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イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2012-01-8
「自由席の寝台バスはどこに寝るか」

深夜バスが好きで日本にいるときもよく使う。出発してから眠りにつくまでの時間が大好きで、閉まっているカーテンを少しだけ開け、窓に流れる深夜の景色を見ながら旅をしている高揚感を味わう。ただ元々、身体は丈夫な方ではなく、それに加え、歳もとった。深夜の移動後の疲労度は昔より確実に大きくなっており、最近では寝台バスの快適度も気になるようになり、普通の観光バスタイプの四列の深夜バスに乗ることは避けるようになった。

ラオスのパクセーで素敵な深夜バスを見かけた。車内は二列しかなく、全ての座席がベッドのようになっていた。二列とはいえ、そこまで大きなベッドではないが、少なくとも深夜特急の寝台車のベッドよりは確実に広く、二段ベッドではないので天井も高い。乗ってみたい欲求にかられたが、既にパクセーから移動するバスチケットを購入していたので、この深夜バスに乗ることはできなかった。しかし、そんな光景を見たせいか深夜バスへの欲求は高まる。そこでパクセーからベトナムのダナンに移った後、次にニャチャンに向かう際、深夜バス、別名スリーピングバスに乗ってみることにしたのである。

ビエンチャン行きの深夜バスを見た後だったので期待も大きかったのだろう。乗り込んだときに愕然とした。狭い車内に三列の二段ベッドが所狭しと並んでいたのである。林間学校か海軍の船室をイメージさせるような雰囲気だ。一応、座席ではなくフルフラットのベッドではあるのだけれど。

全て自由席で、しかも僕は二番目に乗車することができたので自由に場所が選べる。さて、どの場所で眠るかを咄嗟に考える。下の段より上の段の方が見晴らしはいい。後は前のベッドか後のベッドかの選択になる。一番前の上段は横の窓だけではなく、運転席越しの大きなガラスから前の風景を眺めることができ、かなり快適そうである。しかし、五列になっている一番後ろの席もよさそうだ。もし、この席を三人で使うことができれば、かなりゆったりしたベッドということになる。外で待っている人を見る限り、乗客は少なそうだ。となれば三人で使う可能性は高い。風景を選ぶか快適度を選ぶかとなれば快適度を選ぶ。最初に乗った旅慣れていそうな初老の欧米人男性もやはり一番後ろの僕の反対側の席を選んでいた。

しかし、目論見は見事にはずれる。出発間近になると続々と乗客が乗り込んできた。一気にベッドは埋まっていき、ついに一番、後ろの席の五列も全て埋まってしまった。こうなると他のベッドより明らかに窮屈で、添い寝に近い状態になる。

僕はあまり寝相がよくないが、隣の欧米人はそれ以上で、僕は何度も腹に肘鉄を食らった。だからと言って眠っているのだから悪気があるわけでもない。一番前の窓際を選ばないことを後悔する。窓の外に映る夜空を眺めながら快適度を一人占めしようとすると罰があたるんですねと心の中でつぶやいた。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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