2010-11-15
「寝台列車は上段を選ぶか?下段を選ぶか?」
シンガポールのチャンギ空港で大学生を見送った後、深夜特急で再びクアラルンプールまでやってきた。
前回は寝台列車の上段のベッドを選んだが、今回は下段のベッドを選んでみる。
下段のベッドの方が日本円にして四シンガポールドル(約三百二十円:2008年9月の段階)程度高い。
上下の一番の違いは天井の高さであろう。
上段は天井が低いので圧迫感があるのに比べ、下の段は、多少、高さがある。
よって下段の方は窓が大きい。
上段の窓は駄菓子のハッピーターンのような形をしている。
つまり細長く、しかも寝ながらでないと外が見られない位置にある。
下段には背もたれがついているので、足を伸ばして窓の風景を見たり、本を読んだりするときに便利である。
たった四シンガポールドルの料金の違いで得られる快適さは人にもよるが、僕は下段を選んだ方がいいと思う。というか思っていた。
出発するまで買ってきた缶コーヒーを飲み、アイポッドで古今亭志ん生の落語を聞きながら至福の時間を過ごす。
いざ出発し、寝転がってみると下段の欠点が出てきた。
当たり前だが線路に近いため、車両の振動をもろに受ける。
しかも寝転がれば、その振動は身体全体で受け止めることになる。
そして窓の風景。
楽しむと言っても、考えれば深夜特急である。
早朝のクアラルンプール到着まで何も見えない。
逆に時間調整で泊まる駅のオレンジの明かりがカーテンの隙間から容赦なく入りこみ、せっかく眠っていたのに目を覚ましてしまう。
前回、上段で移動した際はぐっすり眠れたのだが、今回は、振動で途切れ途切れ、目を覚まし、たとえ眠ってもオレンジの明かりで目を覚ますことになる。
眠りが浅いままクアラルンプールに到着した際、頭はボーっとしたまま降り立ち、携帯電話を車内に忘れてしまった。
一時間後に気付き、駅の係員達が手分けをして探してくれたが結局、見つからなかった。
もう二度と下段のベッドなんか乗るものか。
そう思い、クアラルンプールから北東部に向かう深夜特急では、再び上段を選んだ。
「コタバル」というマレーシアとタイの国境の街まで約十四時間。
シンガポールからクアラルンプールまでが約九時間なので、今回は更に五時間ベッドにいることになる。
やはり上段の方がいい。
出発してしばらくは寝転がりながら眠ることの快適さに満足していた。
しかし、今度は上段の欠点が露わになってきた。
お腹を壊していた僕は夜中に二度ほど、トイレに行きたくなったのである。
上段から真っ暗な車両の中、梯子を降りるのは結構な神経を使う。
そして、翌朝、気付いた。
更なる長旅なので朝の車窓が楽しめるのである。
こうなると下段で座りながら、ボーっと窓を眺めている客がうらやましくてしょうがない。
健康な状態で深夜のみ走るのなら上段、お腹を壊しているか、陽が昇ってからもしばらく列車が走るようであれば下段を選ぶ。
これが今回、三回乗ったマレー鉄道の深夜特急から僕が学んだことである。
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