salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

〜日常は、劇場だ!〜「勝手に★ぱちぱちパンチ」

2011-09-5
風水的な、あまりにも風水的な

こと人間は命ある限り、さまざまな欲望と向き合いながら生きていかねばならない生き物である。
百八つといわれる煩悩の数も、自身を見る限りそんな数では収まりきれない欲や願いが、日々日常の中で渦巻き、飛び跳ね、出現の機会を今かここかと伺っていることは間違いない。

私にとってそんな欲望や願望に、ここぞとばかりに誘いをかけるものがある。
それは、占いや風水といったものだ。
信じる人も信じない人もいるだろうが、現代人の多くは、時には信じ(主に良いことを言われたとき)、時には信じず(主に納得できないことを言われたとき)、その時々でなんとなくバランスを取りながら、うまく自分の人生に占いや風水などを取り入れることもある、といったようなスタンスではないかと思われる。

私自身もそうである。
その思いの奥底の部分で、“占い”や“風水”とは、時には当たるだろうが、まあ100%絶対的にその通りになる!とは思っていない部分がある。だからこそ、気軽に利用できるとも言える気がしなくもないのである。

「時には当たることもあるし、全然当たらないこともある」

矛盾しているが、その不正確性の中で、私たちは安心して占いをし、風水を実行するのである。未来に良いことがおきるとされればその可能性を信じ、悪いことがおきるとされれば外れる可能性も信じる。
もし、100%当たってしまうなら、それはもう科学、いや科学さえも超えた未知なるテクノロジーである。今のところ、そんなものは地球上にはない(とされている)。

が、しかしである。
あるとき友人が、とてもとてもよく効くという、風水の本を貸してくれた。
普段なら、その友人はよくお勧めの物や本をプレゼントしてくれるのだが、今回に限ってそれはダメだという。
どうやらプレゼントするにはとても高価すぎるらしい。そして、必ず返せとも言われたのである。何やら確かに凄そうだ。

風水が占いと違い、面白いと思うところは、目には見えない運勢というものを改善する方法として、目に見える現実の道具を使うというところだ。
普通、占いとされるものは、タロットや占星術、姓名判断や人相まで、基本的にはそこから未来を読み解くだけである。そしてその未来の予兆を知ることにより、自分自身の行動を変えたり、考えや想いを持ち直したりすることによって、読み取った未来をより良くしていこうというアプローチが殆どであると思う。

しかし、風水は、何やら部屋の配置や方角、小物やグッズや色やなんやかやを現実の世界に駆使することにより運勢への作用をかける。
つまり、見えない運勢に対して、三次元のもので立ち向かうのだ。
考えればとても不思議である。三次元の環境変化が見えない運勢に作用を及ぼすなんて、一体どういう仕組みになっているのか、全く持って分からない。
でもまあ、効果があればそれでいいのである。

とにかく、このような経緯で私のところにやってきた風水の本を無視する手合いはない。さっそく、姿勢を正し、運勢アップの欲望を満々にしながら読んでみることにした。

「え~と、はいはい、なになに…。フムフム…。ほぉ~~、へぇ~~、そうか…。なるほど…。そんなっ!ヒィ~~、えぇ~~!マジで?!おいおい…、そう来る?でっ?おー!スゴイっ!ナヌナヌ…、それもかぃっ!まさか…、キーーーッ!!!嘘だろーーーー(>_<)」

そこには、ちょっと本当に効くの?というような、普段あまり耳にしたことのない驚くべき数々の運勢改善の方法が書かれていた。

本の内容はここでは明らかに出来ないが、ある物をあるべきところへ置くと、異性運や金運が上がり、出世し、よく眠れ、勉学にも力が入るという。
しかしまた、ある物をあるべきでないところに置くと、病気になり、リストラされ、家庭運は下がり、蓄えが減り、家族や子供の健康にまでも影響が及ぶと言う。
また、そういった置物を置く位置は、万人に共通したところもあれば、各個人の持つ運勢によって、ある人は東南に置き、またある人は北西へ、また置物によっては部屋の半分から後ろ側だとか、玄関から遠い位置だとか、非常に細かい調整が必要なのである。

なるほど。さすがに高価な本だけあり、すべてを理解するにはある程度の勉強が必要だ。まるで参考書のようである。
一般の本屋で売られているような本には、人によってやり方が違う風水などというのは聞いたことがなかった。
例えば、色ひとつ取っても、一般的には金運に良いとされている黄色でも、人によっては黄色の財布を持つことで逆に金運が減っていく人もいるということになる。

