いかけたが出血がひどいため、徐々に頭がボーっとし始めて、そのまま道端に倒れ、意識がなくなった。その後、集中治療室で何日も過ごし、日本の病院に搬送された。当時のことを説明しながらTシャツをめくった彼の肌には胸から腹にかけて痛々しい手術の跡が残っていた。いくら人にない経験ができるからと言っても生きて戻ってこなかったら意味がない。安全であるからこそ旅が楽しめる。これが、それ以降の彼の信条となった。

少々、高い代償ですけどね…と笑いながら、サイゴンビールを飲み干した。日本在外公館と援護協会が援護した犯罪被害や事故処理は毎年、報告だけでも年間、15,000件を超えると言われている。つまり毎日、平均日本人約50人の被害者が世界で出ているということになる。報告のない事件もいれると…。自分の身は自分で守ろう。改めて思う。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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