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イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2012-06-3
「終着駅の魅力」

バンコクのチャオプラヤー川にはバスのような役割を果たしている船がある。目的地までの移動で使うこともあるが、あてもなく遊覧船感覚で乗ることも多い。チケット売り場があるところでは乗る前に行き先を言って購入してもいいが、チケットを買わないで来た船に飛び乗ってもいい。船の中に車掌ならぬ船掌の女性が小銭の入った丸い筒をガチャガチャ鳴らしながら運賃やチケットを回収しにやってくるので中で支払うことができる。行き先を聞かれる場合もあるので、その際は終点のノンタブリーと言うようにしている。何度も乗っているのに未だに正確な値段はわからない。今のところ、船掌に20バーツ(約60円)札を渡せば、たいていお釣りが返ってくる。

BTSと呼ばれるモノレールに乗り、サバーンタクシン駅で降りるとすぐに船着場があり、たいていそこから乗り込むことが多い。チャオプラヤー川は決してきれいな川ではないが、それでも川風は気持ち良く、徒歩やトゥクトゥク、車から見る景色とはまた違った川目線のバンコクを楽しむことができる。船から夕暮れ時が美しいワットアルンなどで降りることもあれば、ワット・プラケオのような華やかな仏教建築を見て誘われるように降りてしまうこともある。もちろん終着駅まで向かうこともある。
僕はバスや地下鉄の終着駅まで行ってみるのが好きだ。
「終着駅になにがあるの?」
よく聞かれる。たいてい僕はにっこりして答える。
「何もないよ」
と。聞いた人はぽか~んとしているか笑う。怒り始めた人もいたなぁ。
何もなくてもいいのである。終着駅まで行く途中の乗客の乗り降りを見ているだけでも楽しいのだ。ニューヨークなどのようにバスや地下鉄に乗っていると車内の人種がどんどん変わってしまうような街もある。

しかも終着駅がいいのは迷うことがない。土地勘がない上に方向音痴の僕でも同じ番号のバスや地下鉄で再び戻ってこればいい。もちろん終着駅まで行く前に不安になって降りてしまったこともある。ラスベガスで二時間乗ってもバスが終着駅まで辿り着かず、どんどん砂漠になっていくのでさすがに不安になって降りてしまったこともあるけれど。しかも帰りのバスがなかなか来なかった。持っていたペットボトルの水も飲みほしてしまい、40度を超える場所で、このまま干からびてしまうのではないかと焦った。約30分後にアスファルトの陽炎越しにバスが見えた時は本当に嬉しかった。バスを見て飛び跳ねて喜んだのは今のところ人生の中であの時しかない。こういうこともあるので僕は決してこの旅遊びは人には勧めていない。あくまで自己判断とケースバイケース。治安が悪いような南米などでは特にである。

さて、バンコクに話を戻すが、やはりワットポーなど観光地の船着場を超えると一気に観光客は減り、現地のタイ人で大半は埋まってしまう。終着駅まで遊覧船としてちょうどいい時間の四十分程度である。快速のような船なので、少々、早かったかもしれないが、たとえ各駅のような船でも一時間程度あれば到着するのではないだろうか。これが60円以下で楽しめるのだから、これは使わない手はない。って結局、この旅遊びを勧めているような気がしないでもない。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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