salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

〜日常は、劇場だ!〜「勝手に★ぱちぱちパンチ」

2017-11-6
ガンっといこう!奇想天外?!④

ガンっといこう!奇想天外?!③を読む

衝撃的に明るい告知のショックも冷めない中、翌日、例のクリニックを訪れた。
現段階の状況を整理すると、

① クリニックでの日帰り引きちぎり手術で取った強大な腫瘍(6.5cm)は良性ではなかった。
② そうとは知らずに、医師への不信から、良性であっても、まだ組織がいくらか残っていると思われるため、再手術を検討すべく、(クリニックには内緒で)別の病院への診察を予約していた。
③ 別の病院での再手術のためには、クリニックでの手術所見や、取り出した組織の詳しい結果を手に入れ、新たな病院に持っていきたいと画策していた。

今日のクリニックへの訪問は、表向きは取り出した組織の結果を詳しく聞きに行き、これからの治療方法を相談するという流れではあったが、本当は③が一番の目的であった。

朝一番で訪問すると、いつもの尊大な医師は特に悪びれる様子もなく、電話と同じように良性ではなかったと告げた。

「あのね、ホルモンに反応するガンだから、良かったね。うちには副作用の少ない良い薬があるから、それを投薬しながら治療すれば大丈夫だから!」

1枚ペラのA4サイズの検査結果のようなものを渡された。
そこには、日本語と英語で、取り出した組織の種類や大きさ、どんな性質を持ったガンかといった情報が書かれていた。
続いてパワーポイントの画面で次々と資料を見せられ、どういった薬を使うかの説明を受けた。
いまならそれぞれの薬の意味も、検査結果の数字も詳しく分かるが、その時は話を聞いても結果の紙を見ても、良くわからないものばかり。
とりあえず、全てを受け入れ聞き入れるふりをし、ふむふむとうなずく。

ふと、検査結果に書かれたある文字が見えた。恐れていた記述が、本当に結果として出ていた。

「あの、断端陽性(まだ組織が残っている)と書かれてるようですが…」

しかし医師は、そんなことモーマンタイ的態度で、

「え?ああ、ちょっと!ちょっとだけだよ!この薬を使ったら大丈夫、消えますよ!そんな患者さん一杯いる!」

と言い切った。
恐らく、それでも不安と困惑の表情が私に出ていたのだろう、医師は、続けて、

「え?追加の手術をしたいの?もしどうしてもと希望するならやれるけど。けどね、ほんとに、もうちょっと!ちょーっとだけだから残ってるの。わざわざやらなくても放射線当てて、あなたのタイプのガンに効く薬を点滴でいれれば、消えるよ!」

そう言って、ちょーっとと言った時に親指と人差し指で隙間を作る仕草をした。

「今はさ、胸もある程度綺麗に残ってるでしょう?それをわざわざ崩すことはないよ。」

確かに、前回もブログに書いたが、手術の仕方はさておき、取り出した腫瘍の大きさの割には、右胸の山は左より一回り位小さいだけに見える。それはそれで、この医師に感謝している部分ではあった。

それでも、やはり納得できないような顔をしていたのだろう。
医師は、まるで擦りむいた傷で泣いている子供に言うみたいに、笑いを交えながらこう言った。

「ちょ、ちょっと、大丈~夫だから。そ、そんな、そんな(大げさな)ことじゃないよ~。」

一体何の話をしているのだろうかと、思いなおさないといけないくらい軽い口調だった。
本当に大騒ぎするような内容じゃないのだろうか?私が、大げさなだけ?!
少なくとも、乳腺の専門医で、毎日毎日大量の患者をみている医師なのは間違いない。その医師が、本当にそういうなら、そうなのだろうか?

だんだん分からなくなってきた。
いや、まて!でも。これはガンの話なのだ。改めて自分に言い聞かせた。

(“熱い心と冷たい頭を持て”)

緒方貞子さん(アルフレッド・マーシャル)の言葉を思い出し、とにかく次の病院で再手術に臨むのか、この医師のいうとおりこのまま放射線と抗がん剤で再手術なしとするのか判断するためにも、まずはクリニックのデータをもらい、次の病院での診察を受けたい。
しかし、このクリニックでの治療の可能性もあるのならば、何とかうまく話をもっていき、このプライドの高い医師から、へそを曲げられずに検査結果データを手にいれたい。

