2012-05-13
「現地の映画館に行ってみよう」
スクリーンにはタイの国民が大好きなプミポン国王の映像が流れ、国王を賛歌する曲が流れる。その間、観客は立ち上がり敬意を表す。国歌斉唱で国旗を掲揚するときの雰囲気に近く、タイの映画館では映画が始まる前の日常的な光景である。
街を散歩していると無意識に映画館を探すようになって十年が経つ。初めて海外の映画館に行ったのはローマだった。パパラッチを題材にしたイタリアのコメディ映画を上映していた。予告編として最初に流れた映像がブラッドピットのイタリア語吹き替えだったことを今でも覚えている。ブラッドビットが「チャオ」って言っている映像を観ただけで妙に嬉しかった。そして、映画の途中で休憩が入るのも初体験だった。内容に合わせて休憩のタイミングを計るということはなく、停電で止まってしまったかのように突然、映像が途切れ、場内が明るくなる。どこかイタリアらしい上映だった。
その体験が楽しく旅先で映画館に行くことが多くなった。ネパールのカトマンズでは、外国人が映画館に来ることがあまりないからと劇場スタッフが君の為に席を空けたよと一番後ろの一番真ん中に案内してくれた。実は一番前の席で観るのが好きと言えない僕は言われるがまま席についた。後ろがイイ席と相場が決まっているように後ろから埋まっていく客席は異常な盛り上がりを見せる。カトマンズで撮られたローカル色の強い映画が上映されたのだが、スクリーンに知っている場所が登場しただけで、
「あっ!あそこの歩道橋だよ~。俺の家は、あの近くなんだよ」
的な声(あくまで予測だけど)があがり、笑い声があがる。主人公の後ろに敵が現れると声をかけて知らせようとする。通じないことは当たり前だが、それくらい映画にのめり込んでいく幸せな時間が流れているのである。
体育館のような映画館でハリウッドのコメディ映画を上映して大爆笑するロシア、フランス語とオランダ語の二ヶ国語の字幕で画面の真ん中近くまで文字が流れ、見にくかったベルギー、機械の故障でハリウッド映画の上映が途中で止まってしまい、明日、また来いと言われたキューバ、値段が前の席、後ろの席、二階席につれてどんどん値段が高くなっていくインド、棒読みのナレーターが登場人物の吹き替えを全て一人の女性が行うベトナム…数え上げればキリがない。
「海外で映画なんて観ても内容わからないでしょ?」
とよく聞かれる。もちろん日本語しかできない僕には細かい内容はわからない。しかし、余程、入り組んだ会話劇でもない限り、それなりに楽しめる。それよりも海外の映画館の雰囲気を味わうことの方に意識は向いている。映画上映ひとつにもそれぞれの国民性が出る。
世界の映画館について思い出しているうちに、国王の映像が終わり、客席にみんな座り、本編が始まった。今日のように国王に敬意を表した後にタイのホラー映画を観るというのもギャップがあってこれまた新鮮である。ちなみに現在、タイのホラー映画は日本のホラー映画と肩を並べる程、世界で注目を集めている。
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