2013-06-11
野のもの
もう7、8年ほど前にことになる。
突如、ハワイの「ロミロミ」というマッサージを学ぶワークショップに参加することになった。
もちろん、自分の意志で参加したのだけれど、ハワイに行ったことはないし、「ロミロミ」がどういうものかも、よくわかっていなかった。
もう少し言えば、ちょっと前までは、ハワイそのものへの興味もほぼ、なかっった。(子供のときに、芸能人の正月はハワイ!ってなワイドショーをよくみた影響だ…)
その私の偏見が変わったのは、自然写真家・高砂淳二さんの「night rainbow」という写真に出会ってからだ。
まさか、夜に現れる虹なんて、想像にも及ばなかった。
高砂さんは古代ハワイアンの叡智を脈々とつたえるカフナという人のひとりに「夜の虹」のことを聞いたという。
以下、「night rainbow」から引用させてもらう。
「昔からハワイでは、夜の虹は、めったに出会えるものではなく、この世の中でもっともすばらしい祝福であるとされてきた。ただの自然現象ではなくてスピリチュアルな虹であり、先祖の霊たちがさまざまな癒しや智恵を与えるために現われる特別な虹である、ととらえられているのだ。(「night rainbow」より)」
この夜の虹の話をカフナの人から聞いた直後の満月の夜、高砂さんは実際に自分の目で夜の虹を見て、写真に収めた。
この夜の虹にまつわる話をきっかけに、自分でもおかしくなるほど強烈に、ハワイへの思いがかき立てられた。いや、ハワイというより、このカフナと呼ばれる人に。
ハワイに行くだけなら、お金と時間をやりくりすれば、なんとかなる。でも、そのカフナと呼ばれる人に会えるわけではない。
そんなスペシャルな人には、特別ななにかがなければ(それが何かはわからないけれど)会うことなんてできないと、勝手に思い込みの世界に入っていた。
初めて「night rainbow」をみてから、2年ぐらい経っていたと思う。
どこからか、高砂さんのトークショーに、そのカフナと呼ばれる人がゲストで出演するという話が耳に入った。
私は慌ててネットで調べた。
間違いない。あの「night rainbow」の人だ!
何があっても、そのイベントに行かなくては! 私は焦るあまりマウスを握る手を震わせながら、申し込みフォームへページを進めた。
が、……時すでに遅し。トークイベントは満席。申し込みは締め切られていた。
ガーン!!
好きなアーチストのライブに行けなくても、人気のレストランの予約がとれなくても仕方がないと思うけど、このときほど、タイミングが合わなかったことを悔しいと思ったことはない。
うなだれながらサイトをみていると、トークショーとは別の案内があった。そのカフナと呼ばれる人による「ロミロミワークショップ」だ。
2日間で、たしか十数万円はしたと思う。
た、たかい…。でも、ハワイに行くことを思えば…。
それにハワイに行ったとしても、この機会を逃したら、もう会えるチャンスはないかもしれない。
というわけで、ロミロミワークショップに申し込んだ。
ただ、カフナと呼ばれる人に会いたいがために。
ロミロミを施術する人のためのワークショップ。セラピストでもなく、これからセラピストを目指すでもない私が参加してよかったのか。
ワークショップ当日、私はカフナと呼ばれる人に会えるワクワクドキドキな楽しさ半分、不安半分で会場へ向かった。
ワークショップはあるお寺の広間を利用して行われた。広間にはマッサージベッドが並んでいる。お寺にマッサージベッド。不釣り合いなような風景のバックミュージックは、ウクレレの生音とやわらかな歌声。
歌っているのは、カフナと呼ばれる人、カイポさんだ。
カイポさんが行っているロミロミは、骨格や内臓、エネルギーの流れなどを矯正するハワイに伝わるマッサージ法。
ワークショップでは、胃の位置の確認の仕方から、筋肉をほぐし、リンパの流れを良くする手技など、一通りのロミロミ施術法を教わった。また、カイポさんはロミロミを行う者にとって、大切なのは心のあり方だと話した。