よし、やるしかない。
ある程度納得した表情を見せ、医師の説明も終わりかけたころ、意を決して医師に伝えた。

「先生、実は従妹が同じ乳がんで、別の病院で乳房全摘出手術を受けたんです。私としては、先生に診てもらっているから大丈夫と思っているのですが、悪性と分かった今、家族や従妹がどうしても従妹が治療を受けた病院でセカンドオピニオンを受けるべきだと、診察を受ける約束をさせられてしまったのです。なので、今回、この検査結果データや、今あるデータをもらってくるようにと言われたんでが。」

実は、従妹は本当に私と同じ乳がんになって治療を受けていたのだが、その病院ではなかった。
だから、半分は本当で半分は嘘だ。

案の定、医師の顔は曇った。不機嫌な表情を隠すこともなく、従妹が診療を受けた病院名を聞いてきたので伝えると、医師は、フンっと鼻を鳴らし、少し小馬鹿にしたような口調でこういった。

「あぁ、〇〇病院でしょう?知ってるよ!あそこの先生は、田舎の大学出身だがら、すぐに切りたがるんだよ!なんでもかんでも切る治療は古いんだよね。」

そして、続けてこう言った。

「あなたもきっと、乳房全摘出と言われるよ!あのね、胸を切って、毎日その姿を鏡で見て、それがショックで鬱になる人も沢山いるんだよ。現に、その○○病院で全摘出と言われ、それが嫌でうちのクリニックに来て、切らずに治った人もいるんだよ。」
「抗がん剤も、本当にきつい副作用のものが使われると思う。それだと、仕事を休んだり、髪が抜けたり、大変だよ。うちなら、良い薬があるし、副作用も少なく働きながら通えるくらいだよ。」

引きちぎり手術の前に、終わったらすぐにオフィスに戻って働けると言われて、鵜呑みにした苦い過去がある(実際は働くどころが歩くのもやっとだった)。
だから、本当にこの医師のいうとおり、副作用の少ない抗がん剤で、仕事も休まずに通えるのなら、それはそれで大変魅力的ではあるが、その言葉にどこまで信憑性があるのかは分からない。

しかし、意外にも、医師は、

「ま、家族がそう言っているのなら、とにかく、一度行って来たら?そこで話を聞いて、戻ってきたらいいよ!」

そう言って、紹介状を書くことと、データをくれることを了承してくれた。
(但し、即日とはいかず、数日後に取りに行かなければならなかったが…)

こうして、何とかクリニックでの検査結果データを手に入れた私は、翌週予定通り、インターネットで目星をつけ予約していた病院へと赴いた。
その医師には、予めメールにて現状を相談していた。しかしその段階ではまだ腫瘍は良性の前提で、短期間に増大した経緯があり、取り残しがあるため再手術をした方が良いか相談したいという旨の内容だった。

診察室に入り、クリニックの検査結果が悪性で、正式に断端陽性であったこと伝え、また腫瘍組織の詳細な内容が書かれた紙を渡した。そして、クリニックで示された治療内容を伝えた。
すると、医師は冷静な表情のまま、こう言った。

「ガンだったのですね。少しでも組織が残っているのなら、再手術すべきです。そうでないと、またそのままガンが大きくなってしまう可能性が高い。しかも、もとの腫瘍の大きさがかなりものであるし、初期ではありません。再手術(全摘出)を勧めます。そして再度組織結果をみてからですが、このデータからすると通常の抗がん剤と分子標的薬の投与、リンパ節に移転があれば放射線治療も必要です。」
「それに、その医師の言う副作用の少ない抗がん剤だけを投与するのは、一般的な標準治療ではありません。ここでは、現在日本で認められているエビデンスに則った治療をします。」

と、ガン治療のフルコースが提示された。
やっぱり、通常の抗がん剤は必須なのか。ここで初めて少し、怖くなった。

「先生、でも、クリニックの医師はその薬で残ったガンは消えるから大丈夫といったのですが…」

「たとえ、一旦消えたように見えても、また出てくる可能性があります。というのも…(ここで少し言いよどむ)、そのクリニックの患者さんで、同じようなことを言われて治療を始めたのですが、結局治療が終わって薬の投与がなくなってから、再発してしまい、結局こちらに通ってきている人が数人います…。」

それはショックな情報だった。
向こうのクリニックでも、この病院から流れてきた人がいて、こちらの病院でも、あのクリニックから流れてきている人がいる…。
それぞれの希望、思惑、満足できることと出来ないことによって、病院を選択している。そしてそれが、吉とでるか凶と出るかは、やってみなくては分からない。

どうしたらいいのだろう?
真央さんの例ではないが、現在のガン治療において、初期治療がその後の全ての経緯を左右する。
本当に再発のリスクが少ないのはどちらなのか?

