salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

そらのうみをみていたら。

2016-01-5
Hulaのこと。

フラをはじめて今年で10年になる。

いきなりだけど、人生は、たしかに自分が選んできたことの積み重ねで今があると思う。けれど、ときどき、なにか大きな波に乗せられているのではと思わずにはいられないときがある。

2006年3月24日、わたしは東京のある寺に向かった。ハワイのカフナであるカイポさんのロミロミワークショップを受けるためにだ。
カフナとは、ハワイの土地や動植物を守る伝統を受け継いでいる人のことをいう。ハワイとは縁もゆかりもないし、興味もあまりなかったわたしだったが、仕事でお世話になっていた自然写真家の高砂淳二さんからハワイの魅力や、夜にみえる虹(ナイトレインボー)のお話などを伺う機会があり、その多くをカフナのカイポさんという方から教わったと知った。
「できることなら会ってみたい」
そう思ったけれど、芸能人に会ってみたいというのと似ていて、到底、現実には会える人ではないだろうと思っていた。

そのカイポさんが、東京に来て高砂さんとトークショーをするという情報を得た。
「きゃー、あのカイポさんを見れる」。
やはり好きな芸能人に会えるかのごとく、急いでイベントサイトにアクセスした。けれど、時既に遅し。トークショーのチケットは完売。
しかしこういうときのわたしは結構しつこい。
なにか手だてはないかと、サイトを隅々まで読んでみると「ロミロミワークショップ」という文字が目に入った。
“ロミロミの第一人者カイポさんから癒しの基礎を直接学べる贅沢なワークショップです。セラピストはもちろん、未経験の方も大歓迎です”とある。
ロミロミという言葉の意味をそのとき、知っていたかどうかをもう忘れてしまったぐらいの未経験者だったが、ワークショップならきっと直接カイポさんとお話をすることができるはず…。13万円という受講料に一瞬、ひるみはしたものの、ハワイに行く旅費を考えれば、この機会を逃してはいけないと即決して申し込んだ。

…というわけで、10年前の3月、わたしはカイポさんのワークショップを受けるために寺に向かった。

会場は寺の2階にある畳の広間。受付をすませて階段を上ると、ポロロン…とウクレレの音が聴こえてきた。
部屋に入ると、カイポさんがウクレレを奏でて笑顔で迎えてくれた。
ハワイに行ったことはもちろんなく、日本でもハワイっぽいお店やイベントに訪れたこともないわたしにとって、カイポさんが、初めてのハワイだった。

広間には数台のマッサージベッドが並べられていた。
そう、わたしはロミロミのワークショップに来たのだった。動きやすい服装ということで、グレーのジャージと長袖Tシャツに着替えて、参加者と思われる人たちの近くで座っていた。
全員が集まると、主催者がワークショップの進行について簡単に説明をした。その後、参加者は全員で手をつなぎ、カイポさんがなにかお祈りをするように言葉を唱えた。
そして身体解剖図をみながら、ロミロミマッサージで体の調整をしていくことについてのお話をしてくれた。講義のあとは、早速実践だ。参加者はふたり1組になって、カイポさんの指導にそって、マッサージをしていく。同じぐらいの身長の人がいいということで、ちょうど同じような身長の女性とペアを組んだ。その人は部屋に入ったときから、目立っていた。わたしを含め、参加者はジャージか、ヨガウエアのような服装だったが、彼女は華やかな柄の布を腰に巻き付けていた。髪の毛は腰の上ぐらいまでの長さで、手足が長く、まるで人魚のようだった。
話を聞くと、彼女はセラピストの勉強はしているが、ロミロミを学ぶのは初めてだという。それに少しほっとして、ともに一生懸命手を動かして、カイポさんの動きを真似た。

体のことに興味はあるものの、マッサージをしてあげるよりも、断然受ける方がいい。今回はただ、カイポさんに会ってみたい、話を聞いてみたいというだけで参加したはずが、意外にもロミロミを学ぶのは楽しかった。

今思えば、ペアになった彼女が反応してくれたからかもしれない。教わったように手を動かしていくと、彼女の体が少しやわらかくなって、こちらまで気持ちよくなった。
カイポさんは、何度も、ロミロミをするときはクリーンでないといけないと言った。わたしはこの教えがとても気に入った。
「気持ちよくしてあげよう」と思うのではなく、ただ教わったように手を動かしていく。すると、どんどん自分の体まで血流がよくなって、スッキリした。

カイポさんは「フラのようにやさしく手を動かして」とも言った。
フラというのは、あのフラダンスのことか。わたしはフラ(Hula)が踊るという意味だということさえも知らなかった。ペアの彼女はフラを習っているという。そして彼女の手の動きに驚き、見とれた。

このワークショップの日から、わたしの中の何かが始まった。

ペアの彼女とは、その後連絡を取り合って食事をした。どうしても、あの手の動きが気になっていたのだ。聞くと、近々彼女が習っているフラ教室の発表会があるという。ぜひ行きたい、とお願いしてチケットを取ってもらった。

会場は1000人くらいが集客できるホールで、思ったよりも大きかった。「長くて疲れちゃうから途中から来た方がいいよ」と彼女のアドバイスに従い、少し遅れて向かい、静かにホールの扉を開けた。

暗い客席で、後ろのほうに座った。
ステージの中央で歌手が唄うハワイアンソングに合わせて、生徒たちのフラが披露されていた。

わたしは、こんな世界が、現実にあるのかと思った。
「ALOHA」
ハワイを知らなくとも知っている、有名なあいさつの言葉。
けれど、あいさつだけではない「ALOHA」に、わたしの体はただただ衝撃を受けていた。

(きっと、つづく)

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魚見幸代
魚見幸代

うおみ・ゆきよ/編集者。愛媛県出身。神奈川県在住。大阪府立大学卒業後、実家の料理屋『季節料理 魚吉』を手伝い、その後渡豪し、ダイビングインストラクターに。帰国後、バイトを経て編集プロダクションへ。1999年独立し有限会社スカイブルー設立。数年前よりハワイ文化に興味をもち、ロミロミやフラを学ぶ。『漁師の食卓』(ポプラ社)

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