2014-05-26
~死ぬまでに観なくてもいいけど…時間があれば観てほしい”L級”映画・その③~
”L級”とは…この世に〇級といった映画のランク分けがあるが、私アラキランプが私的に心にグサッと来た作品を勝手に”L級”と認定。名作・大ヒット作のようにすべての人に感動を!という訳にはいかないが、時間を持て余してどうしようもない人にのみお勧めする、どうしても無視できない何かを持った、忘れがたい作品の数々を指す。
(ちなみに”L”とは名前の頭文字(lamp)と光をあてるの二重の意味からです。)
是非、人生の余計な寄り道としてお楽しみ頂ければ幸いですが、お楽しみ頂けるか否かはあなた次第です…(^_^;)。
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“What am I gonna do ? You gotta say something ! Something !“
“…you want me do every fucking thing ! Where were you ? WHERE WERE YOU !!!”
(どうすればいいんだ?何か言えよ!何かっ! …(中略)… 何もかも全部俺ひとりでやれっていうのか!今までどこにいたんだ?どこにーーーっ!!)
人生において数年間だけであるが、ミッション系の学校に通っていた。
特に両親がキリスト者ということでもなく、たまたま通った学校がそうだっただけである。
普通の日本人として育つと、あまり宗教的な枠組みや慣わしを意識せずとも日々を生きていけるが、そのころに知り合ったカソリック教徒である友人たちは、少し様子が違った。
中でも親しかったA子はガチガチのカソリック教徒で、小さな頃から日曜学校へ通い、教会のサマーキャンプや集会には必ず出席し、年頃になった今でもできるだけ母親と一緒に教会に通っていた。
そんな彼女に、何の因果がまさかの外国人の彼氏が出来た。
もちろん、人生初の恋人である。しかも、相手の宗教はキリスト教ではなかった。
大反対する両親をよそに、若い二人の恋愛は最高に盛り上がった。
しかし、高揚する心とは裏腹に、彼女は時折伏目がちに小さな溜息をもらし、そして呟いた。
「地獄に落ちるかも…」
彼女は常に、神の目を意識していた。
異教徒との恋というだけでなく、いわゆる婚前交渉も、カソリック教義としては罪である。それを破ってしまった自分が、いずれ神の裁きを受け、地獄の炎に焼かれ、暗黒の谷間に叫びながら落ちていく様子が、頭から離れないという。
そう怯える彼女の姿に、こんなに身近にいながら外から見ただけでは分からない、自分とは全く違う世界のルール(罪と罰)を背負って生きているのだと、驚いたことを覚えている。
“What am I gonna do ? You gotta say something ! Something !“
“…you want me do every fucking thing ! Where were you ? WHERE WERE YOU !!!”
(どうすればいいんだ?何か言えよ!何かっ! …(中略)… 何もかも全部俺ひとりでやれっていうのか!今までどこにいたんだ?どこにーーーっ!!)
刑事でありながら、セックスとドラッグ、暴力と汚職にまみれ、悪徳の限りを尽くしながら生きる主人公LTが、教会でイエスの幻に出会い、叫ぶ言葉である。
なぜ、自分を導いてくれなかったのか。
なぜ、弱い自分を救い出してくれなかったのか。
なぜ、問いかけに応えず、沈黙してきたのか、姿をみせなかったのか。
もし、もっと早くに姿を現し導いてくれたなら、もしかすると自分はもっと良い人間になれたかもしれない…。
キリスト教信者の基本的な概念として、どんなときも、天から神に見られているという意識がある。
しかし、生活の中には聖書の奇跡もなく、実在する神人であるキリストもいない。
資本主義がはびこる現代で、絶対的な信仰を体現しながら生きることは容易ではない筈だ。
殆どのキリスト教徒にとっては、時に教義に反する小さな罪を心に抱えながら、今を生きているに違いない。
LTの叫びは、誰もが心のどこかで一度は感じたことがある胸に秘めた問いでもある。
そんなLTを変えたのは、レイプされ、神との婚姻の証であるヴァージンを踏みにじられるという、最悪の行為を受けたにも関わらず、犯人である若者たちを「許す」という尼僧との出会いだった。
その言葉に、心は乱れ、混乱し、恐怖すら感じるLT。
「どうやったら許せるんだ?あんたにそんな権利があるのか?」
「世界中で女や尼僧はアンタだけじゃない。やつらがまた彼女たちに同じことをしてもいいのか?アンタの許しが罪となり、地獄に焼かれてもいいと?それでもアンタに許す権利があるというのか?」
ありとあらゆる言葉で攻め立てるLTに、尼僧はまるで聖母マリアのような眼差しで応える。
「もう、許しました…。神と話し、信じ、祈りなさい。」
