salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

〜日常は、劇場だ!〜「勝手に★ぱちぱちパンチ」

2014-07-26
~死ぬまでに観なくてもいいけど…時間があれば観てほしい”L級”映画・その⑤~

”L級”とは…この世に〇級といった映画のランク分けがあるが、私アラキランプが私的に心にグサッと来た作品を勝手に”L級”と認定。名作・大ヒット作のようにすべての人に感動を!という訳にはいかないが、時間を持て余してどうしようもない人にのみお勧めする、どうしても無視できない何かを持った、忘れがたい作品の数々を指す。
(ちなみに”L”とは名前の頭文字(lamp)と光をあてるの二重の意味からです。)

是非、人生の余計な寄り道としてお楽しみ頂ければ幸いですが、お楽しみ頂けるか否かはあなた次第です…(^_^;)。

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「いいか、お前!電話番号をなめんなよ!!」

「あの11桁の数字を知っているか知っていないかだけが、赤の他人とそうじゃない人を分けてるんだからな!」

♪~
ダァ~~ン(↑)  ダァ~~ン(↓) ダァ~~ン(↑) ダァ~~ン(↓) 
ダァ~~ン(↑)  ダァ~~ン(↓) ダァ~~ン(↑) ダァ~~ン(↓) 
(中略)
ダァ~~ン ダン ダァ~~ン ダン ダァ~~アアアン ダン ダンダンダン~
ダァダァダァ~~ダ ダァ~~ダ ダア~~ン ダン ダンダンダン~

(セルゲイ・ラフマニノフ 『ピアノ協奏曲第2番第一楽章』)

言わずと知れた、この名曲は、記憶も新しいソチオリンピック女子フィギアスケートで、浅田真央選手が奇跡の演技を見せた、あの曲である。
偶然にも閉会式で、デニス・マツーエフがこの曲を演奏し、深夜に再びあの感動を思い出し、涙した人も少なくないであろう。(その少なくない内の一人が我…。)

鐘の音を模した導入の部から始まり、徐々に和音が強さを増しながら最高潮に達すると…。

“トリプルアクセルーーーっ” そして、 “着地っ!!”

「あああぁぁあーーーーっ!ツーフットーーっ?!残念!えっ?いや待てよ。大丈夫かも、解説成功って言ってるし!後でスローで確認しないと。と、とにかく、真央ちゃん、行けーーーっ!!」

とか言っている場合ではなかった。
フィギィアスケートの話をしたいのではない。クラシック音楽の話をしたいのだった。

この曲は、クラシック音楽ファンなら誰もが知る「ソナタ形式」と呼ばれる手法で書かれている。
我自身は、特別クラシック音楽に造詣が深い訳ではなく、たまーに、自分の好きになった演奏家がいればライブに行くくらいなので、偉そうなことは言えない。
が、勝手に、非常に、乱暴に!説明させていただくと、「ソナタ形式」とは一般に、

提示部→展開部→再現部(+結尾部)

という構成で作られている。
なんじゃそれっ?!と思う方もいるだろう。
うんうん、わかる。なんか漢字が固いよね。
でもね、簡単に言うならば、最初に2つの異なる主題(テーマ。まあ、メロディみたいなもん。)が出てきて、それが形を変えたり一部のみ出てきたりしながら何度も展開され、最後にまたその2つが、今度は仲良く同じ調で出てきて収まるという、なんだか世界平和的な構成なのである。
(かなりいい加減な説明…クラシック音楽ファンのかたはお許しを…m(_ _)m)

“同じテーマが違う形で何度も出てくる”

それは、「目の前にある現実」と自分が思っている出来事が、実は全く違った側面を持っているかもしれないということに通じる。
人はそれぞれ、その時感じた感情や解釈に則って、ある種自分だけの物語を構築してくのである。
一歩外れた他人から見ると、全く違う意味をなす現実かもしれないが、本人にとっては自分の作り上げた現実が全てである。

全く同じ出来事に遭遇したとしても、10人いれば10人の違った現実が、毎瞬毎瞬人々の心の中で作り上げられえるのだと思うと、まさに人間はこの惑星の上で60億もの物語が交差する、パラレルワールドを生きている生き物なのだと思えてくる。

