salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

そらのうみをみていたら。

2018-01-5
夢をいっぱい吸い込んで

フラのレッスンの最初に、先生、そしてフラシスターたちと手をつないで円になりクレンズをする。
「ブリージング〜、フラに必要のないものは全部吐き出します。ふ〜〜〜」
「空っぽになったところに、アロハスマイルを吸い込んで大好きな自分に戻ります。ふ〜〜〜」
「夢をいっぱい吸い込んで、キラキラになったらフラシスターと分け合います。ふ〜〜〜」

先生の言葉にしたがって、みんなで一緒に呼吸を繰り返す。フラを踊る準備ためのこのクレンズが好きだ。
みんなの体温や息づかいを感じられて温かくなり、体も心も浄化されたように気持ちがいい。
一方で、「フラに必要のないもの」「アロハスマイル」「大好きな自分」「夢」「キラキラ」。これらを頭の中でイメージするも、今の自分にとって、それがなんなのか。雲をつかむようで、なかなか手に入れられない。確かにあることはわかっている。けれど言語化することができない…。そうしている間に、クレンズが終わる。

フラを続けて、今年の夏で12年になる。
どうしてこんなに続いているのか。理由は山ほどある。
その理由のひとつが、言語化できていない、でもそこに確かにある、とても大事なことをわかりたいという思い。

この「わかる」ということが、どういうことかということを、やはりうまく表すことができないなあと思っているときに、ある本に出会った。
独立研究者・森田真生氏の『数学する人生』。この本の中で、森田氏は天才数学者・岡潔氏の言葉を紹介している。

“まず「人は本当は何もわかっていない」ということを自覚することからはじめなければいけません。私たちはたしかに、いろいろなことを知っていますが、根底まで尋ねていくと、みな途中でわからなくなって、はっきりしていることなど一つもないのです。特に「自分とは何か」「自然とは何か」をわかっていると思い込んでいる”

例えば、人間は時間・空間という枠の中で五感を頼りに生きているが、そもそも「時間」や「空間」の本体は何か、問い始めると数学的に証明できると思っている数学者は今ひとりもいないだろうという。また、人間がなぜ見えるのか、なぜ立とうと思えば立てるのかといった人の知覚、運動という生命現象については一つもわかっていない。
…このように、人は何も知らないけれど、情の中で生きている。嬉しいときは嬉しい、悲しいときは悲しいと、情が健全なら人生を送るには問題がない。人と人が言葉を交わすと話が通じるのも、はじめから情が通じ合っているから。心がわかり合うというときの「わかる」は口ではいえないような、意識を通して見ることのできないような「わかる」。知的な「わかる」ではなく、情的な「わかる」。創造のはじめに働くのも情。情というのは不思議なもので、わからないながらわかるという働きを持っている。そうして人は情的にわかっていることを知的にわかるように表現していく。
そして、
“数学に限らず、情的にわかっているものを、知的にいい表そうとすることで、文化はできていく”。

…と。
こうした岡氏の言葉に影響を受けた森田氏は、数学を学びはじめ、いまは独立研究家として「人間とは」「生きることはどういうことか」を問い続けている。「数学を通して、世界をわかりたい!」と。

恐れ多いこと甚だ承知の上、夢は大きく、言ってしまおう。
フラを通して、世界を「わかり」たい。

ご意見・ご感想など、下記よりお気軽にお寄せ下さい。

2件のコメント

岡潔、中谷宇吉郎、寺田虎彦、夏目漱石という、系列の中で、あるいは、別な言い方をすれば、奇妙な数学者、雪の結晶の研究者、角砂糖の角の崩壊についての研究をした物理学者、そして唯一無二の文章の人という、一筋の流れの中で、連綿と受け継がれて浮かび上がる明確な木の葉は、情緒、のような気がします。難しいことは何一つわからない私ですが、彼らの文章に接したときの安心は格別で、この世界に浸りたいと願います。岡潔は、人間の建設、という文章の中だったでしょうか、人間の中心は、科学性でも論理性でもなく、情緒だ、などといたのが、印象的でした。では、情緒とは。難しいですね。少なくとも、人を攻撃しないもののような気がします。これが、僕にはなかなかできません。

by EN - 2018/01/06 11:13 AM

ENさん
はい。私も難しいことがわからないのですが、難しいことに挑んで来た偉人が、これまたよくわからない人間というものを「情緒」と表現しているのにとても惹かれました。そして、難しいことに挑むことで得られる自由というものにもとても興味があります。

by admin - 2018/01/06 7:14 PM

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魚見幸代
魚見幸代

うおみ・ゆきよ/編集者。愛媛県出身。神奈川県在住。大阪府立大学卒業後、実家の料理屋『季節料理 魚吉』を手伝い、その後渡豪し、ダイビングインストラクターに。帰国後、バイトを経て編集プロダクションへ。1999年独立し有限会社スカイブルー設立。数年前よりハワイ文化に興味をもち、ロミロミやフラを学ぶ。『漁師の食卓』(ポプラ社)

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