salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2012-08-12
「ぼったくりは自己責任」

初めて中国を訪れたのはオリンピックを約半年後に控えた北京だった。当時、会社の通帳の残高に少しだけ余裕があった僕は取材という名目で、いい気になって経費で四つ星ホテルに一週間ほど宿泊することにした。到着した日、部屋に荷物を置くとバーで一杯、ビールだけ飲んでから眠ろうと思った。到着したのは二十二時過ぎで、ホテルでは、まだバーをやっていそうなものだが、フロントで聞くとやっていないと言われた。近くにいた黒服の男性に地下の店ならやっていて、ビールの値段は五十元(約七百五十円)と言われた。中国の物価から考えれば高いが、ビール一杯くらいだったらいいかと思い、そこで飲むことにした。今から考えれば、いかにも怪しげな呼び込みの中年男性だったが、四つ星ホテルの下という油断と、それよりもやはり中国初上陸記念ということで舞い上がっていたことの方が大きい。

僕はバドワイザーのビールの小瓶を二本飲んだ。百元(約千五百円)だと思いつつ、会計をすると女性のお酌係の料金が加算されていて、日本円にして約二千五百元(約三万七千五百円)取られてしまった。要は、ぼったくりの店だったのである。オリンピック景気の街にはカモがいっぱいいるのだろう。

ホテルのフロントに抗議するが、地下の店とうちとは関係ないと言われてしまった。ぼったくりにあったあなたが悪いのですと言わんばかりに。この店とフロントの対応には、怒り心頭だったのだが、確かにぼったくりにあった僕自身、女性が横に座り、彼女自身も飲み物を頼んだ時点でおかしいとも思わず、カタコトの英語の会話を楽しんでいたのだから自業自得である。
ぼったくりの店というのは何も中国だけではない。アメリカだろうがヨーロッパだろうが東南アジアだろうが、地球上、どこに行ったってついてまわる。日本でも、その手の店は山程ある。「油断しない、いい気にならない」とパートナーが僕に口癖のように言う。まさにその時の僕は、いい気になり、油断していたのだ。

そして再び中国は成都にやってきている。一千万人を超える大都市の成都にも、やはり怪しげな店を見かける。怪しい店というのは、その分、どこか引き寄せられるような魅力も発している。怪しげな店の前に止まると中から僕を見つけ、待っていましたとばかりに男性が出てくる。店にいれたらこっちのものだというような怪しさがにじみ出ていた。二年前だったら飛び込んで行ったかもしれない。しかし、あの時より少しだけ防御力が強くなった。怪しいと思った時の直感は大切にするようになったので別の店を探す。もちろん、ひょっとしたら怪しくなかったのかもしれない。今となってはわからない。

食べた後悔と食べない後悔、やった後悔とやらない後悔は、どちらも食べた後悔、やった後悔を選ぶが、ぼったくられた後悔とぼったくられない後悔だけは、ぼったくられない後悔を選ぶ。特に歳を経るごとにこのぼったくられないアンテナは働くような気がする。それだけ保守的になっていき、つまらない人間になっているのかもしれないなぁと思うこともある。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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