salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

〜日常は、劇場だ!〜「勝手に★ぱちぱちパンチ」

2010-11-7
カレーなる人々 ~スパイス王国へようこそ!その① 探索編~

昔、勤めていた会社の近くに、3件の趣きの異なるカレー屋があった。
3件とも、それぞれ結構な人気店であり、12時を回ってからのんびり訪れると、既に満員、待ち時間が発生といった、なかなかの繁盛振りだった。

会社の中にも社員食堂はあったのだが、地下階で照明も暗く、大して安くも美味しくもないので、ランチは大抵同僚と外に行くか、コンビニ等で買ってきたお弁当を休憩室で食べるかしていた。
ビジネス街でもありランチを出す店は限りなくあるのだか、その3件のカレー屋は、自分たちのランチローテーションの中でも、かなりの上位に入っていた。

「今日、ナニにする?」
「う~ん、カレーかな…」
「どこの?」
「『×××カレー』かな」

1件目のカレー屋は、私たちの間で『親子(おやこ)カレー』と呼ばれていた。
よくあるチェーン展開のカレー屋で、恐らくフランチャイズなのだろう。20代半ばの素直で実直そうな息子と思われるややポッチャリ系の男性と、いかにも苦労人らしき風情のその母とみられる50代の女性で営まれ、馬蹄型の大きなカウンターに20人ほどが座れるイスが据え付けられてある。客層は男性客や独り客が中心で、タクシーの運転手も多かった。
とにかく、早い安い旨い(どこかで聞いた?)を求めるならここで、普通のいわゆるニッポンの正しいカレーライスである。値段なりの何でもない美味しさなのだが、たまにどうしても食べたくなり、行ってしまう感じだ。

2件目のカレー屋は、私たちの間で『夫婦(めおと)カレー』と呼ばれていた。
エスニック料理のお店で、夜はレストラン兼バーになり、深夜まで営業している。日本人の女性がオーナー兼スタッフで、外国人の夫がシェフ。夫婦ふたりで、小さなビルの一角で営業していた。ここのココナッツミルクがたっぷり入った甘辛いカレーは絶品で、一時期は毎日のように通っていた。半年ほど通うと、体重が軽く4キロは増えた。それくらい、美味しいのである。
しかしながら、この店は、この経営者夫婦の夫婦仲が途中から怪しくなり始め、ある時期からお客がいても夫婦ゲンカが始まるようになってしまった。最初は知らないふりをしていたのだが、日に日にエスカレートしてゆき、たまたま私が夜に友人と食事にいった際、殴り合いの大バトルが始まってしまった。
プライバシーのこともあるので、ここでは余り詳しく触れないが、気がつくといつの間にか客であった私が、ケンカを止め、夫は逃げ出し、妻の実家に電話し母様を呼び、店の看板を下ろし、シャッターを閉め、妻のケガの手当てをしていた。いきなり一夜にして、従業員になったかのようである。
しかしこの一件以来、お互いに何だか気まずくなってしまい、毎日ランチに行くことはなくなってしまった。
もちろん、これ以上体重が増えても困るということもあるのだが、週に何回かのペースに減っていったのである。

そして、3件目のカレー屋が今回の話の中心なのだが、私たちはここを『オタク(おたく)カレー』と呼んでいた。
そのカレー屋は、ある日久しぶりに社内で会った同僚が、「すごいカレー屋が出来た!」と言って教えてくれた、比較的最近できたというお店だった。何がすごいのかと聞いてみるも、

「全部すごいから!」

と、よく分からない答えがかえって来た。
その同僚曰く、すべての面においてものすごいこだわりを持った店主が一人で切り盛りしており、営業時間もマチマチで、12時ちょうどくらいに行っても、店主の準備が遅いと店が開いていないときもある。夜の営業も1年に何回か、気が向いたときしかしないという、店主の気分がすべてで成り立っているお店だが、とにかく美味しいのは間違いないと。そして、さらに付け加えて、

「店は、一見どこにあるか分からないよ。そして見つけても、閉まっているようにも見える。でも閉まっているようでも、開いているの。でも、開いているように見えても閉まっているときがあるから、気をつけて!」

という、まるで禅問答のような言葉が付け加えられた。
よく分からないが俄然やる気が出てきた。冒険心と面白物好きの心を揺さぶる、なんとも魅惑的な言葉ではないか。
早速、翌日ウキウキしながら、教えられたそのお店へ行くことにした。

そのお店がある一帯は、江戸時代に掘られた人工川の掘沿いに建つ昔ながらの長屋筋で、最近は中を自由に改装して、ちょっとお洒落なデザイン事務所や若手アーティストのアトリエが入居するようになっている、いわば最近の町の注目スポットでもあった。恐らく、そのカレー屋も噂を聞きつけ、そこに越してきたかのか、あるいは新規出店の場所に選んだのかもしれない。

そう思いながらカレー屋を探すが、教えられた看板は確かにあるのだけれど、お店がどこにあるのか分からない。
いや、よく見ると、その看板の横に、人が1人ギリギリ通れそうな細~い通路が奥に延びている。奥は真っ暗で外からは様子が伺えない。
まさにセオリー通り、「開いているのか?」と一瞬疑うも、ここで同僚の言葉を思い出し、「いやいや、閉まっているようでも開いているはず」と、その薄暗い通路を奥まで進んでみた。
すると、突き当たりは壁だが、その右側が扉になっており、入り口であることが分かった。

少しばかり躊躇したが、やはり美味しいカレーを食べたいという強い気持ちが、勇気を呼んでくる!
Keep on going! ドキドキしながらも、その未知への扉を、思い切って開けてみた…。

(~その② 潜入編へつづく~)

カレーで思い出した、インド南部で食べたターリー。美味でした!(画像が良くなくてゴメンナサイ…)

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

1件のコメント

さすがはアラキランプさん!やっぱり一筋縄ではいかないカレー屋道中。
今はどうなったんでしょうね、夫婦カレー。気になる・・・。カレー屋さんにも色々赴きがあって、一軒一軒味が違うのが面白いところですよねぇ。当たり外れももちろんあるけど。アラキランプさんが巡ってきたカレー屋さんたちは、味だけでなくプラスアルファーがあるので、続きがとても気になります!いったいどんなところなんやろ、オタクカレー。

by umesan - 2010/12/10 10:57 PM

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アラキ ランプ
アラキ ランプ

東京在住。映画と文学と旅行が好きな典型的文化系社会人。不思議なものと面白いものに目がなく、暇があってもなくてもゆるゆると街を歩いている。そのせいか3日に1度は他人に道を聞かれる。夢は、地球縦一周と横一周。苦手なものは生モノと蚊。スナフキンとプラトンを深く尊敬している。

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