salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

〜日常は、劇場だ!〜「勝手に★ぱちぱちパンチ」

2011-05-20
真夏の決闘 Mid Night <侵>

人には、決して引き下がることの出来ない闘いがある。

それは、何ら予告もなくやってくる真夏のスコールのように突然で、激しい。
平和な日常が一瞬にしてノルマンディ戦線のような戦場と化し、一瞬の判断が自身や相手の命運を分けてしまうこともある。
しかしその闘いは、我が名誉にかけても決して負けるわけにはいかないものだ。
私はある真夏の夜、全生命をかけその闘いに挑み、時には精神的痛手を被りながらも、決して諦めず最後まで粘り強く相手の出方を見ながら、最終的には栄光の勝利を手にした。
今ここに、その一部始終を記し、皆様と体験を分かち合いたいと思う。
なぜならこの経験が、これからやって来るであろう真夏の夜(或いは昼でも)に潜む危機に、或いは不幸にも彼らとの対決に至ってしまった場合に、少しでも皆様を勝利へと導く手助けになればと願っているからである。
戦場では、誰もが孤独である。時に、セオリーや既存の常識は通用せず、己自身の全ての能力を武器にして戦わなくてはならない。道は険しい。でも、必ずチャンスはある!
さあ、己を信じて突き進むのだ。それが、真夏の決闘を勝利へと導く唯一の道なのである。

(以下、ややグロテスクな表現があるかもしれません。特に虫関係が苦手な人やお食事中の人は、『知になるピープル』の賢者的名言等でお気持ちをリフレッシュさせてくださいませね)

それは、とても暑い夏の夜のこと。
当時一緒に住んでいたルームメイトは、夕方から近所に住む恋人の所へ出かけていた。
夜は帰らないとのことだったので、私は一人でリビングルームを占領し、部屋から持ち出したパソコンでメールやインターネットをしながら、ゆったりと気ままに過ごしていた。
真夏の猛暑は昼間から続いていたが、つけっぱなしのクーラーに体が疲れてきていたこともあり、夕方からは一旦エアコンのスイッチを切っていた。
ベランダに通じる扉を網戸にし、少しでも風を入れようとしたが、入ってくるのは真昼と変わらない生ぬるい微風だけだった。

夜になっても気温は下がらず、汗は滝のように流れ落ちた。
しかし、昼間冷房を浴びすぎたからか、体の奥に溜まった冷えの固まりのようなものが吹き出る汗と共に流れていく気がして、不快ではなかった。心地よい気だるさを感じながら、引き続きエアコンは入れずにそのままにしていた。
それにしても、「アツい!」と自然に呟いてしまうほど、真夏の空気はリビングから一向に去る気配はなかった。寝苦しい熱帯夜になることは間違いなかった。

時計をみると、いつの間にか時刻は夜の11時をまわっていた。そろそろお風呂にでも入ろうかと、テーブルの上を整理し、ラップトップパソコンの電源を切ろうとした、そのときだった。

<バリッバリッ、バリッ、バリッ>

突然、まるで電気がショートするような奇妙な破裂音が、ベランダ方面から聞こえた。

「(ん?なんだ…?)」

目線をベランダの方向に向けた瞬間、何か物凄く大きな黒い物体が、網戸の上の方から羽をバタバタとさせて飛びこんできた。
網戸は閉めていた筈で、どうやって入ったのかは不明だが、その物体は思い切り弧を描きながら、まるでリトルリーグの投手に投げつけられたような勢いで、そのまま天井近くの壁にバチンッ!ととまったのである。
悪夢の幕開けであった。

私は、虫類が苦手だ。
自分で言うのもなんだが、こういうことを書くと、何となく人としてのイメージが悪い(と思う)。
まだ、イヌやネコが嫌いと言うほどの“人でなし感”はないかもしれないが、たとえ虫と言えども、基本的に生き物類を苦手というと、何となく器の狭さが感じられて心象は決してよくない。それに、どこか他人からの信頼度も薄くなるような気がするのである。

でも、勘違いしないで欲しい。
私はイヌもネコも嫌いではないし、どちらかと言うと好きである。
(子供の頃飼っていたイヌは自宅出産し、その様子を生で見守った。ちなみにイヌの名前はチャッピー、その子供はクッピー。今思うとこの名前、センスなさすぎる…(汗))
それに、学生時代からアウトドアが好きで、キャンプにも無数に行ったクチである。寝袋で寝ることもテントで寝ることも平気だし、海外の僻地でも全く平気である。
多かれ少なかれ、そういったところでは、虫類と頻繁に出会う。というか、彼らのテリトリーである。我々の方が、そこにお邪魔させてもらっているのだ。
なぜか、そういったところで出会う虫類に関しては、全然平気なのである。

しかしながら、都会ではダメだ。
以前テレビで、実家が物凄い田舎だというタレントさんが出ていたが、同じようなことを言っていてホッとしたことがある。
とにかく、町中や都会生活の中で出会う虫類には、親しみが感じられないし、逆に人間のテリトリーに入ってきている感が否めない。違和感と不自然さに満ちており、私の中で最も身近な恐怖の対象となってしまうのである。

