salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

そらのうみをみていたら。

2014-03-5
まじめな、みかん王国

18歳まで過ごしたふる里を出てから、愛媛県出身と伝えるとほとんどの人はこういう。
「ああ、みかんの…」
若い頃はその言葉を聞くたびに、なぜか必死になって否定した。
「いえ、うちはみかん農家でなく、漁師ですから」。
鯛やふぐでなく、みかんのほうが有名なのがただ悔しかったのだけど、これだけ多くの人に、愛媛=みかんのイメージが植え付けられていることには、正直驚いた。その功績の多くを担っているのは、きっとこれ。


「愛媛のまじめなジュースです」でおなじみのポンジュース。

ある頃からは「愛媛では水道からポンジュースが出てくる」という噂がたった。初対面の人から「あれですよね? 水道からポンジュースがでるっていう…」とユーモアのある会話を投げかけられたときの返答に、どれだけ困ったことか…。
さすがに口にはしないけど、やはり心の中では「うちはみかん農家じゃないから…」とつぶやいていた。

つい2年前のことだ。
「おいしいみかんをもらったから、送ってあげるよ」と母から連絡があった。それまで、ほとんどのみかんの申し出は断っていた。子どもの頃にみかんが家中に転がっている生活に慣れてしまって、食べたい欲を感じなくなっていたのだ。島根県出身の義妹も、弟と結婚するまで大のみかん好きだったのに、嫁いできてからみかんに見向きもしなくなった。どうも人は、当たり前になってしまったものに魅力を感じなくなるようだ。
でも、そのときは送ってもらうことにした。その頃私は結婚したばかりで、茨城県出身の夫がみかん好きだった。
やってきたみかんの中に、普通のみかんとは違うのが入っていた。「これがおいしいみかんか」。見た目はオレンジのようだけど、皮は柔らかで薄く、普通に剥くと身も破れてしまうほど。オレンジを食べるようにくし形にカットした。切り口からあふれんばかりの果肉はなかなか期待できそうだ。
食べてみて驚いた。めちゃくちゃ甘い! といっても南国のフルーツ特有の強い甘さではなく、「みかん」の素朴さは残っている。そして、プルプルした食感!
「これは初めての感覚だね」と夫も興奮を隠しきれない。
すかさず私は「愛媛のみかんはすごいでしょ」と言い放った。まるで自分家で作ったみかんのように…。が、「これは何?」と聞かれてすぐに漁師の娘に戻った。「なんだろうね…?」名前も聞いてなかった。
母に電話でこのみかんの正体を聞くと、最近人気の出てきた「紅マドンナ」という新種らしい。そういえば、これまでもときどき新種がでたと送られてくることがあった。普通のみかんは安くて商売にならないから、いろいろ開発しているんだと農家出の母は話していた。
紅マドンナはすぐに食べてしまったので、追加を送ってほしいと頼むと、もう収獲は終わってしまったという。次は伊予柑やデコポンがもうすぐ出てくるから、それまで待てと。このとき初めて頭の中で認識をしたのだが、実は愛媛では1年中、いろいろなみかんを育て、収獲している。あまりにもみかんに興味が向いていなかった自分を深く、深く反省した。

みかん収獲カレンダーはこちら。
1月 ポンカンオレンジ、伊予柑、デコポン、媛小春、ブンタン
2月 はるみ、はるか、スイートスプリング、西の香、甘平(かんぺい)、せとか、天草
3月 アンコールオレンジ、完熟きんかん、デコタンゴール、ニューサマーオレンジ、ブラッドオレンジ
4月 サンフルーツ、はっさく、清見タンゴール
5月 あまなつ、夏みかん、カラマンダリン
6月〜9月 ハウスみかん
10月 早生みかん
11月 権兵衛みかん
12月 紅マドンナ、はれひめ、愛媛みかん、ひめのか
(参考サイト みかん大辞典

そしてやってきた先月のみかんたち。

(左上)伊予柑 甘さと酸っぱさのバランスがいい。したたるほどのジューシーさも魅力。房を剥いて食べるのが少し面倒。
(中央)ポンカンオレンジ 房ごと食べられ、酸味は少なくほんのり甘い。
(右上)デコポン 同様に房ごと食べられる。濃いめの甘さと酸味のバランスがいい。
(左下)甘平(かんぺい) 外皮も房の皮も薄い。酸味はほとんどなく、濃い甘みとぎっちりした果肉が特徴。
(右下)はるか 外皮は厚く、見た目はレモンのようだが、酸味は少なくさわやかな甘みが特徴。
※ 肝心の「紅マドンナ」は夢中で食べてしまって、、写真を取り忘れました。ごめんなさい。

どれもそれぞれに個性があるけれど、カリフォルニアオレンジとか、グレープフルーツのような明確な味というよりは、国産の繊細さ、愛媛の穏やかな味わいが印象的だ(気のせいかもしれないけれど)。それにしても、これだけの種類を開発したものだ。
私たちが虜になった紅マドンナは、収獲の時期(年末年始)には東京のデパートにも並んでいた。どうも高級フルーツの仲間入りをしているようだ。出世頭にならって、ほかの品種も多くの人に届いてほしい。
いやせっかくなら、お隣のうどん県にならって、みかん県・愛媛を訪れて、そのときどきのみかんを食べにきてもらいたい。

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魚見幸代
魚見幸代

うおみ・ゆきよ/編集者。愛媛県出身。神奈川県在住。大阪府立大学卒業後、実家の料理屋『季節料理 魚吉』を手伝い、その後渡豪し、ダイビングインストラクターに。帰国後、バイトを経て編集プロダクションへ。1999年独立し有限会社スカイブルー設立。数年前よりハワイ文化に興味をもち、ロミロミやフラを学ぶ。『漁師の食卓』(ポプラ社)

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