2011-06-5
「トイレがない(ヤンゴン→モウラミャイン)」
初めて馬に乗ったとき、確かこんな縦揺れだったと思う。列車の上下の揺れは、自分の尻を少し宙に浮かせては落ちてくる。初めて象に乗ったときも確かこんな横揺れだったと思う。列車の左右の揺れで、棚の荷物がずり落ちそうだった。これだけ揺れると膀胱も刺激されるだろう。
僕の後ろに座った中年女性が車両のつなぎ目付近に設置されているトイレに向かった。しかし、使用できないのか眉間にしわをよせ、困ったような顔で戻ってきた。これは問題である。まだ出発してから1時間程度しか経っていない。ヤンゴンからモウラミャインまで約9時間。9時間トイレを我慢するのは拷問に近い。
彼女は車掌が通った際、トイレの方を指して使えないことを訴えた。僕の横に立ち、後ろの女性とやりとりしている車掌の様子を何気なく見上げると彼は後ろのオーディナリークラスの車両を指した。後ろのトイレを使えという意味なのだろう。しかし、オーディナリークラスの車両は通路どころかデッキ付近まで乗客で溢れ、トイレまで辿りつくことを想像すると気が遠くなるような状況である。
僕は窓際に置いた1リットル入りのミネラルウォーターを一旦、リュックに入れた。できる限り口にしないでおこうと心に誓ったのである。普段の僕は目の前に置いてあるミネラルウォーターを惰性で飲む傾向にあり、気づくと一日3リットル近く飲む日もある。もちろん、そんなときはトイレの回数も半端じゃない。しかし、今日、そんなことをすれば…考えただけでぞっとした。
駅に止まる度に車内に乗り込んで売りに来る弁当やおやつなどを楽しみにしていたのだが、それもあきらめることにした。早朝出発だったこともあり、ホテルで朝食もとらなかったこともあり、出る前に排便を済ましてきていない。もともと便秘気味の体質なのだが、東南アジアに来ると快調になる。馬のように跳ねる車内で食べれば、すぐに胃や腸が刺激され、すぐ便意をもよおしそうである。トイレの前まで、ぎゅうぎゅうに詰まった人を掻き分け、更にそこで大便をすることを想像すると鳥肌がたった。
そんな僕をよそに、通路を挟んだおじさんの大食漢ぶりはすごかった。弁当を食べ、間食もとり、ミネラルウォーターは1リットルを飲みきり、2本目を購入していた。しかし、僕の見ている限り、彼はトイレに一度も行っていない。僕が眠っている間に行っているのかもしれないが、たとえ行ったとしてもせいぜい一度だと思う。
おじさんを見ていると僕も食べても平気な気がしてきた。いやいや、ダメだろう。その度にもう一人の時間が首を振った。何度も誘惑に負けそうになりながら何とか耐え続けた。
電車の遅れもあり十時間かかったが、結局、一度もトイレに行かなかった。これだけ長い時間、トイレに行かなかったことは人生の中で新記録だと思う。決して自慢できることではないのだけれど。
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