うーん、これは抜き差しならないことになってしまった。
知らなければそのまま過ごせたものを、知ってしまったからには対応せずにはいられない。
人間、目の前で「運が悪くなりますよ」と言われると、「運が良くなりますよ」といわれるよりももっと深刻に受け止めてしまうものだ。

とにかく、まずは何をどう改善するにしても、自分の家や部屋の方位を正しく知らなければ始まらない。風水の基本は、方位なのである。
私は、数年前に100円ショップで買った(何の理由で買ったのか不明…)簡易の方位磁石を取り出した。
これを部屋の中心に置いて、まずは部屋の正しい方角を測ることにする。

しかし早速、問題が起こった。
まず、部屋の中心がどこかが分からない。
仕方なくメジャーで部屋の床を壁沿いに測り、その数字の縦横半分のところを大体で中央まで目測し、クロスする所ら辺に磁石を置いた。かなり適当感が漂わなくもなかったが、考えないことにした。しかも、そのメジャーは1mしかない超短いもので、何度も何度も繰り返しメジャーを毛虫のように伸ばしては測り、伸ばしては測りして、ようやく測り終えたのだが、この時点で、既にちょっと面倒くさくなってきていた。けれども、「これも運を上げるため!」と、自らに言い聞かせた。

次にまた問題が起こった。
方位磁石を置いたものの、その見方が良く分からないのである。
高価で正確なものならもっと簡単なのであろうが、なんせ100円ショップで買ったものなので、元々、北方向を指し示す針自体が少し左右に歪んでいる。
それによく見ると、その方位を測定するための版面の印刷も、正確に東西南北に分かれていないような気もする。描かれている東側の面積がやや広いのだ。

大体の方位しか分からない方位磁石を前に、ヤル気風船に0.5ミリほどの穴が開いた。少しづつ空気が漏れ始めたのが分かったが、まだ致命的なものではなかった。まだまだ欲望のエネルギーが風船を膨らましているのだ。

「悪い運を去らせ、良い運を呼び込むためにもここは続けなければならない」

自身を叱咤激励し、いずれやってくる幸運の嵐を想像した。やめる訳にはいかない。
なんとか多分これが北だろうという部屋の方角を確定し、全体の方位も確認した。いよいよ運勢の改善に挑む準備が整ったのだ。
まずは、なんと言っても最初に考えたのは、異性運の改善だった。
早速、自分に合う方向に指定された置物を置こうと考え、その方位を確認していたときである。ふと、心の中で声が響いた。

『でも、ちょっと待てよ。もちろん異性運も大事だか、今月は予想外の出費ともろもろの出来事で、かつて無いほどお給料がピンチだ!まずは早急に改善しなければならないには金運ではないのか?異性運はまずは豊かになってからでも、十分に間に合うのではないか?いや、そうだ、何は無くともまずは金運だ!』

私は素直に心の声に耳を傾け、“異性”よりも“豊かさ”を取ることにした。
豊かさとは聞こえがいいが、ハッキリ言えば、まあお金のことである…。
そして、金運に良いとされている場所を重点的に攻めようと、その方角を正確に計測し始めたその時である。ふと、何かが私の中で語りかけてきたのである。

『ちょっと、待って!お金は確かに大事だけれど、先月からひどく体調を壊しているし、持病の頭痛や腰痛が全然改善しないじゃない。もちろん金運があるに越したことは無いけど、まずは体調を良くして、金運はそこからでいいんじゃない?健康はお金では買えないよ』

なるほど、確かにそうだ。健康あっての人生、いくらお金や異性に恵まれたからといって、寝込んでばかりいては運が良いとは言えない。
私はまたもや考えを改め、最も健康運に良いとされている方角に、すべての集中力を注ぎ、置物の配置を試みてみることにした。
そうして、やっと健康運を招き入れる準備が出来たと思った瞬間、またもやひとつの考えが脳裏に浮かんだ。

実は、少し前からなぜか急に職場の環境が悪くなったのを思い出したのだ。
理由は分からないのだが、ある同期の男性職員の私に対する態度が急に冷たくなり、風当たりが強くなったのである。
もともと極めて仕事の出来る優秀な人物なのであるが、感情のアップダウンが激しく、少しでも自身の気に障ったことがあるとヘソを曲げてしまうのである。
同じプロジェクトを担当しているために、このままでは仕事がやりづらく、かと言って上司に相談するわけにもいかず、大変困っていたのである。恐らく私自身が気づかないが彼の気になるところがあったのであろう。今までは仕事の合間に雑談や世話話をしていたのに、今では必要最低限の仕事の会話のみで、ここ数週間は挨拶しても無視され、目も合わせてくれない。

