salitoté(さりとて) 歩きながら考える、大人の道草ウェブマガジン

そらのうみをみていたら。

2011-05-25
イラストレーター 平野こうじさん
「painting & me」<後編>

「ふりだし」とは、物事のはじまり。人生というすごろくでコマを進めて行くと、「ふりだしに戻る」こともある。「死」がゴールであるならば、先を急ぐことより、「ふりだしに戻る」ことがあってもいいんじゃないか…(自分に向けた慰めでもある)。
この連載では聞き手・魚見幸代のご縁のある人々に登場いただき、人生すごろくのエピソードをうかがいます。

前回に続いて、イラストレーター・平野こうじさんのお話を。

<前編>を読む

イラストレーターになって20年になる平野さん。絵を描くようになったきっかけは、子どもの頃、引っ越しが多くてあまり友だちができず、ひとりで遊ぶ時間が多かったからだと言う。
「それが不運でもあり、幸運でもありますね。そういう環境でなかったらたくさんの絵を描くことはなかった。今も会えば友だちだけど…友だちっていないかも…と、ふと思う時がある。もちろん高校や大学の友だちは、今でも大切な友だちだと思っています。」

実は私も友だちについては、たくさんいるのだけど「いないかも…」と思ってしまうところがある。私の育った町はとても小さくてクラスは1つしかなく、中学までの9年間ずっと同じメンバーだった。だから環境は平野さんとは対局。けれども、「友だち」に幻想を抱いているところがある。

そのことについては吉本隆明さんが、とてもわかりやすく定義してくれている。以前のコラムに書いたことがあるが、再掲する。

「ある時期、すごく仲良くなった友だちがいる。
でも、その後離ればなれになって再会したとしても、
話はあまり盛り上がらなくなったりする。
そのことは、もう考えようがなくて、
その友だちとの関係は「記憶の中にのみ関係は残る」ということ。
その友だち関係をずっと持続できたら、
それは本当に素晴らしいことで、宝物。
でも、たいていの人はそういうことはない。」

インタビューのときはそんな気持ちを共有した。ところが個展に伺ったとき、平野さんの「宝物」に遭遇した。
小学時代の同級生がやってきたのだ。なんと、数十年ぶりの再会だという。ふたりは「おおおーーーー!!!」と言い合って握手。
もともと少年のような平野さんだが、そのときは本当に少年の顔になっていた。同級生の方は当然、初めてお会いする方だけれども、同じような顔をしている。

平野さんは小学生の頃から絵を描くのがうまかったそうだ。「俺たちとは全く違っていたよね、才能っていうかね。…まだ持ってるよ、あのとき描いてくれたマンガ。子どもたちにも見せるんだよ。お父さんの友だちが描いてくれたものなんだよって」

ふたりは当時のニックネームで呼び合い、ひとしきり昔話に花を咲かせた。「昔を知ってる友だちはそのまんまでいいよな」と。

奇しくも、これまでのことを振り返り、素直に描きたいことを描いた作品の個展でそのまんまを認め合う友人との再会。

先日のインタビューの中で平野さんは、こんな話をしていた。
「自分が楽しめるものを持っておくことが大事だと思ってます。僕は自然の中で遊ぶのが好きで、自然からいろんなことを学びます。たとえば魚釣りでは、追いかけると逃げられちゃうし、サーフィンでいい波に乗って調子にのっているとその後、痛い思いをすることがある…。アンテナをはっておくことが大事。“気”みたいな、嫌な予感とか、なんか良さそうっていうのはあたるだろうと思います。」

そういう感覚を身につけていることが、自分を守ることにもなるし、続けていくための力にもなる。

「そのまんま」というのは、「昔のままと同じ」ということではないのだと思う。前回、平野さんが「昔描いたようにに描いてみようと思っても、同じじゃない。価値観も変わってきてるし、力がついている」と言っていたように。

人生すごろくのコマを進めていけば、いろんなものを手に入れる。手にした「モノ」を見て、その人のことを知ることもあるし、好きになったりもする。大人になると、持っている「モノ」をみるくせがついて、最初から「モノ」の奥にある、そのまんまを感じ合うのは少し難しい。いや、感じてはいても、感じてるよ〜って表現するのが難しいのかも。それが子どものときはきっと簡単にできる。

平野さんが自然の中で遊ぶのは、自分の「そのまんま」と出会うためなのかもしれないと思った。自分自身が忘れかけそうになっても、自然は「そのまんま」を教えてくれる。そして、友だちも。

それにしても、やっぱり「宝物」というのはすぐに見つかるところにはないのだなあ。自分から探しに行って、いろんな冒険を経て、「やっぱりないかも…」と思ったりもして、でも、まさかこんなところにというところに、ふいに、見つかるものなんだ。

本当は、ちゃんとあるんだなあ。


勝手ながら、先日の個展でお気に入りの一枚。

次回はフォトグラファーのたかはしじゅんいちさんにご登場いただきます。

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魚見幸代
魚見幸代

うおみ・ゆきよ/編集者。愛媛県出身。神奈川県在住。大阪府立大学卒業後、実家の料理屋『季節料理 魚吉』を手伝い、その後渡豪し、ダイビングインストラクターに。帰国後、バイトを経て編集プロダクションへ。1999年独立し有限会社スカイブルー設立。数年前よりハワイ文化に興味をもち、ロミロミやフラを学ぶ。『漁師の食卓』(ポプラ社)

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