salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

〜日常は、劇場だ!〜「勝手に★ぱちぱちパンチ」

2017-03-28
ガンっといこう!奇想天外?! ①

そのクリニックを訪れたのは、実は2度目だった。

1度目は約半年前。数カ月前から気になっていた、右胸の内側にできた丸いコロコロした塊の検査をしてみようと、インターネットで調べ見つけたクリニックだった。
よく、女性は病院を選ぶ際に同性の医師がいるか否かで決める人が多いと聞くが、個人的に特にそれは決め手ではなかった。
過去に婦人科系の病気をした際に、予想に反して女性医師の方が対応が良くなかった経験が何度かあったからだ。
とにかくインターネット上の口コミ検索で、悪いことがかかれていないかをチェックする。
これは、ホテルや旅館、もしかすると企業等にも通じるかもしれないが、良いことの内容よりも悪いことの内容の方が参考になることが多いと個人的には思っている。

そのクリニックに関して、いくつかのまとめサイトをみてみたが、特に悪い評判はなかった。
医師は海外での経験もあり、万が一ガンであっても出来るだけ手術ありきではなく、可能な限りの最新治療を取り入れ乳房を温存するとの方針があり、HPにも様々な治療の説明が詳細に書かれていた。
若干、いわゆる日本の標準医療をナナメ下に見ている感もなくはなかったが、自分が通える曜日にも診療していることが決め手となり、行ってみることにした。

早速電話で予約を入れ、一週間後に診察を受けた。
問診の際、右胸にしこりがあり、少しずつ大きくなってきている気がすること、ただし、10代の頃から小さなしこりが両胸にあり、良性のものと判断された経験があることも伝えた。
まずは、マンモグラフィを取り、そしてエコー検査へと移った。
今なら、医師自身がエコー検査をするクリニック・病院がベストだとわかるが、個人経営のこういったクリニックでは、技師が検査を行い、その結果を医師が確認して対応するという、よくある診察だった。

ちなみに、女性の方は健康診断で、マンモグラフィとエコー検査のどちらがひとつを選ばなければならない場合があるかと思うが、個人的にはエコー検査をオススメする。
エコー検査はマンモグラフィに比べ時間がかかり、検診でのビジネス展開をする診療所ではマンモグラフィが主流だという話もよく聞くが、つい先日ニュースにもなったように、特に若年の女性の場合は乳腺が邪魔して腫瘍が写りにくく判別し難いタイプの人もいることから、エコー検査の方が(よほど未熟な技師、または医師でない限り)腫瘍は見逃されにくいと思われるからである。もちろん、可能なら両方をするに越したことはない。

HPの写真よりもかなり老けた感じの、少々尊大な態度のその男性医師は、確かに両胸にいくつかの腫瘍があること。恐らくそのほとんどすべてが、写っている形から良性の繊維腺腫と思われること。気にしていた右胸の腫瘍は、確かに3.5cmと少し大きいが、その場所から考えるに20代半ばまでに出来たものと思われるため、気にすることはない。少なくとも、1年は経過観察でいいとのことだった。触診はなかった。

「あなた、ここに来てよかったね。変な医者のところに行けば不要な検査されるだけ。私だからわかる」

と、自信満々にはっきりと言い切るその態度は、自らの経験に基づく間違いない診察なのだと、尊大どころか逆に頼もしくさえ思えた。
そしてこのとき、この3.5cmを、“少し大きい”とだけ表し大したことではないと言った医師の言葉に、私は安心した。そうか、この大きさでも特に問題はないのだと。
今になってわかることだが、それは決して見過ごせない、どちらかというとかなり大きい分類に入ると思うが、その時はわからなかった。

その後も仕事が忙しく毎日が一瞬のように過ぎ去る日々の中、自分の体にじっくりと目を向け、労わる余裕も時間もなかった。
たまに、胸の塊を触って確認するが、それでもよく分からなかった。少し大きくなってきている気がしたが、良性と断定されたこともあり、特に気にとめていなかった。
しかし、ある日シャワーを浴びているときに、上から見下ろす胸の形が右側だけ変形していることに気づいた。外から見てもわかるくらいに右胸の内側がポコっと出ているのがわかる。

「いつの間にこんなに大きくなったのだろう。というか、もともとこんな大きさだっけ?!」

さすがに少し不安になったが、ちょうど翌月に勤務先の健康診断があり、婦人科検診も含まれていたため、再度受けてみることにした。前回の診察から半年強がたっていた。
経験のある方はわかると思うが、健康診断の最後に医師と面談をする。
担当は聡明そうな女性医師だった。上記の経緯を伝えると、すぐに胸の触診をしてくれた。
何度も何度も胸を押さえながら、慎重に感触と大きさをはかっていた医師だったが、その表情はどんどん険しくなっていくように思えた。

「そのクリニックでは、腫瘍の大きさは何cmと言われたと?」

「3.5cmです…」

「うーん…、3.5cmどころじゃないですね。6.5cmはあります…」

え?!6.5cm?
半年でそんなに大きくなっていたなんて。良性でもそんなに早く成長するものなのだろうか?
触診を終えてその女性医師は、しっかりとこちらに顔を向けて静かに言った。

「乳腺の専門クリニックでの判断ならば、たぶん大丈夫かと思うが、これだけの大きさのものを経過観察とはいえない。二つの腫瘍が重なって大きな一つに見えている可能性もあるが、もし半年でこのサイズまで大きくなったとしたら、再検査要と言わざるを得ない。とにかくもう一度、調べてみてほしい。」

