salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2011-05-22
「チケットがない(ヤンゴン→モウラミャイン1)」

嫌な予感が的中した。初老の係員は乗客名簿を確認した後、老眼鏡の隙間から上目使いで
「フル(満員)!」
と言った。ミャンマーの鉄道は前もって予約をしておかないと満席になってしまうと聞いた。そこで前日にモーラミャイン行きのチケットを予約したのである。

ヤンゴンの中央駅は少々、面倒な造りになっている。前日までにチケットを買う窓口と当日、乗車する改札口とは線路を挟んで、お互い反対側の場所にある。お互いの場所は駅の構内の通路では繋がっていない。もし、お互いを行き来するなら、一旦、広い駅の敷地内を出て車や歩行者が使用する陸橋まで行き、渡って反対側の窓口まで行かなくてはならない。つまり「コ」の字型に移動しなくてはならない。ただ前日までにチケットを購入し、手に入れておけば、当日はそのチケットを持って、反対側の改札に直接、行って乗るだけである。

僕も前日にチケットを買うところまでは順調…いや、順調でもなかった。行き先や乗る席のグレードによって買う窓口も違う。案内板に英語表記はなく、全てかわいらしい丸文字のミャンマー文字で書かれているので全く読めない。係員に7:15 MOWLAMYINE UPPER CLUSSと書いたメモを見せ、その窓口まで連れて行ってもらう。親切に連れてきていただいたが、実際、買うことができるのは連れてきてもらった窓口のまた、その隣の窓口だった。

なんとかチケットが買えると思ったら、外国人はパスポートが必要なのだと言う。国内の移動なのにパスポートがいるとは何ともミャンマーらしい。などと感心している場合ではなく、僕はパスポートをホテルに置いてきてしまった。

しかし、基本的にミャンマー人は優しい。予約が埋まりそうなので、名前だけ入れておくと僕の名前を名簿に書いてくれた。今日はこれで窓口が閉まってしまうので(前日券売り場は銀行のように三時くらいに閉まってしまう)明日、反対側の当日券窓口で名前を言ってパスポートを見せた後にお金と引き換えにチケットを受け取ればいいと言ってくれた。ちなみに当日券の販売窓口も反対側なのである。窓口の位置関係から考えると、本当にあの乗客名簿は線路を挟んだ向こう側の窓口に届くのだろうかという不安を持ちながら、翌日、僕はホテルで荷物をまとめ、トランクとリュックを持って当日券売り場の窓口までやってきたのである。説明に長く要したが、こうして最初の「フル!」という言葉に戻る。

粘り強く、片言の英語で昨日、予約を取り、係員が僕の名前を書いているのを見たと伝える。自然に口調がきつくなり声が大きくなっていく。係員のおじさんは、「どうどう」と僕をなだめた。そういえば、この国では大きな声で怒ったような口調ははしたない行為とみなされる。

彼は座席の名簿に僕の名前を書き足した。しかし、そこは×マークの書かれている席である。チケット代の十八ドル(外国人はドルでしか買うことができない)が新札であるかどうかを確かめると、そのお金を胸のポケットに入れ、チケットを出してくれた。×マークが気になったが、とりあえずチケットを握りしめ、僕はそのまま改札口へと向かった。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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