2012-09-2
「計画通りには行きません」
成都から南京まで列車で三十四時間かかる。単純に考えて丸一日と十 時間である。夜発の便を選んでいるので、夜が二回、つまり二度眠ることになる。睡眠時間が八時間×二の十六時間を差し引いても十八時間は列車の中で過ごす。ノートパソコンのバッテリーが持つ四時間は来週、締切の原稿を書く時間にしよう。このところあまり読んでいなかった本も酒をちびちび飲みながら読みたい。泉鏡花の「高野聖」と田山花袋の「布団」と夏目漱石の「こころ」を選ぼうと任天堂DSに入っている電子本の文庫百冊が並んだ表紙を眺めながら想像する。八時間程度、読書にあてよう。
じっくり車窓を眺めながら音楽も聞きたい。モーツアルトもいいし、ファットボーイスリムも聞きたい。ライブ盤のニールヤングもじっくり聞きたいし、普段、あまり聞かないビヨーグも聞きたい。邦楽は久しぶりにエレファントカシマシがいいなぁなどとiPodでアルバムの選択をする。iPodの電池を考えると六時間程度だろう。ちょうどこれで十八時間になるじゃないか。こうして車内の時間の計画を立てていくのが大好きである。
飛行機に乗っても、毎回、到着までの時間を逆算しながら機内映画を観る本数を決め、残りの時間を本と音楽と睡眠にあたるという計画を立てる。もちろん長距離バスの時も計画をたて、たとえ国内の新幹線で東京から大阪までの三時間弱でも予定を立てる。それにあわせて、お酒などの飲み物や食べ物を購入して気分をどんどん高めていく。
しかし、当たり前だが、いざ乗ると人生と同じで計画どおりにはいかない。三十四時間も乗っているのだから、まずはゆっくりしようと腰をおろして車窓を眺める。そのうち寝台に横になって眺めているうちに眠りに堕ちてしまう。眠りが浅いせいかどれだけでも眠ることができ、気がつけば九時間も眠っている。さぁ、仕事するかぁとパソコンに向かえば、原稿よりパソコンの中に取り込んだ旅中に撮影した写真が気になって見始めてしまい、電池だけが減っていく。手元の酒に手を出し、酔いと電車の揺れがバランスよく心地よくなり、また眠ってしまう。ハッと目覚めて、本でも読もうと任天堂DSを開く。電子書籍に慣れていないため、百ページ程度で目がチカチカしてしまい、読む気をなくす。気分転換にと食堂車に行って酒を飲みながら車窓を観る。部屋に戻って音楽でも聞こうとiPodから予定になかったヒーリング系のエンヤを聞き始める。あまりに気持ちよくて、またまた、そのまま眠ってしまう。いった僕はどれだけ眠れば気がすむのだろう。こうして気がつけばまた夜になっている。あれだけ眠ったにも関わらず、いつものように眠くなる。車掌に起こされ、まもなく南京だと言われ、焦って荷物をまとめる。そして、今回もまた計画通りにいかない。
きっとそれでも次も車内での時間計画を立てるだろう。きっと、自分の心のどこかには、計画通りに行かなくてもいいと思っているに違いない。旅と同じで計画を立てているときが一番ワクワクするのである。
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