その結果というか、網戸にはちょっとうるさい。
ちょっとの間でも網戸を閉める。
特に春や夏は、彼ら(主に蚊)への無駄な殺生を出来るだけ避けるためにも、必ず網戸を閉める。ベランダに出る際も、必要最低限の一瞬で外にでて、スグに網戸を閉める。
神経質と思われるかもしれないが、誰にでもどうしても譲れないところ(弱点ともいう)があると思う。
万一、部屋の中に彼らの存在を確認してしまった場合は、何らかの決着をつけてからしか眠りにつくことが出来ない。
そうならないためにも、1年365日、私は厳しい網戸の管理人となり、セコムやアルソック並みの監視体制をとっている。

話しを元に戻そう。
悪夢の幕開け、地獄からのファンファーレが鳴り響いた、真夏の夜に。

「(げっ?もしかしてセミ??)」

巨大な真夏の夜の侵入者を見て、私は一瞬そう思った。
以前、洗濯物を干す際にスキをつかれ、扉からセミが侵入したことがあったからだ。
追い出すのに大変な思いをしたことを思い出し、また一連の追いかけっこが始まるのかと憂鬱になりかけた。
がしかし、よく見ると、それはセミではなかった。
俄かには信じがたい現実が、今、目の前にあった。

それは、今までの人生において遭遇した中で、最も大きく、分厚く、まるでカブトムシのようにつやつやと黒光りする、超巨大なゴキブリなのであった。

「ひぇぇええぇええ~~~~~~~~~~っ!!!!!\(◎o◎)/」

あまりの出来事に、私はパニックに陥った。
生き物の中で最も苦手で嫌いなもの、それは蚊とゴキブリなのである。
これほど巨大なゴキブリが、しかも私が一人の時を狙って(?)空中から飛んでくるなんて!!!
基本的にゴキブリは地を這い、ドアや窓の隙間からヨタヨタと侵入してくるものではなかったか?
万一、飛ぶということがあっても、殺虫剤をかけられて必死に逃亡する際、バッタのように地面から地面へジャンプする程度のことが普通ではないのか?

しかし、もう一度言おう。
そのゴキブリは、網戸の扉の上部から巨大な羽を広げて、セミのように飛びながら侵入してきて、壁に張り付いたのである。そして、今もこうして天井近くの壁にドンと居座っている。
あの、バリッバリッ!という破裂音は、締めてあったはずの網戸のほんの小さな隙間を見つけたヤツが、無理やり体をねじ込んだ際に発生した、羽と網戸との摩擦音だったのだ。
ゴ、ゴキさんよぉ!そ、そこまでして侵入するかぁ、普通~!!!

「キーッ!ありえない!ありえない!ムリ!ムリ!ムリ!ウソだウソだウソだぁ~~~」

私は立ち上がり、半分悲鳴にも似たつぶやきを発しながら、部屋中をグルグルと回った。
「夢であってほしい」そう思いながら、どうしてよいのか分からず、ただただ「どうしよう~~!どうしよう~~!」と言いながらグルグルと回り続けた。
一瞬、ふと「回ってる場合か!」と心のツッコミが入るが、自分でもなんで回っているのかはわからない。足が勝手に動くのだ。
とにかくパニック状態とはそういうものである。

しかし、その際にも決してヤツの姿からは目を離さないという、一粒の冷静さは残っていた。
目を離したスキに部屋のどこかへ逃げてしまい、居場所が分からなくなる…。それは考えうる限り最悪のシナリオである。
現実のヤツの姿が目に入ること事態も恐ろしく耐え難いものであったが、今はヤツを見続けるしかなかった。

一方で、あまり時間がないことも直感的に分っていた。
いずれヤツは動き出す。その前に体勢と戦略を整えねばならない。
けれどもこれほどヤツを恐れる自分が、ひとりで本当に太刀打ちできるのだろうか?
不安と恐怖から来る心の声が響く。

「(ルームメイトに電話して、帰ってきてもらえば?近所なんだし…)」

う~、確かにそうしたい!
しかし、いくらなんでも私も大人である。人の恋路を、ゴキブリごときで壊すほどダメ人間ではない。
他の友人に電話したところで、時刻は既に真夜中近くになっており、「頑張って退治しろ!」と一喝されるのがオチである。

結局は、自分ひとりでこの状況を切り抜けなければならないのだ。
不安と恐怖で、私は次の行動を取れずにいた。
何よりも、その現実と真正面から向き合う勇気を、どこから絞り出していいのか分らなかった。
涙が出た。

しかし、ゴングは既に鳴り響いているのである。ヤツはリングに上がったのだ。
闘うしか、道はなかった…。

~次回、<抗> へつづく~

ギョッ!とするシリーズ①(北京) ヒトデの串刺しに並んで、よく見ると…。誰が食べるの?!(汗)

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1件のコメント

虫ね~、私はゴキブリとネズミは一生 見たくもないわ。
ゴキブリは まだ戦えるけど、ネズミやイタチが屋根裏を走る音はポルターガイストより怖いかも。
会社の便所にネズミが死んでたこともあるわ・・・。
パソコンしていたら 天井から直径10センチくらいの蜘蛛が パさっと落ちてきたら? しかも夫婦で。

そう考えたら 蚊はやっぱりかわいい、保護したくなるもん!

by kiki - 2011/05/21 12:03 AM

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アラキ ランプ
アラキ ランプ

東京在住。映画と文学と旅行が好きな典型的文化系社会人。不思議なものと面白いものに目がなく、暇があってもなくてもゆるゆると街を歩いている。そのせいか3日に1度は他人に道を聞かれる。夢は、地球縦一周と横一周。苦手なものは生モノと蚊。スナフキンとプラトンを深く尊敬している。

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