salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

白線の裡側まで

2010-09-29
長い、しつこい、感じない。
下手な男の叱り方

人を育てるには叱らず、怒らず、ほめて伸ばすのが最旬のトレンドらしい。そのせいかひと頃に比べ街中で親に叱られビービー泣きわめいている子どもをあまり見かけないし、仕事の場で部下がミスをしても叱らない、怒鳴らない管理職が増えたような気がする。

かくいうわたしも、叱られるのは何よりイヤ。仕事の場なら、当然謙虚に受け止められる「お叱り」でも、これが私生活となれば話は別。内容の如何を問わず、男に叱られること、そのこと自体が何が何でもイヤなのだ。
何しろ、お母ちゃん女王の母子家庭で育ったせいで、日常生活の場で男の怒りに屈したことが一度もないわたし。父親がいた頃も、父親とおぼしき男性メンバーや第2の父親がいた頃も、確かに男の怒りや暴力にさらされたことはあるが、それを凌駕する迫力で猛然と闘い挑む雌ライオンのようなお母ちゃんの存在感が圧倒的に大きかった。そのおかげで、男が怒ったときは、野生の雌の感情を結集し差し違える覚悟で立ち向かうべし、みたいなメチャクチャな教訓がすり込まれているのは、自分のこれまでの経過をみても明らかに違いない。

そんなこんなで男に叱られるのは不慣れなわたしも、その分、女の怒りにはかなり免疫力が高い方だと自負している。女の場合、何につけても「わたしはこう思う!わたしは間違ってない!」とまくしたてる主観的な叱り方なので、たとえ自分に非があっても、その逆上した怒りの迷惑をこうむることで、自分の非も相殺されるというか、それ以上深く自分を見つめ直して反省する必要がないところが、男のそれよりマシなのだ。

後々考えても、「ああ、わたしみたいな女が嫌いなのか」と、そこは同性だけに感情的にケリがつけやすい。

なぜなら女の怒りは主体的な心情なので、どうしてほしいのか、そこだけ見て対処すればいい。が、男の怒りは、妙に理性的に社会通念としてどうのこうのと言ってくるので、じゃあ、どうしたら許してもらえるのか、そこが今ひとつわかりにくい。

「世の中が許しても、わたしは許さない」のが女の怒り方なら、男の方は「オレは許しても、世の中が許さない」という感じ。

何せイヤなのは、男特有の回りくどい叱り方。本当に論理的な説諭や指導ならありがたく頂戴するも、そうではなく、わざと論理的に客観的に、あたかも自分は怒りたくて怒っているわけではないみたいな叱り方は、個人と個人の関係においては卑怯ではないか。父親に叱られた息子が、そのことに腹を立て殺人に至るケースがあるが、たぶん、その叱り方というのは、そういう狡猾に人を愚弄するような叱り方だったのではないかと思ったりもする。

知性派か理論派か何のつもりか知らないが、そういう回りくどい叱り方をする男性は、機嫌の悪さ、疲労、苛立ち、焦り、嫉妬、落ち込みなどという個人的な感情から出る怒りにも世の常識、業界の慣例、社の規範、オレの経験則みたいなムダな資料を無理矢理挟み込んでくるので、何にそんなに怒っているのか、何を叱られているのかがさっぱり見えない。だから、感じさせられるところが何もない。

ギャッと怒ってギャフンと締めれば済むような単純な事柄でも、おれがこうしてお前を叱るのはオレがそうしたいのではなく、お前がオレにそんなことを言わせるからだ。ゆえに悪いのはお前であると、やたら前説が長いのが下手な説教好きの厄介な特徴である。

しかもなぜか、そういう説教好きの男には、つねに標的となる叱られ役が用意されてるのが不思議なところ。これまで勤めた会社でもそう。怒りっぽく説教好きの社長や上司には必ず、叱られ役の部下、下請け業者などがあてがわれていたりして、それがまた「おい!」と恫喝された瞬間、何とも殺生な表情を見せるのである。笑っているのに瞳の奥で泣いてるような、見てるこっちが切なくやりきれなくなる、堺雅人みたいな哀願フェイス。

そういえば昔、ことあるごとに社長の怒鳴り声が響き渡る会社に勤めていたことがある。三日と上げず繰り返される怒号と説教にうんざりムカムカしながら仕事をしていたが、さながら横暴な父親の怒りに黙って耐える母を見ながら、その悔しさ悲しさをご飯と一緒に噛みしめる子どもたちのような心情だった。しかし、毎度毎度よくぞそこまで怒鳴る方も怒鳴る方だが、叱られる方もまた叱られる方で、これがまた堺雅人というより温水洋一てゆうかELTのギターの人みたいな、いずれにしても当たり役だったりするから致し方ない。

さんざん言葉責めに怒鳴り倒したクライマックス、「どうしたらいいか自分で考えろ!」と、ようやく説教部屋の幕が下りるかという瞬間、苦悶に歪んだ雅人の顔に浮かぶ「?」のエラーメッセージ。

うそでもいいから「わかりました」と言えば帰れるものを、なぜ、そんなに叱られたいのか!

社員一同のそんな空しい予想通り「なんや、何もわからん顔しやがって!おまえほんまに頭悪いのぉ」と、「ええか!ワシやったらこうする」の浪花節コーチングの幕が開く。

しかし、なぜ男の説教はやたらと長く、ネチネチしつこいのか。酔うとしつこくなるのと同様に、男特有のクセなのか。これまでの仕事でも、女性に説教された覚えはなく、ただ一方的にわめき散らして、こちらが何か言う前にガチャン!と電話を切るのが、怒れる女の担当者のやり方である。
これが男性担当者となると「なぜ今日、私どもがお呼びしたかおわかりですか?」と、家裁の調停で裁判長がまず自覚を促すような言葉がけからじわじわ責めてくる。

どうも男の説教好きを見ていると、自分がなぜ怒っているか、その理由を相手の口から白状させ、降伏させ、征服したい男ゴコロというやつを勘ぐらずにはいられない。そんなイヤらしい説教男に遭遇するたび、これまたわたしが下す感情的な落としどころ。

「さては、わたしのこと、好きなんちゃうか(好きなのではないか)」。

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6件のコメント

面白いわ~。いい感じです。

by hisako - 2010/12/10 10:49 PM

やっとコメント入れれました!(祝)リツコさんのコラムをいち早く読む読者だね、わたし。あとね、阿部定について書いて欲しいわ!

by hisako - 2010/12/10 10:50 PM

阿部定かぁ〜どうもね、「そこまでオレが欲しいのか」みたいな男好みの悪女のような気がして、今まであんまし興味を持って見てなかってんけど、ちょっとそのあたり、昭和の犯罪史を彩った悪女たちについてはもういっぺん調べ直してみるわ。一応専門は、福田和子研究やけど(笑)

by salitote - 2010/12/10 10:50 PM

気持ちええわ〜

by 魚見幸代 - 2010/12/10 10:51 PM

男の怒り方、まさにそのとおりですね〜

by tomoko yoshida - 2010/12/10 10:51 PM

面白く拝読しましたが、少し長くしつこい説諭を受けた読後感。
三分の一ぐらいにまとめたほうがいい。少し長過ぎます。

by sakakei - 2011/02/19 1:00 PM

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Ritsuko Tagawa
Ritsuko Tagawa

多川麗津子/コピーライター 1970年大阪生まれ。在阪広告制作会社に勤務後、フリーランスに。その後、5年間の東京暮らしを経て、現在まさかのパリ在住。

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