salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

白線の裡側まで

2011-03-31
信念とは、最高のヘンタイである。

昨夜は久々に気分がぱっと明るく、よっしゃ!と活気づいた。日本代表対Jリーグ選抜のチャリティマッチ。勝敗などはそっちのけで、ただただ見たかったのは、もちろん44歳、キングカズのゴールシーン。選手交代でピッチに登場する瞬間から「待ってました!」の大拍手に迎えられ、ゴールを決めた瞬間やんややんやの大喝采。ここは歌舞伎小屋かと言わんばかりの大見得ゴールに心底しびれさせられた。
今、ファンが一番見たいものをここぞとばかりにこれでもか見せてくれる。それはもはや名人芸と言うほかない。敵軍のザッケローニ監督でさえ「自軍の失点をこれほど喜ばしく思ったことはない」と語ったというのが何とも嬉しい。おみやげまで頂いてとほんわかありがたい気持ちになった。

試合後のカズのコメントがまたいぶし銀というか何というか、自分と闘ってきた人の言葉はなぜにこうも胸を打つのか。
「今本当に苦しんでいる人たちにはあきらめてほしくないし、自分もサッカーをあきらめていないし、あきらめたこともないし、挑戦し続けたい」

あきらめてほしくないし、オレもあきらめたこともないし。それはメッセージやエールとも違う、自分が信じる、信じたい人間に託す言葉だ。だから、こんなにも勇気と元気が沸いてくるのだ。

昨夜のカズは、今、日本の人々が一番見たいものを見せてくれた。それは、ありきたりだけど「あきらめない信念」としか言いようがない。以前のコラムにも書いたが、あきらめない信念だけが無限の挑戦と成長を可能にする。カネや権威や権力や、誰もがしょうがないとあきらめる世の常識を唯一突破する武器が信念だ。
そして、それはどうすれば持てるのかといえば、それは最高のヘンタイになることだと、わたしは信じて疑わない。なぜなら、枝雀も横山やすしも勝新太郎も、わたしが堪えられないほど好きな天才、名人は、鬼気迫る珠玉のヘンタイだからである。でも、日本のモノづくり、職人技、職人芸なるものは海外の人から見れば驚愕の非合理的かつ非論理的で採算に見合わない自己との闘いである。決して自分に妥協しない、頑固なまでのこだわりの奥底で、どこかで誰かがそんな自分を見てくれている、いつかどこかで誰かの何かの役に立つはずと、絶対的に人を世の中を信じている。わたしは「なぜ、そこまで・・・」と考えられないほど人を幸せにするヘンタイな人がこの世で一番偉いと思う。なぜなら、いい夢を見せてくれるから。

最近、遅れに遅れてハマりまくりの「ONEPIECE」。麦わらの一味のキャプテン、未来の海賊王をめざし“偉大なる航路”を愉快な仲間と突き進む主人公・ルフィも、どんなに恐い強敵にも揺るがぬ信念バカであるところを見ると、わたしたちが長々と求め続けていまだ現れぬリーダーというのも、それこそ信念と覚悟のヘンタイ王なのかもしれない。ああだこうだと「できない論理」をまくしたてる役人たちを「責任はオレが取る。だから、やろうぜ!」と、どこか仲間的に、けれど強引に事を進めて丸く納める運と度胸と柔軟性を持った任侠ヤクザの親分みたいな器のデカい人間が、どこまで行っても好きなんじゃないか。
と、カズのスーパースター伝説からこれからの復興を担う日本のリーダー像を思い浮かべようとしたが、管と仙石の顔が浮かんだ瞬間、ない!とあきらめた。あきらめない信念を持ち続けるのはさすが並大抵のことではない。

そんなよからぬ想像をめぐらせながら歩いていると街のあちこちで都知事選の候補者看板が目に止まる。「ニッポンに元気を!」とデカデカとわかりやすい太文字を見ると、せっかくカズにもらった元気玉がしぼんでいきそうな気がしてさっさと足早に通り過ぎた。

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

2件のコメント

いろいろあって、いい年こいて 数年前から、
『職人』を やってます。
いろんな人を、見て 付き合って来て
職人になって、今、はじめ人間ギャートルズ並に
リアルな稼ぎで、子供3人(高3、高1、小6)
育ててる 真っ最中です。

そんな生活をしてると、曲げない 何か!を
探したくなり、今 想うのは、
1、目の前の物は 受け入れる!
2、人に嘘はつかない!(これは、二十歳の時に決めた)
3、一流になる!
そー思って、毎日 必死こいて 稼いで、遊んでる(^_^)

ヘンタイは、面白いよ!

信念は大事!!!

by 秀虎 - 2011/04/03 12:20 AM

秀虎さん、毎度ありがとうございます。
わたしと同い年で数年前から職人の道とは、
よほどの覚悟のヘンタイかたぎとお見それいたしました(^_-)
しかも子ども3人とは、今や希少なハングマンじゃないですか⁉
そう、わたしも、何がいいのかわからんけど、そうしないと気が済まないような何かを持ってる人間が好きです。
われらヘンタイ諸君で、いけるとこまで行きましょね。

by 匿名 - 2011/04/03 1:36 AM

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Ritsuko Tagawa
Ritsuko Tagawa

多川麗津子/コピーライター 1970年大阪生まれ。在阪広告制作会社に勤務後、フリーランスに。その後、5年間の東京暮らしを経て、現在まさかのパリ在住。

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