salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

そらのうみをみていたら。

2014-01-5
杵つき餅

ネットはほんとに便利なもので、どんな疑問にも答えてくれる。
今年最初の検索は
「杵つき餅はなぜ美味しいか。」

答えは
「機械では、細かな気泡が残り腰の弱い、煮どけしやすい餅になる。杵つきの場合、この気泡を追い出すことができるので、腰のある餅になる」
「機械で練られた餅は米の繊維質が破壊されるため、伸びや腰がなくなる。杵つきはその繊維質が破壊されず保たれるので腰のある食感がある」
そうだ。

これらの回答は主に、杵つき餅を売っている食品メーカーのサイトに書かれてあった。「うちの餅は杵つきを忠実に機械で再現しているので、美味しいよ」というわけだ。

ふむ。
構造はそうなのかもしれない。でも、果たしてそれで本当に同じような味になるだろうか。なにか足りない気がする。
やはり機械でつくるか、人間の手でつくるか、の違いなのではないか。
結局は私たちは、「便利」と「美味しさ」を天秤にかけて、多くの場合「便利」を選んできている。人の手の美味しさに少しでも近づくために、技術は進化し続けているし、その挑戦をやめることはないだろう。

でも、それを言ったら…この話はおしまいになってしまう。
もう少し、餅に絞って考えてみよう。
家で餅つきをするには、何が必要か。
必要な道具と材料
・ 臼(うす)
・ 杵
・ 蒸し器(餅米を蒸すため)
・ 餅米
・ 餅とり粉
・ 餅とり板
・ もろぶた(餅を並べる木箱)
・ その他ふきんやバケツなど

たとえ、これらの道具を揃えたとして、どこで餅つきをするか。
道具を収納しておく場所もいる。

いざ、餅つきをするために必要な人数は、最低でも2人だろうけど(餅をつく人、餅を返す人)、現実的には難しいだろう。米を研いだり、蒸したり。餅ができあがったら、ちぎってどんどん丸めていかないといけない。





つきたての餅を甘辛いしょうゆで食べる。

これだけの準備とセッティングをすることを考えると、かなりハードルが高い。
都会のマンション生活では、とても手に負えそうにない。「便利だから」だけではない理由が山ほどある。

幸い、うちの実家では毎年杵つき餅をつくっているので、今の所、都会に住んでいても杵つき餅にありつける。もし、この杵つき餅を実家で作らなくなったら、私はどうするだろう。山ほどある理由に自分を納得させて、杵つき餅を食べることを諦めるか。

少し話はそれるが、うちには13歳になる愛犬コーギーがいる。東京に来た当初、アルバイトで生計を立てていた私は、ほんとうに貧乏でひとりで暮らしていくのに精一杯だった。アルバイト先はスクーバダイビング雑誌の編集部。バイト業務である写真家さんの家に、写真を取りに伺うと(少し前までは、そういう時代でしたねえ〜)、とっても愛らしいゴールデンレトリバーがいた。写真を取りにいくだけだけど、そこで過ごす数十分の時間が心地よかった。仕事も生活もあまりに未熟で、ときどき折れそうになる心を癒してくれた。それから、私は犬を飼う生活をすることを目標にした。
数年後、井の頭公園のすぐそばに家を借り、愛犬との生活を始めることができた。それ以来、愛犬と暮らすことが人生のデフォルトになっている。

餅つきができる生活だって、きっとやれないことはない。杵つき餅をつける生活を目標にしよう。そして家族や友だちに配って、この幸せを食べてもらおう。


元旦に食べる雑煮

大好物のきなこ餅

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魚見幸代
魚見幸代

うおみ・ゆきよ/編集者。愛媛県出身。神奈川県在住。大阪府立大学卒業後、実家の料理屋『季節料理 魚吉』を手伝い、その後渡豪し、ダイビングインストラクターに。帰国後、バイトを経て編集プロダクションへ。1999年独立し有限会社スカイブルー設立。数年前よりハワイ文化に興味をもち、ロミロミやフラを学ぶ。『漁師の食卓』(ポプラ社)

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