salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

〜日常は、劇場だ!〜「勝手に★ぱちぱちパンチ」

2014-06-30
~死ぬまでに観なくてもいいけど…時間があれば観てほしい”L級”映画・その④~

”L級”とは…この世に〇級といった映画のランク分けがあるが、私アラキランプが私的に心にグサッと来た作品を勝手に”L級”と認定。名作・大ヒット作のようにすべての人に感動を!という訳にはいかないが、時間を持て余してどうしようもない人にのみお勧めする、どうしても無視できない何かを持った、忘れがたい作品の数々を指す。
(ちなみに”L”とは名前の頭文字(lamp)と光をあてるの二重の意味からです。)

是非、人生の余計な寄り道としてお楽しみ頂ければ幸いですが、お楽しみ頂けるか否かはあなた次第です…(^_^;)。

********************

“Qui trop parole, il se mesfait” (Chretien de Troyes)
「言葉多き者は災いの元」(詩人クレチアン・ド・ドロワ)


<某年某日某カフェにて先輩社員との会話>

「えーと、あのさ。アラキさんて、映画好きでしょう?」

「えぇ、好きですよ」

「だったら、ヨーロッパ映画とかも好き?」

「はぃ。まぁ、見ますけど…」

「あ、そうなんだ。なんかさ、私、よく分からないんだよね。特にフランス映画とか。なんかこの間もさ、深夜にテレビでやってたの。で、何となく見始めたんだけど、これ全然意味が分からないの。なんか女の子と女の人が出てきて、海で泳いでるの。それがまた寒そうでさ。で、男の人が何人か出てきて、なんとなく恋愛関係になってさ、でちょっといざこざとかあって。で、結局、特に大事件も何もないまま映画が終わったのよ!えぇーーー!って感じで、ビックリしたわ!」

「それって…。おかっぱの女の子と、ブロンドのセクシーな女の人ですか?」

「そうそう!」

「ちょっとエロい中年の男と、イケメンのサーファー青年と、ジャニーズみたいな少年も?」

「そうそうそう!まさにそう!知ってる?!」

「女の子の名前 “ポーリーヌ” ですよね?」

「多分、そうだったと思う!やっぱ、知ってるんだ?!」

「…はぃ…。その作品大好きで、録画したビデオも持ってます…」

「えぇっ!マジでっ?!(絶句) い、一体何が面白いの???\(◎o◎)/」

「んーーー。何がって…。そうですねぇ…。やっぱ、会話ですかね。てか、セリフです。あれは、演劇なんですよ。まるで小劇場の芝居なんです。会話劇です。」

「………」

「フランス人って、自分の感情や想いを全部言葉にして吐き出すんですよ。言語化して相手に投げるというか、そのやり取りが面白いんです。特に、この映画はそれが恋愛についてなんですけど。」

「……」

「あとは、絵です。綺麗なんですよ、フレームのひとつひとつが。ものすごく洗練されていて。あと、あの寒そうな、海岸の光の感じ。あれもたまんないですね。本当に美しくて、なんか夏の終わりの感じが、出てくるひとたちの不完全さや物事の滑稽さとなんか似ていて…」

「……」

「うまく話せないんですけど、あのエロオヤジの女たらしと、純粋でハンサムな青年と、どっちがいいですか?」

「そりゃ、ハンサムな方だよ」

「私は断然エロオヤジなんですよ。ハンサムな方は正義感が強すぎて、一途すぎて、私には怖いです。でもエロオヤジは、なんか不誠実なのはわかるんですけど、人間としては魅力があると思うんですよ。やってることは最低だけど。それに、自分が男だったら、やっぱりマリオンはちょっと苦手です」

「でもすごい美人だよ!あのナイスバディもすごい!」

「確かに…。でも飽きると思うんですよ。オヤジのセリフで、浮気がバレて、なんで美人で完璧な女がいるのに、滑稽でブスな女に手を出すのか?って、ポーリーヌやシルヴァンに責められるじゃないですか?」

「うん、あれわかる。なんで?」

「そのときに、オヤジが“完璧さという退屈が分かるか?”って聞くんですよ。それ聞いた時、昔、テレビでものすごくモテる男の人が出てて、“綺麗で優しいだけの女は退屈”とほざいてたことがあっって、そのときは何を贅沢なっ!て思いましたけど(笑)、それを思い出しました。本当の意味でモテるひとには、そうなのかもしれないなって」

