salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2011-12-18
「トラブルはあると思っておいて、ちょうどいい」

 タイからラオス、ラオスからベトナムとどちらもバスで国境を超えた。
タイからラオスに入る際、バスのトランク検査があり、ラオス側のイミグレーションで乗客の荷物は全て外に出されてしまった。その検査をあらかじめ知っている人達は出国スタンプを押した後、慣れたようにバスから出された荷物をピックアップして、イミグレーションを出たところでバスに再度、荷物を積み込む。しかし僕は知らなかった。

しかも僕はイミグレーションで手間取っていた。ラオスへの入国カードが記入台に一枚も置かれていなかったのである。僕以外の乗客はこのルートの常連のようで既に記入済みの入国カードを手にしていた。僕だけが入国カードをもらうために一旦、列に並ばなければならなかった。ようやく手に入れて記入し、列の最後尾に並んだ。係員は僕のパスポートを手にするとペラペラ捲り始めた。様々な国のスタンプが気になるらしい。挙げ句には「これどこの国?アフリカ?へぇ~。いい国だった?」と聞いてくる始末。既にイミグレーションは僕一人だけ。バスに置いていかれることはないとはわかっていても、気持ちは焦る。「ハリーアップ!」と喉元まで出かかるが、係員の機嫌を損ねても、いいことは一つもないので笑顔で答える。

ようやくスタンプを押してもらうとバスまで全速力で走った。すると一人の係員が大声で僕を呼ぶ。振り返ると彼が指した方向に僕の小さな赤いトランクが一つだけポツンと置かれていた。もし、係員が言ってくれなければ、そのトランクとは永遠の別れになっていただろう。一応、荷物を忘れていかないように係員がチェックしているだろうが「必ず」という保障などない…と思っておいた方がいい。

ラオスとベトナムの国境では別の問題が起きた。バスが国境を超える場合、入国者がパスポートのチェックを受けるように、バス自体も国境を超えるための許可証が必要らしい。その時、僕が乗っていたダナン行きのバスの許可証にスタンプを押してもらえないという事態が起きたのである。詳しい理由はわからない。ともかく、ただ事ではないことだけは雰囲気でわかった。バスが国境の手前の事務所から動かない。ここで降ろされた後の可能性を想像して不安になる。とはいえ考えても仕方がない。こういうときは「別に死ぬわけじゃないし」と思うことにしている。

一応、危険な地域の情報だけは、こまめにチェックしている。しかし、それ以外のことに関しては防ぎようがない。バスの許可証が下りないこともあるので注意しましょうなんてガイドブックにも書かないだろうし、書いても注意のしようがない。国境を超えるシステムというのは国によって違い、同じ国でも場所によって違う。時には国の情勢一つで変わってしまうことだってあり、極端な話、係員一つで変わる可能性だってあるのだ。日本では考えられないことが海外では普通に起きる。だから同じ人が同じ場所を通ってきても違った体験話が聞けるわけである。なぁんて偉そうなことを言いながら、実は空がどんどん暗くなっていく国境で不安になりながら、ビクビクしていたんだけれど。

一時間以上、経っただろうか。バスの添乗員が喜びの雄叫びを上げながら許可証を持ってバスの元に走ってきた。どうやらスタンプを押してもらったようだ。こうして僕の土産話も一つ増えたわけである。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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