仕事、入院、病気、保険、お金、家族…。

沢山のことが一度に頭に流れ込んできた。
判断に悩みつつ、少し考えるため、別のことを医師に聞いてみた。
数週間前に受けた、クリニックの引きちぎり手術の後が、痛くて痛くて仕方がなく、中の組織も固くなっているような気がするので、特に問題がないか一度見てほしいと頼んだのだ。
普通なら、別の医師の手術の跡を見るのを嫌がる人もいるだろうが、その医師は快く診療してくれた。

そして、衝撃的なことが判明した。

「……?! なにか、(胸の中に)液体が溜まっていますね…。ちょっと抜いてみましょう」

医師はそう言うと、結構な大きさの注射器を右胸に差し、ゆっくりと注射器のピストンと呼ばれる部分を引き抜いた。
すると、真黒なドロリとした液体が出てきた。みるみる注射器の中を満たしていく。
そばで見ていた看護師さんの表情が変わった。

「…血ですね。40cc以上あります…。恐らく、前回の手術の時に中の組織がうまく縫い合わされず、止血できていなかったのでしょう。今気づいて出せてよかった。このまま放置していたら、体内で固まってしまい大変なことになるところでした…。」

あの、引きちぎり手術の際、「ちぇっ!」と舌打ちしながら何度も縫い合わせの糸が切れていた。
まさかそのままにしないであろうとは思っていたが、本当にこんなことが起こるなんて、信じられなかった。
一体、あの医師は本当に専門医なのか?
驚きと恐怖、怒りと不安、戸惑い。なんとも言えない感情が湧いてきた。
そして、その真黒な血を引き抜かれた右胸は、内側がへこみ、かつての丸みはなく歪な形に変形していた。
あのクリニックの医師の唯一の利点が、今や全てなくなってしまった…。

「ええ?!全然(形)保ててなかったってこと?!漏れ出した血がたまって、たまたま膨らんでただけ??」

あらゆる意味で突っ込みどころが満載だった。
しかし、あのクリニックがいまだに大勢の患者でいっぱいなのは確かで、あの医師を信頼し治療を受けている人も大勢いる。そのことが、少し、恐ろしくなった。
また逆に、このことが直接のきっかけとなって、あのクリニックに見切りをつけ、この病院で再手術を受けることを決めた。
冷静で信頼できるこの医師に、今度こそ全てを預けてみようと。

数か月後、私はその病院で再手術をうけた。
そして静かに、ゆっくりと、次の敵が迫って来ていた。予想以上の手強い敵、抗がん剤という劇薬が。

(⑤へつづく)

★今回の体験から個人的に学んだ超個人的教訓(=偏見ともいう)★
① 保険が効かず少し費用はかかるが、セカンドオピニオン、必要ならサードオピニオンも取ろう。
② たとえ、乳腺外科専門医でも、信頼できなければ疑ってかかれ!

★治療中に役立つ個人的オススメサイト★
川崎貴子さんのブログ 『女社長 乳がん日記』 
(女のプロ!の異名をとる、大人気実業家兼ライター川崎さん。同じ時期に乳がんになっていたとはツユしらず。病気や家族にどう向き合っていくか、為になります。格好いい!)
『我がおっぱいに未練なし』 著者:川崎貴子 出版社:大和書房 
(上記のブログが書籍化されたもの。2017.9.23発売)

※すべて個人的体験に基づく記述をしておりますが、一部名称や場所等を変更して書いている部分もあります。但し、病状等は参考にして頂ける場合があるかと思い、出来るだけ事実に近い形で明記する努力をしております。


しかし、この一年本当によく針をさされました。いくつになっても注射は怖い…。

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

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アラキ ランプ
アラキ ランプ

東京在住。映画と文学と旅行が好きな典型的文化系社会人。不思議なものと面白いものに目がなく、暇があってもなくてもゆるゆると街を歩いている。そのせいか3日に1度は他人に道を聞かれる。夢は、地球縦一周と横一周。苦手なものは生モノと蚊。スナフキンとプラトンを深く尊敬している。

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