salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2012-07-1
「強くNO!と言えること」

 ホテルで出したクリーニングの衣類の裏地にマジックで番号が書かれていた。変なところだけ血液型A型の顔をのぞかせる僕は、日本のクリーニング屋では洗い方が表示されているタグにマジックで名前が書かれることが嫌だった。しかし、旅を続けるうちにいつしか気にならなくなった。これは多少なりともインド人のおかげかもしれない。気にならなくなったからと言って別に穏やかになったと言っているわけではない。実際、インドではかなり強く、時には怒り気味に「NO」と主張する機会が多い。状況はかなり違うだろうが、ニコニコしているだけで自分を主張しないと欧米のビジネスの社会ではバカだと思われてしまう話をよく耳にする。外国で働く日本人女性と食事をすると時折きつく感じるのはそういった厳しい中で生きてきているからだということも旅を続けているうちにわかってきた。

誰にでもいい顔をしていたい僕は、最初、バカだと思われてもいいので、どんなことがあってもニコニコしていようと旅を続けていた。もちろん旅は楽しいのでニコニコしていることも多いが、それだけではすまないこともある。ニコニコしている=否定していないということで、やりたい放題してくる人々もこの世の中にはいて、特にインドではその傾向が強い。よって自分が嫌であれば、強く「NO」と言わないと伝わらない状況が出てくる。

靴磨きの子供たち。人にもよるのかもしれないが、十ルピー(約二十円程度)で、それなりにきれいに磨くので埃ですぐに汚れてしまうデリーの街では重宝している。ただ彼らは中敷を勝手に入れてお金を取ろうとし、遂には壊れてもいないところを勝手に縫い始める。最初は、
「おいおい、マジかよ。やめろよ」
と日本語で言いながら笑っていた。この笑っていること自体が彼らにとってはオッケーを意味してしまう。次第に僕は「NO!」と強く言うようになる。しかし、多少の強さでは彼らはへこたれず続けようとする。こちらも負けずに靴を取り上げて、目を見つめて本気でNOと言い、怒っていることをキチンと相手に示す。こんなことが日常茶飯事で繰り返される。

宿泊先のホテルへなかなか連れていってくれないドライバー。釣銭をごまかそうとする店員など、こちらが怒っているという意思を伝えないと彼らは平気で繰り返す。誤解してほしくないが、全てのインド人がそういう訳ではない。こちらが恐縮するほどいいインド人もたくさんいる。あくまで11億というインド人の数が多いので、パーセントが少なくても自然に悪い人も数だけは多くなるということで、そういう人に狙われやすい僕のような間抜けな日本人は、よく出会うというだけである。地方から出てくると東京にカワイイ子が多く見えるのと同じ法則。

ともかく海外で「NO」と意思表示をきちんとして断らなくてはいけない場面は多いが、その分、しかし、そういったインド人のおかげで衣類の裏地にマジックで書かれたくらいでは何とも思わなくなってしまったのである。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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