2011-08-21
「野良犬に囲まれたら?(スコータイ・ノーンカーイ/タイ)」
狂犬病。発病したらほぼ確実に死亡すると言われている。現在の日本では国内感染の可能性はゼロに等しいらしいが、海外では感染する可能性がまだ残っている。5年程前、フィリピンで犬に噛まれた2名の日本人が日本で狂犬病を発症し、亡くなったという話もある。
タイには犬が多い。飼い犬なのか捨て犬なのかが区別がつかないことも多い。首輪をつけていれば飼い犬とわかるが、首輪をつけていなくても飼い犬である場合もあるのだ。身体が汚れているなぁ…捨て犬だろうなぁ…などと思っていると飼い主が名前で呼んだりすることがある。人生の中で犬に対して恐怖というものを感じたことはない。しかし、今回のタイ滞在中、人生で初めて犬に対して恐怖というものを続けて二度、感じた。
一度目はスコータイの川沿いを散歩していると奥まった家から大きな真っ黒な犬が、いきなり吠えながら走って向かってきた。本能的に「まずい!」と思った。しかし、何かの本に犬から逃げる場合、走ってはいけないと書かれていたことを咄嗟に思い出すくらいの余裕はあった。
僕は黒い犬の方を向いたまま止まった。犬は僕との距離一メートルのところでピタリと止まり、吠え続けた。やはり走って逃げないことは正解だったようで、彼は吠え続けるだけで一定の距離感を保ったまま近づいてこない。
眼だけはそらさないようにして、いざというときに投げようとウエストバッグの中から手探りで本を取り出した。その時、持っていた本が古川日出男の「ベルカ、吠えないのか?」という犬を主人公にした小説というのが何とも皮肉である。しばらく睨み合っていると家の中にいた主人が大きな声で犬を制した。犬はそれでも吠え続けたが、先程の威力はなくなった。吠える声を後ろに聞きながら再び歩き始めた。手に平にかなりの汗をかいていた。
二度目はノーンカーイの街だった。夜、メコン川沿いの飲み屋街に出掛ける途中のことである。いつもは川沿いの広い歩道を通っていくのだが、近道である市場を通り抜けていくことにした。既に市場は閉まっているので不気味な雰囲気ではある。本来、そう感じた場所を旅人は通らない方が賢明である。
閉まったシャッターの前で、たむろしていた中型犬が三匹いきなり吠え始めた。三匹とも真っ黒で全く見えなかったので、これにはかなり驚いた。三匹は吠え続けながら、円を描くように僕を囲んだ。この嫌な囲まれ方は高校生のときに、別の高校のヤンキーに囲まれカツアゲされて以来である。市場の通路が狭いことが更に恐怖心を募らせた。今度ばかりは本では足りない。
僕は斜め掛けのウエストバッグをはずした。そして振り回す仕草をした。彼らは一瞬、ひるんで横に逃げた。空いた場所をすぐにでも走って逃げたかったが、自制し、彼らの様子を見ながら後ろ向きに歩いた。彼らは吠えながら向かってこようとする。僕は逆に彼らを追いかけるようなフェイントを一瞬だけ見せると彼らは少しひるんで逃げた。そして離れた場所からずっと吠え続けていた。あれ以来、初めて会った犬に手を出すことがなくなった。
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