salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

そらのうみをみていたら。

2011-05-6
人間にとって一番大切なこと

初めて吉本隆明さんの言葉にふれたのは、「ほぼ日」。
『吉本隆明の声と言葉。』というCD&BOOKに出てくる「言葉のいちばんの幹は沈黙です。言葉となって出たものは幹についている葉のようなもので、いいも悪いもその人とは関係ありません。」という考えに、雷に打たれたような衝撃を受けた。

なぜかを周りの人に説明をしようと試みるが、到底、私の足りない頭では枝にも葉にもできなかった。

自分を納得させることのひとつとしては、生まれ育った環境のことがある。父や近所の漁師たちは寡黙でもないが、けっして口がたつほうでもない。荒々しい言葉や態度の中に個々の思いや生き方が匂い立つ感じというようなものだ。彼らの言葉は論理的でも、感動的でもないが、その匂いは強烈な存在として、私の中にいる。そうしたことが「幹は沈黙」という考えにしっくりときたのだと思う。

その吉本隆明さんの2007年の著書『真贋』の中に、「人間にとって一番大切なこと」という項がある。そこに、私が探していた答えがあった。

大切なことはその都度変わっていく。…人によって誠実であることが重要だとか、愛情が重要だとか、ひとりひとり言い方が違うと言っていいくらいで、たしかにどれもみんな重要だ。でも自分にとって真に重要なことはなんだと突きつけられたら、こう答える。その時代時代で、みんなが重要だと思っていることを少し自分のほうに引き寄せてみたときに、自分に足りないものがあって行き得なかったり、行こうと思えば行けるのに気持ちがどうしても乗らなかったりする、その理由を考えることだ(『真贋』より抜粋)。

同著には、戦中、戦後のことが書かれている。吉本さんは戦中、真っ正面から戦争に賛成をしていた軍国主義青年だったそうだ(その理由も著書には書かれていますが、割愛します)。だから敗戦のときも戦争をやめることには反対で、軍人の反乱があったらそこに参加して死のうと思っていた。それが戦後の日本におけるアメリカの対等で平穏な態度をみて軟化することになった。占領した国民を自分たちと同様に扱って、了解を得る言い方をするようなことは、逆立ちしても自分にはできない。お話にならないくらい自分はだめだった、やり直しだと。

さて。
いまから「やり直し」はきくだろうか。わからない。
いま起こっている事態に自分はお話しにならないくらいだめであることはわかる。
だから、吉本さんの考えをかりて、「一番大切な」理由を考えていくことをやっていきたいと思う。

今回で「アイがあれば、ダイジョウブ!?」は終了させていただきます。
5月中旬より、新連載「人生すごろく 聞き取り語録 ふりだし」を始めます。「死」がゴールであるならば、先を急ぐことよりも、「ふりだしに戻る」ことは意義のあることではないだろうか。ご縁のある方にご登場いただき、人生すごろくのエピソードをうかがいます。

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魚見幸代
魚見幸代

うおみ・ゆきよ/編集者。愛媛県出身。神奈川県在住。大阪府立大学卒業後、実家の料理屋『季節料理 魚吉』を手伝い、その後渡豪し、ダイビングインストラクターに。帰国後、バイトを経て編集プロダクションへ。1999年独立し有限会社スカイブルー設立。数年前よりハワイ文化に興味をもち、ロミロミやフラを学ぶ。『漁師の食卓』(ポプラ社)

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