2010-11-10
奇跡のヒト、水嶋ヒロ
人間誰しも叩けばホコリの出る身。誰もが言うに言われぬ過去、拭い去れない汚れや傷、深い喪失感や悲しみを抱えながら必死に生きている。この世に完璧な人間なんていやしない…
これまでわたしは、そう信じて生きてきた。親や先生に諭され、友や人々と交わり、文学小説を読み、ドラマ、映画を観て「欠陥だらけの人間だからこそ、互いにそれを持ち寄り、慰め合い、助け合うのが人生」だと思い染みながら、苦しいのは自分ひとりじゃないと、人を羨やまず、世を恨むことなく生きて来られたクチである。
が、そんなわたしの人間観、人生観をくつがえす新事実がこのほど明らかになった。水嶋ヒロ、その人である。叩けばホコリが出るどころか、金粉舞い上がるような完璧な聖人君子。東京生まれのスイス育ちで語学堪能。高校時代はサッカー全国大会で準優勝、慶應大学卒という文武両道エリート級。さらに身長180cmの長身に加えシュッと端麗な顔立ちという天性の恵まれたルックスからモデルとして活躍後、自然に俳優デビュー。役者としての演技力がどうのこうのと言うより先に、シンガーソングライター・絢香との結婚発表で男としての「愛と誠」を自分の言葉で語り、その純真かつ誠実な人柄に賛美の嵐。
それだけでも十二分に立派なところに、今度は栄えある文学新人賞を獲得し小説家デビューを果たすなんて、まさに奇跡のヒト・水嶋ヒロ。
先日、受賞後の記者会見をテレビで観ながら、どこか「非の打ちどころ」がないものかと血眼になってアラ探しをしてみたが、そんなお前が「非の打ち所じゃ!」と思い知るほか、邪なところはまったく見つけられなかった。
ちょうどその会見が行われた夜、大阪の親友と密談の席を持ったのであるが、そこでも「ちょっと、どうよ?」の関心テーマは、水嶋ヒロ問題。
経歴、学歴、性格、容姿、人柄、どこもかしこもケチをつけるところがまったくない。こうまでされたら無条件降伏するしかないなぁと、溜飲下がる思いでひれ伏しながらも「せやけどな」と言わずにおれない庶民の意地。
言うに事欠いて出てきたセリフが「せやけど、好きにはならへんわ」。
不届き千万、身の程知らずは百も承知で言わせてもらえばの話としてお許しを。何しろもうここまで完璧に整えられてしまったら、いじりようがない。ここまで「どうしようもないところ」がなかったら、わたしはあんたのどこをどう可愛がったらええのよ!と理不尽にさえ思えてしまう矛盾だらけのこの気持ち。
成績優秀、スポーツ万能、礼儀正しく品行方正、誰からも好かれる人気者。さらには、素直で謙虚で思いやりがあり、努力家で思慮深く、ちょっぴりお茶目。その上、人を愛する大切さを知っている。通知表であれば、オール「優」の上に花マルを付けて、のし付きで菓子折持って詫びながら渡したいくらいである。
それでも、不届きな自分としては、たとえオール100点でも、総合評価マイナス100点。なぜなら、ひとえに面白くないという理由で。いわば、すべてが赤点でも、「面白い」ということだけで「満点合格!」になるのが悲しいかな、大阪という町に生まれ育った自分のどうしようもない性である。ただし、この「面白い」は話が面白いとか、やることが面白いというお笑い芸人的な面白さでは決してない。むしろ逆で、重要なのは相手が面白いかではなく、こっちが面白がれるかどうか。面白がれるツボは人ぞれぞれ違うかもしれないが、得てしてそういうツボというのは、たぶん、笑うより仕方のないその人独自の悲しいくらい輝いていない部分だと思う。けれど、その輝きのなさ、輝きようのなさがたまらなく輝いて見えるときの可笑味ときたら、これぞ、なけなしの無上の喜びではないか。
おそらく水嶋ヒロは「なんで、あんたはそうなるのか」と貧乏クジ引いて帰ってくることもないだろうし、絢香とて「あんたもしんどいかもしれんけど、わたしかってしんどいねん!」とはらわた煮えくりかえることもなければ、「いったい、これからどうするのよ!」みたいな不甲斐なさに歯ぎしりするようなことは、間違ってもなさそうだ。何ひとつ捻くれたところもなければ、どこにも歪みやねじれがない。セコくもなければ、うっとうしいところもなく、考えなしの浅はかさもなければ、いざというときビックリするほど頼りないところもない。結局、わたしがやらなあかんのか!と情けなさを噛みしめながらも奮い立つところがない。
たとえればたとえるほど、自分の次元の低さが浮き彫りに、水嶋ヒロが遠く見えなくなってきている気がしないでもない。
とどの詰まり、考えれば考えるほどイヤになるような「あかんたれ」じゃないところが「あかん」のである。向こうも「絶対ない」だろうけど「わたしも、ない」と。後ろから跳び蹴りされて、エルボドロップ食らわされるようなバチ当たりな結論に至るおばはん2人である。
とは言え、これは俗に言う「ダメな男にほだされる」のとはまた違う、人間愛、慈愛の精神とまで行かずとも、おかんの愛情とでも言おうか。ま、結局は、出来の悪い子ほど可愛い自分もまた、出来が悪いということで、割れ鍋に綴じ蓋。ほんにこの世は上手く出来たもんである。
そうそう「あかんたれ」といえば、「銭の花」「細腕繁盛記」「どてらいやつ」など、不屈の商魂ドラマの名作で知られる作家・脚本家、花登筺(はなとこばこ)先生のヒット作のひとつ「あかんたれ」を思い出さずにいられない。(またしても昭和の関西ローカル限定ネタですみません!)その主題歌の情けなさ、たまらなさときたら、これこそが人の情けの真髄だと愛して止まないこのわたし。今でも目黒通りの坂道を自転車立ち漕ぎしながら口ずさむ愛唱歌のひとつである。1番しか覚えてないものの、どうぞ触りだけでも。
♪ 通りの角から三軒目、メリヤス工場の塀のかげ
い〜つも泣いてる、あかんたれ〜
「なんで泣くか」と聞いたなら、返事もせずにまた泣ぁい〜た〜
この「どないやねん!」の意気地のなさ、アホらしさ、ゆえの可愛さがないところが、水嶋ヒロの唯一惜しいといえば惜しいところである。
そんな「あかんたれ」のメロディが聴けるサイトを発見したので、ご参考までに。ご興味のある方は、ぜひ(笑)
1件のコメント
お詫びと訂正:申し訳ございません!コラム文中「絢香」さんの名前を「綾香」と誤って表記してしまい大変失礼いたしました。大慌てで訂正させていただきました。ご意見&ご指摘下さった読者の方、ご丁寧にメールいただきありがとうございました。
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