はっきりと、そしてきっぱりとした強い口調でそう言った医師の声は、受け流すには重すぎるほどの深刻な声色を持っていた。その言葉に、ちょっと予想とは違う展開になってきた現実に戸惑ったが、それでもまだ楽観していた。大きくはなっているが、良性ならとにかく取ればよいのだろうと。
ただ、仕事が多忙を極める中で、数日の休みをとれるだろうかということだけが気がかりだった。

再度予約をし、2度目の診療となるそのクリニックへと出向いた。
健康診断で指摘され、再検査のために診察に来たことを告げると、その医師は、前回以上にはっきりとした尊大さが前面に出るキャラクターと化し、こういった。

「え?健康診断で再検査?ったく、もう無能な医師が多いからね。特に検診医なんてのはね当てにならない。そう、大きくなっていると言われた?ふーん、じゃまだ前回から半年しかたってなくてちょっと早いけど、まあ、見てみましょう!」

恐らく、自分が半年前に下した結果に異議を唱えられたような気がして、気に障ったのであろう。
とにかく、まずは検査ということで、前回と同じくマンモグラフィとエコー検査を続けて行ったのだが、このときのマンモグラフィで、前回とは比べものにならないくらいの激痛が走り、本当に息が止まりそうになった。
マンモグラフィは、板状のものに乳房を乗せ両側からギューッと挟み、無理やり数センチの厚さにするのだが、考えれば、そこにすでに6cmを超えるカチコチの腫瘍があるのである。それを力任せに2cm位に押しつぶすのだから、目から星どころではなく銀河が飛び出そうなくらいの痛さだった。

やっとの思いでマンモグラフィを終えると、次はエコー検査に向かった。
前回と同じ技師であったが、何度も何度も右胸のエコー写真を取りながら、段々と表情が厳しくなっていくのが分かった。検診で6.5cmと言われたことを告げると、

「…。そうですね、6.5cmはありますね…。前回は3.5cmでしたもんね…」

と静かに言った。

やっぱり本当に6.5cmもあるのだ。やっぱり手術かな。有給はあと何日残っていたっけ?
そんな風に思いながら、再度診察室に呼ばれた。
そして部屋に入るなり、思いもかけないことが起こった。
その医師はエコー検査の結果を見ながら、なんと怒り始めたのである。

「なんでこんなに大きくなるまで、放っておいたの!」

(へっ?!私? 私が悪いの?)

「自分で分からなかったの?!早く来なければ駄目じゃない!」

(いや、はぁ、確かあなた、1年後でいいって言ってた気が…)

戸惑いを隠せず、どういっていいものか思案しながら、
「…はぁ、忙しくて。」

とだけ答えた。
医師は、検査で映し出された腫瘍の写真をこちらに見せながら、言った。

「まぁ、とにかくこれを見てみて。形からすると良性腫瘍に間違いないけど、大きくなるスピードが速いから、取りましょう。6.5cmとやや大きいけれど、麻酔も多めにするから大丈夫。僕なら日帰りで、部分麻酔で終わるから。その日のうちに仕事場に戻れるよ。」

怒りモードは、諭しモードへと徐々に移り変わった。
そして、こうも言った。

「あなた、ここに来てよかったね。他の病院に行ったら、入院して手術してって大げさなことになっていたと思うけど、僕なら一日で終わる。この間も、あなたと同じような症例の方が来て、手術したばかり。もちろん日帰りですぐに帰ったよ。」

おー!これは当たりなのではないか。日帰りで手術!会社も休まなくていい。そこが一番気に入った。
麻酔多めって、お総菜じゃないんだからと思うが、とにかく早く終わるにこしたことはない。
さっきは、まるで腫瘍が大きくなったのは私の責任のような言い方をされ、ちょっとした不信感を持ってしまったが、間違いだった。悪かった先生。
少し変わった医師ではあるが、自らの診療と施術に対する自信にみちた言葉と態度から、私はこの医師に全てをまかせようと決めた。他のクリニックに行かなくて良かったとさえ思った。
すぐに了解し、2週間後の手術日を決めた。恐らく手術は30分くらいで終わるとのことだった。

しかし、その後事態はとんでもない方向に行き始めるのである。
それは、今思い出しても現実のことであったのかわからなくなるほどの、ある意味21世紀とは思えない貴重な、そして奇想天外な体験であった。
考えもしなかった悲喜劇が、私を待っていたのである。

現実は想像をはるかに超えるのだと、つくづく思う。

(②へつづく)

★今回の体験から個人的に学んだ超個人的教訓(=偏見ともいう)★
① (大きさに関わらず)良性腫瘍でも、検査結果に納得いかなければ生検すべし!
② 命を任せる医師は、性別や病院の規模ではなく、人格(言葉使い)で選ぶべし!
③ マンモグラフィとエコー検査、片方だけならエコー検査を選ぶべし!

★情報得るための個人的オススメサイト★
ガン患者サービスステーション 「TODAY!」 
(何も知らない状態から基本的な情報を学ぶのに大変わかりやすいサイト)

※すべて個人的体験に基づく記述をしておりますが、一部名称や場所等を変更して書いている部分もあります。但し、病状等は参考にして頂ける場合があるかと思い、出来るだけ事実に近い形で明記する努力をしております。


乳腺エコー


マンモグラフィ

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アラキ ランプ
アラキ ランプ

東京在住。映画と文学と旅行が好きな典型的文化系社会人。不思議なものと面白いものに目がなく、暇があってもなくてもゆるゆると街を歩いている。そのせいか3日に1度は他人に道を聞かれる。夢は、地球縦一周と横一周。苦手なものは生モノと蚊。スナフキンとプラトンを深く尊敬している。

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