2010-10-10
この先の、働く貴族時代へ
広告、ファッション、建築、プロダクツなど、あらゆるモノの価値を根本的にデザインする気鋭のアート・ディレクター佐藤可士和氏。その佐藤氏の妻で、「佐藤可士和」という才能のブランディング、マネージメントを一手にこなす佐藤悦子さんの礼儀作法を重んじた仕事術やスタイリッシュな考え方に、女性の優雅なダンディズム(美学)というものを感じ、恐れ多くも「好きやわ〜」と共感させていただいている。
ご自身のブログもよく拝見させてもらっているのだが、その9月13日の記事に「MURAKAMI VERSAILLES」晩餐会(サルコジ大統領主催)でのフォトが掲載されていた。華麗なるベルサイユの宴を楽しむ佐藤可士和・悦子夫妻、村上隆氏、藤原ヒロシ氏、honeyee.com 編集長、TOY’Sファクトリー社長、さらには「ゆず」のおふたり・・・
その写真を見て、彦摩呂じゃないが思わず叫びそうになった。「これが今の日本の貴族階級、クリエイティブ・ブルジョワジーや〜!」
17世紀頃のフランスのサロン文化について書かれた本にこんな一文がある。
神から与えられた「階級」を超えるのは、それもまた神が与えた才能と機知を持つ人々である。そしてそういう人々とはどういう人かというと、芸術家、画家、音楽家、詩人、文学者、新聞広告人である。
これを今様に言えば、あらゆる分野のデザイナー、アーティスト、作家、クリエイターということになる。まさに佐藤悦子さんのブログに映る人たちがそうであり、グローバルな世界の社交場で優雅にいきいきと活躍できる「日本の貴族の肖像」を見たという感じ。
敗戦後に貴族文化が失われて久しい日本では、「貴族」というと暇を持て余した有閑マダム的ないけないイメージがあったりするが、言うまでもなく、ここで言ってるのは退屈の恐怖に苛まれ耽美な快楽に溺れがちな貴族のことではない。
何にも属さず何からも強要されない自由な立場で、それこそ請負取引ビジネスの上下関係、組織のしがらみ、上司部下などの人間関係のストレス、生計や生活の心配など「生きていれば当然ある」とされる不自由や不条理を無視できる立ち位置にあることが「階級」を超えるということで、それを創造によってやってのける人が、時代の先端をゆく貴族なのである。
と思ったら、何でも早いアメリカでは、すでにBOBOS(ボボズ:ブルジョアボヘミアン)と呼ばれる創造階級が脚光を集めているらしい。そんなボボズ(どうも響きが…)たちの特徴としてはー
・ 組織、常識、規律に縛られない独立した自由なポジションで
一流企業の仕事を手がけている。
・ 豊かな報酬とインセンティブをいかにもゴージャスにひけらかすこと
なく、新たな創造の資本として社会に還元する。
・チャリティ活動を積極的に主宰したり、参加することを楽しむ。
・農業や自然に対する興味や関心が高く、豊かな人間性、精神性を求める。
という人たちが、米国の新ブルジョワ階級なのだとか。さらにそういう人たちは、世の中の底をなめた苦労人ではなく、一流企業の組織から生まれているというところが興味深い。常々、そういう時代は終わってるとは思っていたが、こういう話を聞くと、裸一貫「やったるで!」と拳を突き上げるような叩き上げの限界、どっこい商魂時代の終焉をはっきり確認できた気がする。
心地よく優雅で創造的な資本主義社会。イメージ的にも精神的にもかなり魅力的な社会ではないか。だって今シーズンの秋冬ファッションのトレンドも優美でクラシカルなブルジョワ・モードだったりするから「貴族勃興」こそが時代の気分、時代の要請ということに違いない。
創造的に働く貴族たちが続々日本から生まれることが経済成長の鍵だとは思うものの、だからといって「ボボズ」をめざすというのはあちら様のコンセプトで、自分たちには自分たちの貴族ビジョンを描いてからでないと、「ボボズ女子」とか「ボボズ力!」とか、わけのわからないブームだけで終わるのが日本のありがちなパターンだったりする。「ロハス」みたいに。
たとえば、日本のコンセプトとして最適なのは「働く平安貴族」。必死なのか優雅なのかよくわからないけど楽しそうな「お歯黒貴族」がどんどん現れ出ないことには、そしてそんな彼らを支援するパトロン精神あふれる男爵、伯爵、夫人たちがいないとクリエイティブ貴族社会など形成されるはずがない。またそういう政策を国家戦略として打ち出すのが政治の仕事だと思うが、ブルジョワジーなクリエイティブ社会など今の政権には想像も及ばない話だろう。とはいえ、社会の価値観の変化は民衆レベルからしか起こらないから、政治は後からついてくるもの。「プチ貴族手当て」とか、急ごしらえの貧相なやさしさ携えて。
1件のコメント
BOBOS(ボボズ:ブルジョアボヘミアン)て初めて聞いた。
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