「自分がいつもクリアであること」
ロミロミを行うとき、クライアントに対しても自分に対しても、余分な考えや感情、思い込みは一切取払い、真摯に向き合うこと。そうしたひと言ひと言が、染み入るものばかりで、ロミロミの施術を通して、生き方の英知を教わっているようだった。
私はすっかり、ハワイ文化に魅了されてしまった。
マッサージベッドを衝動買いして友人をロミロミしまくり、ワークショップで知り合った友人が通うフラスタジオへ入会。同じく、ワークショップで知り合った友人に誘われ、翌月にはハワイへ行くことになった。
なにかに突き動かされるように、ハワイとの関わりを求めていった。
初めてのハワイ。
まず足を踏み入れたのはハワイ島。テレビで見ていたハワイのイメージとはまったく違った。吹く風に体の中を掃除されているような爽快感。カイポさんと同じくカフナで、代々伝わる土地を守る女性とキャンプを張り、飲食をともにし、月や海、火山など自然がもつ力の話を聞いた。
オアフ島でカイポさんとも再会し、そこではハーバルスタディを行った。
海岸にある草や土、公園にある草、ハイビスカスなどの花はそれぞれに体を癒す(ときにはいろいろな症状を緩和する)働きがあると教わり、ちぎっては食べた。
その辺にあるもの。いつもなら靴で踏んでしまうような草。ただ見るだけの花。その存在の役割を知り、採って口にすることがこんなに楽しいだなんて思ってもみなかった。
ただただ、体と心のこと、自然のことを教わるのが楽しくて、その後も幾度かワークショップに参加した。
ときどき、なぜこれほどまでに、惹かれるのか。そう自問するも、そのとき答えはわからなかった。触れれば触れるほど、体も心も、自然も、あまりにも大きいと感じた。
その後。結局、自分でも呆れるが…飽き症という性質は変えられず、ハワイ熱はずいぶんと収まり、普通のハワイ好きになった。
「あんな大きな世界に足を踏み入れるには、相当な覚悟いる。覚悟をもてないので、この辺りで撤退」と自分に言い訳は忘れずに(苦笑)。
なぜ、夢中になったか。
最近、思い当たることがいくつかある。当時、大切な友だちが大病を抱えていたこと。自分はどうすればいいのかを探していたこと。その根っこに、ハワイに自分のルーツを求めていたのではないかと。
直接言い聞かせてもらうことはなかったが、漁師町で育った私は、日常的に漁師たちが目に見えないなにかを大切に敬って生きているのを感じていた。夜の虹のように、そこには先祖、土地の智恵があった。
母親には、つくしやゼンマイ、つわぶき、野いちご、あけびなんかの「野のもの」をよく、採りに連れて行ってもらっていた。その季節に自然と生えてくる野のものが、私たちの体を元気にしてくれることを知った。
今思えば、誰かの土地だろうけれど、そんなことはまったく気にせず、自然の、天の恵みを享受していた。
もちろん、母はいまもまだ、誰かの土地であろう「野のもの」をいただき、土地を離れた娘にお裾分けをしてくれる。
できることなら、いつまでも「野のもの」が食べられる世でありますように。
先日届いたツワブキの梅煮。
5件のコメント
共感します。
出会えてありがとう!
ありがとうございます。嬉しいです!
ロミロミと唱えるだけで、モミモミみたいで気持ちよさそうです。夜の虹。カナフの土地を守る女性とのキャンプ。そして、身のまわりの神秘。茶番の喧騒から逃れ、時空を超えて大きなものと対話する静謐の時。僕は南の海で、夜、青く輝くカゴカキダイに逢ったことがあります。
夜の海は、また素敵ですよね。今振り返っても、ハワイでの、あのときの時間は夢のようです。今、同じ体験ができたとしても、きっと当時感じたような感覚にはならなさそうです。そんな巡り合わせも不思議です。
追伸 ツワブキの梅煮、とてもおいそう。
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