『そうだ、仕事運だ!とりあえず、今の職場の雰囲気をどうにかして自分の立場の安定を測るのが先決ではないだろうか?このままでは仕事が捗らず、最悪失ってしまうことにもなりかねない。職場が改善されうまく回り始めれば、必然的に収入の道は閉ざされることなく、精神も安定し、健康へもつながり、異性運を求める余裕も出てくるだろう!そうだ!個人的なことは後回しにして、まずは職場改善の出世の方位である仕事運を改善しよう!』

結局、私が数ある欲望の中で選んだのは、なんと仕事運だった。自分でも意外である。
とにかくそういう訳で、私はとある方位に、仕事運を上げるとされている置物を安置した。

ふう~、これで終わった!
欲望の重荷を下ろし、一息ついたところで、なぜか心身ともに、私はもうクタクタになっていた。
体力も精神力も、使い切った感が否めない。
どんなものであれ欲望に身を任せるように時間を過ごすと、想像を超えたダメージを受けてしまうものなのだろうか。言葉には出来ない、なんとも言えない重苦しい嫌悪感が体のどこかに溜まっているような気分である。
いずれにしても、やることはやった。あとは結果を待つのみと、握り締めていた見えない運命のコントロールの重みを手放した開放感に浸っていたそのとき、なんとなんとの難破船!(@ハドック船長)
あろうことか、ここで最後の大問題が起こったのである。

ふと部屋からリビングを見ると、とある電化製品が目に付いた。
なんとなく気になり風水本で確認すると、今置かれている位置に電化製品があると、私の部屋に入る気の流れをどうも邪魔するようなのだ。
折角、部屋の気の流れを整えたのに、その気が入りづらいものとなっては意味が無い。
早速、私は電化製品を動かせる位置を探した。
狭いリビングでベランダ出口や扉の関係を考えると、動かせる場所は限られている。
しかし、その本によると、その電化製品を唯一動かせる位置の方位は、その部屋に住んでいる人に健康被害(特に血液関係の病気)が出る可能性が高いと書かれていたのである。

「ひぃ~!それは困る~。けど、他に動かすところがない~!健康を取るのか仕事を取るのか…どうしようっ!!」

結局、悩んだ結果。
私は電化製品を動かすことを決めた。
まずは、部屋の風水の結果を知りたいし、万一健康に被害がでた場合、電化製品の位置を無理にでも他に移し変えればいいと考えたからである。

恐らくこのとき、私がとった行動は、先に言った不正確性の中の安心に伴うものであったのは言うまでもない。いくら当たる、効くとはいえ、所詮風水なのである。100%ではないのだと…。
(つまり、良いことは当たると信じ、良くないことは当たらないかもと信じた。)

それから数日後。

さて、皆さん、風水の結果はどうなったと思われるだろうか?

ここに、その結果をお伝えしたいと思う。
もちろん、すべて本当のことである。

私はある日その職員に話しかけられた。そして、何がどうなったのか、他の職員と共に一緒に休日に遊びに行くことになったのだ。
その日以来、今ではまるで何事もなかったかのように、以前どおりに戻ってしまったのである。
そしてまたある日、会社から帰宅途中で持病の腹痛が激化し歩行困難となった。翌日には、大学病院でMRI検査を受けるハメになったのである。
もちろん、その後すぐにリビングの電化製品を(元の場所以外に)移動させた。(不思議な位置になったが仕方あるまい…)
すると、2,3日後には、腹痛の痛みが10分1位に減ったのである。現在は痛み止めを飲むことなく、すでに数ヶ月が経っている。

これはすべて風水が生じた事態なのか否か。

『信じるか信じないかは、あなた次第です…(@やりすぎゴージー)』

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(もちろんこの風水本にも、実際にはこの通り改善しても、他のいろいろな影響で結果がでない場合もあると書かれていますので、あしからず…(汗笑))

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仕事運改善に使った長い棒。さてこれは何でしょう?(正解:CPなどで旗を付けるポール。持ち帰るの大変だった…)

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

1件のコメント

やっぱり 風水ってすごいパワーを持ってるのかなあ。
信じる者には 奇跡が起こるのかなあ。
長年信じる、継続の力が奇跡を起こしてるかも。その力はすでに内なる力になってるのかも。
そんな気がする。今後の幸運を祈ってます!!

by kiki - 2011/09/05 12:04 PM

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アラキ ランプ
アラキ ランプ

東京在住。映画と文学と旅行が好きな典型的文化系社会人。不思議なものと面白いものに目がなく、暇があってもなくてもゆるゆると街を歩いている。そのせいか3日に1度は他人に道を聞かれる。夢は、地球縦一周と横一周。苦手なものは生モノと蚊。スナフキンとプラトンを深く尊敬している。

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