salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2011-03-7
「ドクターフィッシュ。やるべきか?やらざるべきか?」

あの時、やっておけばよかったなぁと後悔するのと、やらなければよかったなぁと後悔するのであれば、後者の後悔を選んだ方がいいと僕は思っている。実際、なかなか難しいけれど。

迷っていた。やらなかった後悔とやった後悔という話の中で取りあげるほど大袈裟なものではないのだが、僕にとっては大きな決断だった。迷っていたのは、テレビで見たことのあるドクターフィッシュの体験。人間の古くなった角質を食べるコイ科の淡水魚の特性を利用し、水槽に足を入れ、足の角質を食べさせ、手と足がつるつるになる。小刻みな刺激を皮膚に与えることで代謝もよくなるらしい。

これがシンガポールの中華街にある店で体験できるらしい。てっきり中国の医療として使用されているのかと思いきや、実は、トルコやドイツでアトピーなどの皮膚治療に用いられているそうだ。

ものすごく興味はあるのだが、魚が食べる感覚が電気風呂に入った時のようなチクチク指すような感触があるらしい。僕はこの電気風呂というものが蛇と同じくらい苦手で、一度、銭湯で体験して以来、入ったことがない。考えるだけでも気持ちが悪い。しかし、行かなければ、あの時、やっておけばよかったなぁと後悔しそうな気がした。意を決し、行ってみることにした。現地在住の友人を連れて。

入口で洗面桶のお湯に足を入れて軽く洗う。その間に店の人から説明を受ける。一緒に行った友人に通訳してもらうと手前の水槽と奥の水槽で魚の強弱の違いがあるのだそうだ。つまり手前の水槽は魚が小さく、奥の水槽は魚が大きいという魚の口の大きさの違いだけである。
魚が大きいと言っても、三~五センチ程度。

「せっかくだから大きい方にしようよ」
電気風呂が平気な友人は、そう言って、さっさと大きい魚のいる水槽の方に足を入れた。一つの水槽は小さめで向かい合って四名が突っ込むといっぱいになってしまう。僕と友人の前には先にカップルが入っていた。

恐る恐る僕も友人と同じ大きい魚のいる水槽に足を突っ込む。もの凄い勢いで僕の足に魚が群がってくる。そして吸いつき始めた。すぐに電気風呂のようなチクチク感が襲い、股間のあたりが何ともこそばゆい感じがして太ももに自分の爪を立てた。

五分が経った。僕の手と足に群がった魚が減ることはなかった。相変わらず鳥肌は立ったままである。同じ水槽に入っている四名の中で、一番、僕に魚が食いついていることは明らかだった。角質が多いだけなのだが、これだけ群がるとお風呂に入っていない汚い人と思われているのではないかと小心者の僕は思い始め、電気風呂に近い心地悪さより恥ずかしいという感情の方が大きくなってきていた。
「マレーシアで、プールに行ってかなり日焼けしましたからねぇ。あれから、ちょうど一週間くらい経つから皮がむける頃なんだろうなぁ」
弁解するかのように友人に言っている自分が虚しい。前のカップルは華人で日本語などわからない。

十五分が経過した。やはり僕に群がる魚は減らなかった。もう恥ずかしさもどうでもよくなっていた。しかも、電気風呂の感覚が心地よくなってきた。次回、日本に戻ったとき銭湯の電気風呂に入ってみようかなぁと思ってしまうほどだった。やった後悔どころか、ありがたいことに予想外のトラウマまで克服できてしまったようだ。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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