salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2012-07-22
「食べない後悔、食べた後悔どちらを選びますか?」

デリーの立ち食いの屋台で得体のしれない揚げ物を食べようか迷ったが結局、食べてみた。お腹を壊したら壊したでいいではないか。現地の人が食べているのだから、死にはしないだろうと思って口にする。男性にしては珍しい便秘症の僕の場合、少々、お腹を壊したくらいの方が快便生活を送れることもある。こうして本当にお腹を壊したことも多々あるので他人には勧めない。僕は食べない後悔より食べた後悔を選ぶが、僕のパートナーは食べた後悔より食べない後悔を選ぶ。選択は人それぞれなのである。

食に関しては決して詳しくない。常に知らないことだらけである。もっと食の勉強した方がいいよと注意されることも多いが、知らなければ知らない分、旅の間の驚きも大きくなり、その食べ物に出会って食べてから調べますと怠け者特有の言い訳をする。気になった店には入り(場所見知りが激しい僕はものすごく苦労するんだけど)、とにかく口にしてみる。マレーシアやタイのように最初は、どうやって注文するんだろうと思う屋台やぶっかけ飯屋もある。そんなときは人が食べてみるのを見て、お行儀が少々、悪いが指でさせば、言葉など通じなくてもたいてい出てくる。便利な世の中でガイドブックやインターネットで調べれば料理の名前は後からたいていわかる。もし、載っていないような料理であれば逆に自分が見つけたのだと自画自賛すればいい。そして、もう一度、行って、今度は指しながら、「what’s this?」と聞いてみる。

知らない調味料がずらりと並び、どうやって食べるんだ?と思うこともある。そんな時は、近くにいる人の食べ方を見ながらマネをしてみる。タイのようにスープ麺に砂糖を入れるという僕からすると信じられないような食べ方も見かけ、いざマネをしてみると意外に美味しかったりする。
魚の骨の出し方一つを取っても様々である。床に吐きだす地域もあれば、テーブルの上にそのまま吐き出す地域もある。僕などはテーブルの上に直接、吐き出す行為は汚いと思うが、彼らからすれば、一度、口にしたものを、まだ食べている皿に戻すことの方が信じられないのである。インドなどではカーストの違う人の唾液には神経質で、日本や韓国、中国のようにみんなで鍋やしゃぶしゃぶを箸で突っつくことは気絶しそうなくらい驚くという話を聞くし、もっと身近な例でいえば、日本人が音をたてて蕎麦を食べるおじさん達のことを珍しい生き物を発見したかのように見ている外国人に遭遇したこともある。

今回の旅で、たまたまインドネシアのバリ島とインドというヒンズー教の国が続いた。彼らは右手だけを使って器用に食べ、僕も何度かそうやって食べた。ホテルでインド人が目の前にスプーンとフォークがあるのに手で食べるのを見かけ、
「スプーンとフォークが前にあるのにどうして手で食べるんだろうな。信じらんねぇ~」
と言っていた日本人男性の声を聞いたことがある。僕も一瞬、そう思ったのだが、後で調べると彼らにとっては、せっかく神様からいただいた物をスプーンやフォークを使って食べるということの方が不浄なことにあたるのだそうだ。「信じられねぇ」と言っていた男性達も寿司屋のカウンターでは箸があるのに握り鮨を手で食べているんだよね。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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