2016-11-5
私の東京周辺物語3
〜ラクがやってきた〜
「犬と暮らせるようになる」
東京に来て、漠然と夢のように思っていた。
そんな夢が明確な目標になったのは、自然写真家の高砂淳二さんのところへ毎月、仕事で掲載する写真を受け取りにうかがうようになってから。
代々木上原にある高砂さんの事務所には、大きくて愛らしいジュリーがいて、ドアを開けるといつも笑顔で出迎えてくれた。そしてクンクンとわたしのことを確かめた。
足元のその温かい感触に気持ちがほどけた。
犬と一緒に暮らすために、ふたたび井の頭公園の近くで家を探した。
吉祥寺駅から徒歩約30分。井の頭公園の端のほうに(ジブリ美術館の近く。当時はまだできていなくて、建設途中に囲いを覗くと屋上にロボット兵が現れて興奮した)、離れを賃貸に出している物件があった。大家さんはハープ奏者で、ケガをしているカラスの子どもを保護し世話をしていたという動物好き。
そのカラスは「カーくん」と呼ばれ、今でもときどき遊びにくるという。即決した。
引っ越してまもなくの12月、ラクがうちにやってきた。
ペットショップは気が進まなかったので、まあ、似たような状況だとは思うけれど、希望の犬種を伝えておくと知らせが入り、家に連れてきてくれるというサービスを利用した。
というわけで文字通り、産まれて2カ月のラクがやってきた。
はじめのうちは、とても大変だった。
トイレのしつけ、夜泣き、いらずら…。
なにより、朝起きたときや出かけたとき、無事に生きているかが心配で、顔を見ては毎日、ほっとしていた。
散歩はもちろん、井の頭公園。
夕方になるとグラウンドに近所の犬たちがたくさん集まってくる。
“公園デビュー”。
東京にきてから、近所付き合いらしいことはしたことがない。
正直、めんどくさい。けれどラクをお友達と遊ばせてあげたい。
恐る恐る近づいて行くと、ラクに気づいたワンちゃんたちが次々にクンクンと挨拶にきてくれる。飼い主さんたちも子犬のラクをみて、「かわいい」をリフレイン。
ラクと歩いていると、道行く人とあいさつができるようになった。
知らない人とはあいさつしない。ほとんどが知らない人だから、あいさつしない。それがふつう。
知らない人とあいさつをする、ただそれだけで、体のバリアがひとつはずれる。
バリアは体を守るもの。けれど、体をかたくするもの。
小さなラクはわたしの体を少しだけ、やわらかくしてくれる。
うちに来たばかりのラク。寒がりでいつもストーブの前にいた。
いまも寒がりは変わらない。
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