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イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2011-06-26
「ヤッターマン乗りのバス?(モウラミャイン/ミャンマー)」

モウラミャインのバスは、軽トラックの荷台に幌がついており、向かい合わせにベンチシートが二列あるだけ。だいたい一列に五名、二列で十名が適度な乗車人数である。しかし、「適度」というのはあくまで僕が思うだけで、彼らの適度はそんなものではない。どんどん乗客を詰め込んでいき、乗れないときは幌の上にも人が乗る。多い時は、ここに六名程、乗る。それでも乗れないとなると、幌を支える鉄枠に捕まり落ちないように外側に立って乗る。まるで僕が子供の頃に観たアニメ「ヤッターマン」のように。実は、このヤッターマン乗りに僕は憧れを持っていた。いつかあの格好で乗りたいなぁと。

そして、そのときがやってきた。モウラミャインからバスで一時間程度離れた「ウィンセントーヤ」という巨大仏像を観に行った帰りのことである。大通りで、モウラミャイン行きのバスが来るのを待っていた。行き先の書かれたミャンマー文字が読めないのでバスが来る度に、ヤッターマンのように捕まって「行き先」を叫ぶ乗務員の声を澄まして聞いた。しかし、結局のところ聞き取れず、二台ほど乗り過ごしてしまう。三台目が来た時、手を挙げて、一旦、停まってもらい、自分の方から近寄って行き、「モウラミャイン?」と行き先を僕の方から確認した。乗車賃を回収する乗務員は、うなずいて僕を手招きする。既に荷台の席は埋まっていた。こうして念願のヤッターマン乗りの機会がやってきたのである。

心地いい風が直接、顔に当たる。スピードは速くもなく遅くもなく、顔にとっては、ちょうど心地いい。乗務員は相変わらず、相撲の呼び出しのような独特の言い回しで乗客をどんどん乗せて行く。男性客は慣れたもので、チラッと中を見て乗れないと思ったら、ひょいと横から幌の上にあがってしまう。それはそれは見事な早業である。女性陣はできる限り、幌の中の椅子に乗せてあげることが暗黙のルールのようで、女性が乗ろうとすると幌の中に座っていた男性はサッと立ち、席を譲る。そして、一度、幌から出て上に登るか、ヤッターマン乗りになる。

僕と同じように隣でヤッターマン乗りをしている初老の男性が
「どこから来たの?」
ときれいな英語で聞いてきた。日本だと僕が答えると
「私の娘がヤンゴンの日本大使館に勤めているんです」
と返ってきた。娘がかわいくてしょうがないといった笑顔だった。お互い風の音に負けないように大きい声で会話した。僕の英語力では彼の英語は半分も理解できていないのだが、日本がいかに素晴らしい国かを朗々と語っていたのだと思う。そして、彼は降りて行った。
「あなたと話ができて楽しかったです」
僕は覚えたばかりの英語を使って彼と握手した。既に幌の中の席は空いていたが、僕はヤッターマン乗りのままモウラミャインまで向かった。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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