2016-11-25
私の東京周辺物語4
〜井の頭公園での遅い青春〜
井の頭公園の名物といえば、なんといっても桜だ。
池に垂れ下がる桜の枝振り、ハラハラと舞い落ちる桜吹雪。文句なしに美しい。
けれど世の「お花見」風習に、いまひとつ乗ることができない冷ややかな自分がいた。昼間から場所取りのために敷かれるブルーシート。出前で運ばれてくるピザ。外で飲むには寒すぎる気温。翌朝のアルコールと食べ物の匂い。そして、人が大勢いる場所にいることがダメだった。
そんなわたしに「お花見」の誘いがきた。しかも、、いちばん近いという理由で場所取りを命じられた。仕方なくブルーシートを買い、人がいちばん集まるステージ前から少し離れた場所を確保した。試しに座ってみると、風景が変わった。空は広く、桜は青に澄んで、心がほっと落ち着いた。
夕方、仲間がそれぞれに食べ物と飲み物を持ち寄り、宴はなんとなくはじまった。
缶ビールが驚くほどおいしかった。
多芸な仲間たちは楽器をならし、声をならし、笑いをとばした。
桜が頭の上を舞った。頭が軽かった。寒いのに、寒がりなのに、いつまでも飲んでいたかった。
あちらがわとこちらがわ。こちらがわとあちらがわ。
少し場所を変えるだけで、世界はこんなに違ってみえる。
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