そして、LTの目を見つめていった。
「イエスさまは、我らの罪を背負って死にました…」
この一言の重さは、我々日本人が感じる以上の大変な重みを背負っている。
イエス・キリストは人間の持つ全ての罪を一身に背負い殉教したのである。
それは、神の人間への愛であり、希望でもある。
つまり、これほどの罪を犯したにも関わらず許される少年たちの存在自体が、また、これほどの罪を許せる尼僧自体が、LTには理解できないのと同時に、真に神の遍在を意味しているのではないかと恐れ、混乱するのである。
(その予兆はそれまでの映像にも暗示的に写されている)
それは、どうしようもない人生を送る自分自身の罪も、もしかすると許されるときがくるかもしれない、救われるときがくるかもしれないという、微かな望みでもあるのだ。
そして、あの有名な懺悔のシーンへと繋がるのである。
それにしても…。
予め言っておくが、最初からとんでもないシーンの連続である。
『ピアニスト』のイザベル・ユペールを見たときも思ったが、万が一、自分が役者で、この主演の役が来たとしても、引き受けるほどの器と勇気は絶対にないであろうと断言できる。
実際に、主演を務めたハーヴェイ・カイテルは、最初は主演が出来ると大喜びで脚本を読みはじめ、半分もいかない内に、脚本をゴミ箱へ投げ捨てたそうである。
しかし、もう一度気を取り直し、最後まで読み進めた。そして、絶対にこの役をやろうと思ったそうだ。
そして、その選択は間違っていなかった。
最後の教会で、激高し神をののしりながらも、次第に後悔と懺悔へと移行し、そして助けと許しを乞う鬼気迫る演技は、俳優ハーヴェイ・カイテルの名声を一気に世界中へと広めることになったのである。
最低で、やりきれなく、どうしようもなくヒドイ男の話である。
ご婦人方の中には、最初の30分だけで、もう見るのをやめようとDVDのスイッチを切ってしまう人もいるかもしれない。
しかしながら、どんなにゲスいシーンでも、汚いセリフでも、セクシャルで暴力的なシーンでも、すべては聖なるものとの対比のため、何とか最後まで観て頂きたく思う。
但し、決して、家族みんなで週末の夜に見る映画ではない。
『アナと雪の女王』を観た、同じ日に観ることもオススメできない。
けれども、これこそ、L級と呼ぶに相応しい、全ての人にはオススメできないが、きっといくばくかの人には生涯心に残るスペシャルな映画となるだろう。
とにも、かくにも、ハーヴェイ・カイテルの怪演に圧倒され、あの唸り声が脳にこびりついて離れないこと間違いなしである。
(ちなみに2009年にリメイクとは名ばかりの同名映画がニコラス・ケイジ主演で作られていますが、殆ど別物と言ってよいでしょう(笑))
♪~今宵、あなたの最良な暇つぶしになりますように…m(__)m
・18歳未満禁止度! ★★★★★
・一般オススメ度! ★☆☆☆☆
・駄目駄目ゲス人間度! ★★★★☆
・それでも魂がえぐられる度! ★★★★★
『バッド・ルーテナント~刑事とドラッグとキリスト~』(1992年アメリカ映画)
監督:アベル・フェラーラ
脚本:ゾーイ・ルンド/アベル・フェラーラ
出演:ハーヴェイ・カイテル、ゾーイ・ルンド、フランキー・ソーン、ヴィクター・アルゴ、他
(あらすじ)
ニューヨークに住むLTは、家庭もある一見普通の父親。しかし実態は、暴力とドラッグと汚職にまみれた暴力刑事だった。野球賭博と事件の横領品であるドラッグで稼ぎながら、自身もドラッグなしでは片時もいられない中毒者。日々、娼婦やジャンキーの愛人の元に通い、捕まえた強盗犯からは金を巻き上げ、被害者の店から万引きし、交通違反で見つけた若い娘に猥褻な行為を強要するといった、悪徳の限りをつくしていた。しかしついに、賭博の負け越しが重なり追い詰められていくLT。そんな中、若い尼僧が少年たちにレイプされるという衝撃的な事件が起こる。懸賞金目当てに尼僧を訪ね犯人の情報を聞き出そうとするLTだったが、少年たちを憐れみ、「許す」という尼僧の言葉に、やがて混乱をきたしていくのだった…。
1件のコメント
う~ん…、なかなかハードそうな作品みたいですねぇ…。
時間と心の余裕がないと、受け止められない種類の映画な気がする。怖いけど見たい、観たいけど怖いというような。
でもきっと、観終わった後になんかこぉ…自分もどっか「許された」気持ちになれる映画なような気もする…。
そう言えば、汚職警官の作品で「蜘蛛女」っていうのがありましたよね。あれもなかなかエグかったです。結末を見ると何となく切ない感じで。
でも、この作品はまたそれとは違う雰囲気がしますね。
前回紹介されてた作品もまだ観れてないけど、これも見たいものリストに入れます!
余談ですが、「ハロルドとモード」をレンタルショップに借りに行ったらなくて、店員さんに聞くと、「お客さん、マニアックですねぇ~」と言われました♪
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