salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2010-11-7
「旅人に向いている人」

一緒に旅をしていた大学生の足は治らなかった。

多少はよくなっていると言っているが、足の引きずり方を見ていると、まだまだ痛そうだ。

ペナン島を可能な限り歩いて回り、

写真を撮ることを楽しみにしていた彼は残念そうだったが決して悔しそうではなかった。

彼は旅人に向いているのだろう。

悔しさばかりが残る旅は短期の旅はいいとしても長期の旅では身体がもたない。

「あそこに行けなかった」、

「あれも食べられなかった」

といった思いが、あまりに強過ぎると旅の行程がいつしか義務感になり、最初は楽しいだろうが、そのうち辛くなってくる。

「あそこに行けなかったなぁ。今度、来たら行こうっと。来るかどうかわかんないけどね…。へへへ」

「あれ食べられなかったなぁ。でも、昨日、食べたあのぶっかけ飯うまかったからいいか」

残念がるが悔しそうじゃない程度に力がぬけていた方が旅の疲労感は少ないと思う。

さて、ペナン島からクアラルンプールまで戻る。

戻る方法は大きくわけて三つ。

飛行機、

直行の長距離バス、

フェリーで対岸のバターワースまで行き、そこからマレー鉄道か長距離バス。

飛行機は今回の旅の予算を考えると外れる。

行きと同じペナン島から直行の長距離バスは楽かもしれないが、多少でも違う帰り方をしたい。

消去法でフェリーに決まりである。

宿を出る際、フェリー乗り場を聞き、場所はすぐにわかったのだが、

チケット売り場が見当たらない。

案内所のような窓口で、「バタワース?」と対岸の地名を語尾上げで聞くと、早口の英語で何やら言いながら到着している大型のフェリー船を指す。

とにかく急げとでも言うような身ぶり手ぶりである。

その勢いに押されるように建物の坂道を駆け上がる。

既にそこは乗船口だった。

通勤として使っているであろう地元のマレー人、

バックパックのリュックを背負った欧米人カップル、

女性四人組の韓国人観光客など、

様々な乗客はいるのだが、誰一人としてチケットを持っている気配がない。

船のゲートは開いたのだが、係員はチケットをチェックする様子もなく、人の流れを見ているだけである。

ひょっとすると乗り込んでから料金を徴収しに来るのかもしれない。

一応、すぐに出せるようにポケットに小銭だけ用意しておく。

結局、船は無料だった。

「ラッキーですねぇ」

そう言った彼の笑顔はまさに力の抜けた旅人の顔だった。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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