「一途なピエールとは全然ちがう。」

「そうなんですよ!ピエールはアンリと逆のことを言うんです。“君は完璧だ。不足などない”って。“君と僕は似ている”って。でもマリオンは、“人は自分に満足できない…”、“人は自分と似ている人は探さない”って拒否するんです。でもそれはある意味、真理だと思うんですけど…」

「うーん。そうかなぁ。マリオンは男を見る目がない気がする」

「まあ、確かに。でもどこかで自分になびかない相手を選んでいるとも言えますよ。結局、アンリと同じ事してるんですよ。自分だけを愛してくれるハンサムで若いピエールは無視して、情事の相手としか見ないアンリを好きになるんですから」

「結局、一番冷静に物事を感じ取ってたのは、ポーリーヌかもね」

「鋭い。大人たちの恋愛騒動に巻き込まれながらも、観察者としての視点をいつも持っていましたよね。一方で、自分の恋愛はうまくいかなくても、年上のマリオンを気遣って本当のことを言わなかったり。結局、恋愛に関しては、経験値はあまり役にたたないのかもしれないですね」

「それは言えるわ…(汗) なんか、だんだん面白い映画だったようにも思えてきた…」

「ホントですか?!是非、もう一回見てください。ビデオ貸しますよ!」

「うち、DVDしかないから…」

「……」

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“Qui trop parole, il se mesfait” (Chretien de Troyes)
「言葉多き者は災いの元」(詩人クレチアン・ド・ドロワ)

中世フランスの詩人のことばで始まる、冒頭のシーン。

美しい紫陽花と避暑地のコテージへと繋がる門が画面いっぱいに映し出される。
まるで画面のフレームが、劇場の舞台を切り取ったようにも見える。
車から降り、その門を開けるポーリーヌ。

『さあ、これから芝居が始まりますよ。人間の恋愛喜劇が。皆さん、お楽しみください』

そんな、ロメールの声が聞こえてきそうな演出である。

♪~今宵、あなたの最良な暇つぶしになりますように…m(_ _)m 

・劇的&衝撃展開度!        ★☆☆☆☆
・一般オススメ度!          ★★★☆☆
・海辺の肌寒さと紫陽花の美しさ度!★★★★☆
・フランス男の女ったらし度!    ★★★★★

『海辺のポーリーヌ』(1983年フランス)
監督&脚本:エリック・ロメール
撮影:ネストール・アルメンドロス
出演:アマンダ・ラングレ、アリエル・ドンバール、パスカル・グレゴリー、フェオドール・アトキン、他
(あらすじ)
まだ恋を知らないポーリーヌは15歳。離婚したばかりの従姉妹マリオンと一緒に、夏のノルマンディー海岸へバカンスにやってきた。
夏も終盤を迎え、人気も少なくなり始めた海岸で泳ぐ二人。そこで、かつてマリオンのBFだったピエールと再会する。未だマリオンを忘れられない一途なピエールは猛烈にアタックするが、マリオンにその気はない。逆に偶然居合わせたピエールの顔見知り、自称民俗学者でプレイボーイのアンリに惹かれていく。一方で、ポーリーヌは同世代のシルヴァンと仲良くなり、初めての恋愛が始まったかに思えたのだが、いつの間にか大人たちの欲望や嫉妬、誤解や策略に巻き込まれ、二人の関係もこじれてしまい…。
少女から中年男まで、ひと夏の恋愛喜劇を描いた、ロメール「喜劇と格言劇」シリーズ第3弾。

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

1件のコメント

私の「海辺のポーリーヌ」的な映画は、「なまいきシャルロット」です。フランスの田舎町でウザったいほどの暑い夏をすごくうまく表現されてて、毎日が退屈な13歳(やったかなぁ…)の女の子の夏休みを描いただけの作品。何がどうってことないんだけど、会話や登場人物の性格や景色や衣装が見ていてとても面白い。私もこの作品、深夜放送されていたものを録画してビデオで持ってます。ふとした時に、見てしまいますよねぇ。
その時シャルロットが着てた、長袖のボーダーシャツ、日本ですごく流行った時期があって、13歳のシャルット・ゲンズブールがめちゃくちゃかっこよく、さりげなく着こなしているのをみて、買うのをやめた記憶があります。
この、海辺のポーリーヌ、私には要チェックです!

by umesan - 2014/07/04 1:17 PM

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アラキ ランプ
アラキ ランプ

東京在住。映画と文学と旅行が好きな典型的文化系社会人。不思議なものと面白いものに目がなく、暇があってもなくてもゆるゆると街を歩いている。そのせいか3日に1度は他人に道を聞かれる。夢は、地球縦一周と横一周。苦手なものは生モノと蚊。スナフキンとプラトンを深く尊敬している。

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