salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2011-03-27
「欲にかられ、損をする」

ホテルでは一ドル=11000チャット、ブラック・マーケットでは1ドル=12000~13000チャットというのが僕のヤンゴンでの両替の目安になった。そして、ブラック・マーケットでは、変える金額が大きければ大きいほど、レートがよくなることもわかった。

「サクラタワー」という日本名のビジネスビルの前で何度も会う両替商のインド人の男がいた。
「where are you going?」
眉毛が一本につながった濃い顔の男は会う度にニコニコしながら、きれいな英語で声をかけてくる。最初の頃は、「エクスチェンジ(両替しないか)?」と声をかけてきていたのだが、レートがホテルと変わらなかったので交渉は成立しなかった。その後、いつも、そのタワーの前で頻繁に会うので、いつしか「どこ行くの?」に質問が変わった。「ムービーシアター」、「パゴダ」、「インターネットカフェ」などとこれから行く場所を、その度に正直に答えていた。

しかし、この日はゲーム感覚がむくむくと湧き起こり、「エクスチェンジ」と答えてみた。俺のところでもできるから頼むよと悲しそうな顔で返してきた。からかい気味に君のところはレートが悪いからなぁと言うと彼はいくらならいい?と言うではないか。1ドル14000チャットと言うと彼は50ドル変えるのであればそのレートでいいと言ってきた。こんなにいいレートは初めてだった。ホテルのレートと比べると1ドルで3000チャット、つまりコーヒー一杯分違う。50ドルで考えると150000チャット違う。150000チャットあれば何ができるか。昼夜のご飯と、それぞれにビールをつけることができ、映画を観て、マッサージも一時間受けるという一日のコースができてしまう。

街のシンボルのパゴダ「スーレーパヤー」の近くの看板も出ていない店舗へ連れていかれた。店といっても一畳くらいのスペースに椅子が二つと木製の机が一つ置いてあるだけである。机の前のプラスチックの椅子には強面の髭を伸ばしたオヤジが座っていた。どうやら彼がオーナーのようだ。「イクラ?」と日本語で聞いてきた。「50ドル」と同じく日本語で答えると、わからない顔をしたので英語で言いなおした。その脇から僕を連れてきたインド人がレートを言っているようだった。

机の引出しから古い500チャット札の束を出してきた。ホテルでは、新しい1000チャット札で両替してくれるが、ここはレートがいい変わりに紙幣が古いのだろう。ただ、50ドル変えるとなるとものすごい枚数になる。1ドル14000チャット計算で50ドル=700000チャット。すなわち500チャット札1400枚。100枚の束が14セット。

ところどころで目についた破れた紙幣は変えながら、何とか全てを数え終えた。ここまでは気が張っていたのだが、その後、僕のいつもの悪い癖で気が抜けてしまったようだ。信じられないことに、400枚の500チャット札の束を店に置いてきてしまったのである。気づいたのは翌日で、もちろん店側は知らぬ存ぜぬ。欲にかられた自業自得である。結果的に一ドル10000チャットで両替したことになってしまった。これを期に僕は両替交渉のゲームをやめた。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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