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イシコの歩行旅行、歩考旅行、歩行旅考、歩考旅考

2011-10-23
「自分の街の郷土博物館に行ったことがありますか?(ナコーンパノム/タイ)」

東京は杉並区に住んで4年程、経った頃だった。最寄りの駅でリュックを背負った中年男性から郷土博物館の場所を聞かれた。しかし、自分が住んでいる街に郷土博物館があること自体をその時に初めて知った。そんなことをふと思い出した。

ベトナムの首都名にもなっている元ベトナム大統領のホーチミンは、ナコーンパノムに七年程暮らしていた。ちょうどベトナムがフランスから独立する頃である。彼は、この街の家を拠点にして独立するための作戦を練ったと言われている。
現在、ホーチミンハウスとして開放されているようで、インフォメーションセンターのカウンターには立派なパンフレットまで置かれていた。パンフレットを渡してくれた係員は市場からバスが出ているので、それで近くまで行って村の風景を楽しみながら、ホーチミンハウスまで歩いていくことを流暢な英語で勧めてくれた。

早速、市場に向かう。しかし、バス乗り場がわからない。一応、バスのマークが書かれたバス停らしき場所はあるにはあるが時刻表があるわけでもなく、30分ほど文庫本を読みながら待ってみたが停まる気配どころかバスさえ通らない。

雑貨屋の前に停めて「ソンテウ」(幌付きトラックの荷台にベンチを乗せた乗合いタクシーのようなバス)の運転席で眠っている中年男性が起きるのを待ち、パンフレットの地図を見せる。彼は地図を何度もひっくり返し、隣の運転手も起こして、二人で眉間に皺を寄せたが結局、わからないと言った。更に現れたもう一人の運転手も加わり、三人で地図を見ながら、あぁでもないこぅでもないと言い合う。どちらにしてもこちら側から乗るのではないようで彼らは反対車線に停まっているソンテウを指した。

道路を渡り、ソンテウが二台程並んでいる場所で同じようにパンフレットを取り出すのだが、ここでもソンテウの運転手達はわからないという顔をする。運転手は近くの屋台にいた中年女性に尋ねてくれた。パンフレットの地図と写真を見ながら、彼女は僕に「ホテル?」と聞く。もちろん「ノー」と答える。すると彼女も眉間に寄せて困った顔になる。パンフレットの地図と写真を見ながら、みんなは討論を始めた。地図があるのに互いに指す方向がバラバラというのが面白い。彼女は面倒になったのか、「とにかくあの辺だよ」と言った感じで僕を無理矢理ソンテウに乗せ、運転手に行き先を告げた。嫌な予感がした。十五分くらい走った場所で降ろされたのは周囲には何もないホテルだった。

仕方がなく、トゥクトゥク(バイクタクシー)を捕まえて再び街へ戻った。トゥクトゥクのエンジンの音を聞きながら、地図もあるのに行けない場所があるという信じられない出来事について考えを巡らせる。もし、外国人観光客がよく行くのであれば、きっとそういった情報も地元の人たちに伝わっているはずである。まぁ、元々、この街に外国人観光客は見かけない。となると行く人がいないのだろうか。ましてや地元の人は気に留めたことがないのかもしれない。数年前、僕が杉並区の郷土博物館の場所を聞かれて答えられなかったように。

Ps.後日、仲良くなったインフォメーションセンターの係員が車で連れて行ってくれた。わからなくても仕方ないと思うような民家だった。

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ishiko
ishiko

イシコ。1968年岐阜県生まれ。女性ファッション誌、WEBマガジン編集長を経て、2002年(有)ホワイトマンプロジェクト設立。50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動、環境教育などを行って話題になる。また、一ヵ月90食寿司を食べ続けるブログや世界の美容室で髪の毛を切るエッセイなど独特な体験を元にした執筆活動多数。岐阜の生家の除草用にヤギを飼い始めたことから、ヤギプロジェクト発足。ヤギマニアになりつつある。

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