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「いいか、お前!電話番号をなめんなよ!!」

「あの11桁の数字を知っているか知っていないかだけが、赤の他人とそうじゃない人を分けてるんだからな!」

失恋し、なかなか立ち直れない親友、宮田に、せっかく作ってやった出会いのチャンスを自ら放棄された神田が説教するシーンである。

知り合った女の子の携帯に電話しなかったのはなぜか?と聞く神田。
タイミングがなかったから、と答える宮田。

「タイミングなんて、ないんだよ!お前が作るんだよ、タイミングを!」
「お前は、タイミングがないっていう理由だけで、全ての可能性を捨てちゃってるんだからな!」

さらに落ち込む宮田に、仕方なくナンパに行こうと誘う神田。
大学生じゃあるまいし!と断る宮田。

「お前は、未だに人生に期待しちゃってるんだよ!」
「30過ぎたら、もう、運命の出会いとか、自然な出会いとか、友達から始まって徐々にラブラブとか、一切ないからなっ!!」
「もう、クラス替えとか、文化祭とかないんだよ!もう、自分で何とかしないと、ずーーーっと一人ぼっちだぞっ!!絶対!ずーーーーーーーっと!!」

名セリフのオンパレードである…。
(特に、30~40代独身者にとっては、身につまされるものがあるのではないだろうか(^_^;))

モテないがピュアで正直で人を疑うことを知らない宮田。
世の中の裏を知り尽くした探偵神田。
男に裏切られる真紀と、男を裏切るあゆみ。

恋愛映画の王道の配役と思いきや、練りに練られた脚本と、セリフの妙に、あっという間に物語の中に引き込まれていく。

監督の内田けんじは、アメリカで映画制作を勉強し、帰国後最初に作った作品で、PFFスカラシップを獲得。その制作費で作ったのがこの長編第一作目の作品である。
その際、最も意識したのが、クラシック音楽で使われる「ソナタ形式」であるという。

時間軸を多角的に構成し、主題(テーマ)を何度も交差させ、物語を重層的に…。
などという説明は、この際、野暮である。
とにかく、こういった作品は観てもらうしか、その楽しさを伝えることが出来ない。

そして、観終わった後は、「え?あ、あのシーンってそんな意味だったの…???」と、心が訴えるまま、何度もDVDの早送りと巻き戻しを繰り返すことになるだろうと、ここに予言しておこう。

どこか、ビリー・ワイルダーの作品にも通じる、人間を愛するゆる~いユーモアとシニカルな視点、そして巧みな物語のパズルを思い切りご堪能ください。

♪~今宵、あなたの最良な暇つぶしになりますように…m(_ _)m

・ナンパする勇気が出る度! ★★★☆☆
・一般オススメ度! ★★★★★
・セリフの名言度! ★★★★☆
・もう一回最初から観たくなる度! ★★★★★

『運命じゃない人』(2004年日本)
監督&脚本:内田けんじ
出演:中村靖日、霧島れいか、山中聡、山下規介、板谷由夏、他
(あらすじ)
宮田武は正直だけが取り柄のパッとしないサラリーマン。半年前にフラレた彼女を忘れられず、一緒に住もうと購入したマンションで、今は一人寂しく暮らしている。
桑田真紀は婚約者の浮気が原因で家を出、一人で生きていく決心をするも、行くあてもなく一人レストランに座っている。
私立探偵の神田勇介は宮田の中学からの同級生。いまだ落ち込む宮田を無理やり誘い出し、レストランで一人食事をする女の子をナンパ、宮田に新しい出会いを作ろうとする。
姿を消していた宮田の元彼女、倉田あゆみは、ヤクザの組長とは知らずに付き合った浅井志信から逃れるため、神田の事務所に現れ、助けを求める。
単なるコメディ恋愛映画の始まりかと思いきや、実はそれぞれが持つ裏の物語がパラレルに進行し、複雑に絡み合い、各自の視点から予想もしない展開が次々と明らかにされていく…。
最後の最後まで目が離せない、真夏の一夜の大騒動。
カンヌ国際映画祭で4つの賞を受賞した、内田けんじ監督の長編映画第一作。

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

1件のコメント

『運命じゃない人』おもしろそうですね!
そうか、ソナタ形式な作品なんですね?

この映画、そのソナタ形式でスピード感のある作品になってそうで、見たい。

これって、クドカンもよく使ってる手法かなぁ…。

是非見ます!それにしても…、私もクラシックは好きだし、CDなんかはちょくちょく買ってますが、
ソナタ形式とか、知らなかった…(恥)勉強になりました。

by umesan - 2014/07/30 1:33 PM

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アラキ ランプ
アラキ ランプ

東京在住。映画と文学と旅行が好きな典型的文化系社会人。不思議なものと面白いものに目がなく、暇があってもなくてもゆるゆると街を歩いている。そのせいか3日に1度は他人に道を聞かれる。夢は、地球縦一周と横一周。苦手なものは生モノと蚊。スナフキンとプラトンを深く尊敬している。

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